伝説的名盤のアニバーサリーエディション

ビートルズの名盤『アビー・ロード』2019ステレオ・ミックス発売―ジャイルズ・マーティンが語った制作秘話

公開日 2019/09/27 20:45 本間孝男
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■彼らが自分自身の楽曲を、また全体として聴くようになった

――今回リマスタリング、リミックスをされてみて、何か新たな発見はありましたか?

マーティン そうだね。その答えは簡単なことで、僕にとってのハイライトはいつでも、ビートルズのメンバーに自分のミックスを聴かせるということなんだ。ポールとリンゴのためにプレーするということだよ。というのも、これは彼らの音楽だから、彼らに気に入ってもらえるということが、僕にとっては嬉しくもあり、恐れ多いと思うことでもある。彼ら自身がビートルズなんだ。レコーディングされた音楽の中で最も素晴らしい音楽を作った。自分にはそんな作業をやらせてもらえる価値はないと感じるけれど、その一方で彼らが満足してくれると、それが僕にとってのハイライトとなる。僕はこのプロジェクトに時間、情熱、愛を注いできたからね。

The Beatles, Tittenhurst, August 22, 1969(C) Apple Corps Ltd.

――ちなみに彼らからはどのようなフィードバックがありましたか?

マーティン 素晴らしいことが起こったんだ。彼らが自分自身の楽曲を、また全体として聴くようになった。彼らがミックスを聴こうとするのではなく、全体として自分たちの楽曲を聴くようになったと知った瞬間、僕は自分の仕事は終わったと思ったよ。ポールは僕に「実は僕たちって良いバンドだったんだね?」と言った。僕は「そりゃそうさ」と言ったんだ(笑)。それが嬉しかったね。面白いものなんだが、エキストラについてや、何が正しいと思うか、彼らが公表したいのはどれか、どれが公表するに値しないかということなどを話し合った。それについては、彼らははっきりとした考えを持っていた。我々が収録したマテリアルは、ファンにとっては求められるものだが、それらを公表したくないと感じているかもしれないという考えもある。お金儲けのためだけといった間違った理由で音楽をリリースしないように注意しなければならない。それはともかく、そんなフィードバックをもらったんだ。ミックスに関しては、彼らは大概とても寛容だ。僕は長年彼らと一緒にやってきた。彼らはとても寛容で、忍耐強いけど、それはおそらく僕のことを信頼してくれているからなんだろう。それは嬉しいことだよ。

――きっと長い時間をかけて、そんな信頼関係が築かれたのでしょうね。

マーティン そう、その通りだ。




ビートルズ最後の作品となる『レット・イット・ビー』の英国での発売日は1970年5月8日。来年の2020年5月8日がアニバーサリー。今年と同じように「2020 ステレオ・ミックス」はリリースされるのだろうか。プロデューサーはフィル・スペクターだし、ミックスが行われたのもEMIスタジオ(Abbey Road Studio)ではなくサヴィル・ロウにあったアップルスタジオ。『レット・イット・ビー・ネイキッド』と名付けられた公式リミックスもリリースされている。もし仮にリリースされるとして、またジャイルズとサム・オケールの二人は、リミックスの作業を引き受けるのだろうか。

ジャイルズが昨年来日した際にインタビューをした時は、「リミックスとリマスターについて、それぞれどう思うか」と質問したところ、「リマスターには関心がない。リミックスでなければやらないよ」と率直な答えが返ってきた。ビートルズのマスターをいじれる唯一の人物。今後についても、もちろん期待が高まるが、まずはハイレゾで今回発売された『アビー・ロード』の「2019 ステレオ・ミックス」をじっくり聴いて楽しみたい。

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