『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#8 - かつしかトリオ『SO-DAYONE!』リリース記念インタビュー!
『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第8回
かつしかトリオ『SO-DAYONE!』リリース記念インタビュー
〜入念なグルーヴが光る、ナチュラルでダイナミックなサウンド!
このところ毎日のようにSNSで1980年当時のカシオペアのライブ動画が流れてきます。加えて、その楽曲たちをカバーした“弾いてみた動画”もたくさん。驚くのは投稿者が全て外国の人たちということ。そう、外国の音楽好きの方々はシティポップに続き、当時のジャパニーズ・フュージョンに夢中なのです。
かつしかトリオの皆さんへのインタビューのとき、ご本人たちに“弾いてみた動画”の感想を聞いてみました。
櫻井哲夫さん(以下、櫻井):『ドミノ・ライン』のベース・ソロには、内緒のとこがあるんですよ。僕が最後にちょっと工夫してやったところは、皆さんなかなか完コピできてない(笑)
向谷 実さん(以下、向谷):この前、『テイク・ミー』をコピーした動画で、よりおしゃれになって弾いているのを見ました。ちょっと違うんですよ、そこまでおしゃれじゃなくていいのに(笑)
これだけインターネットが普及して、世界の垣根が無くなったような現代。しかし、もしかしたら海外の皆さんは気付いていないのかも?ジャパニーズ・フュージョンの伝説の3人が未だ現役バリバリで、当時の音楽の焼き直しではなく、新たな音楽創造に燃えているということを。海外の音楽ファンにも広く教えてあげたいけど、日本だけの特権にしておきたいという複雑な気持ちになります。
そんな海外のJフュージョン・ファンからすると神様みたいな、櫻井哲夫さん(Ba)、神保 彰さん(Dr)、 向谷 実さん(Key)によって2021年に結成されたバンドが、かつしかトリオ。その新譜が今年も完成したとの情報が飛び込んできました。もはや本連載の年に一度の恒例行事、その全貌をお伺いすべくインタビューへ行ってきました!
各パートを綿密に構築できる、個別レコーディングの魅力
神保 彰さん(以下、神保):前作『“Organic” feat. LA Strings』(以下、『Organic』)は、向谷さんがピアノだけを弾いていて、ストリングフィーチャーしたロサンゼルス録音でした。かつしかトリオ本来のエレクトリックな感じとは異なり、『Organic』は企画色が強いアルバムだったんです。今回は本道に戻ったという感じです。
最初の曲作りの時は、向谷さんのスタジオで入念に半年近くかけて曲を作っていきました。実際のレコーディングは、あえて各自のスタジオで行っています。僕が最初にドラムを入れて、次に櫻井さんのベース、最後に向谷さんがキーボードを録音。曲によってはキーボードが先に入って、最後にベースを入れました。
前作『Organic』がほぼ一発録りで、ドラムはほとんどワンテイクだったんですけども、やっぱり今回のように時間をかけてじっくり完成度を上げていくという方向も、別の魅力があって良いなと思います。
向谷:結局、我々はライブでは一発演奏のバンドです。LAでの一発録りも含めて、基本的には“せーののドン”で演奏するのが当たり前。今回、あえてレコーディングをバラバラに録ったことで何が起きているかというと、キーボードにはいろいろとやらなきゃいけないことが増えたということでした。自由にレコーディングして時間もゆっくりかけて演奏することの最高の贈り物は、ライブパフォーマンスがすごく大変になるなっていうことなんです(笑)
でもカシオペア時代からもそうなんですけど、かつしかトリオはシーケンスを使わず一発でやるというのはコンサートでは当たり前。レコーディングをバラバラに録っても結果は同じで、最後は一発演奏するということです。
もしレコーディングで演出を多用した多重録音をして、それをライブで演奏したら全然違っていて、「ちゃんと再現できてないじゃん」って言われてはいけないんです。もう間もなく始まるライブで、バラバラにレコーディングした楽曲たちが、どんな風にちゃんと実現できるか。それは我々の楽しみでもあるんですよ。一つ一つ乗り越えていかなきゃならない課題がある方が大事なんじゃないかな。
バラバラのレコーディングは、神保さんがすごく時間をかけて録った曲もあったぐらい面白かったですよ。 私のところに録った音が来るのは 2番目か 3番目。曲によっては、「神保さんがこんな叩き方するんだ!」っていう、予想だにしないテイクがあって。
神保:早いもの勝ち!
櫻井:最初のデモテープの段階で緻密にアレンジされているんですけど、やっぱり生の演奏じゃないので。生楽器になるとアプローチが変わり、そうするとグルーヴも変わるんです。最初に神保さんがグルーヴの土台を作っちゃうから、それありきの話で進んでいく。すごく楽しい作業ですよね。
向谷:早いもの勝ちだよね、本当に。だって楽器で早くレコーディングできるのって、ドラムしかないじゃないですか。
櫻井:やっぱり最初にドラムやってほしいですね。後でドラムが変わると困っちゃう。
向谷:上物を作ってからだと、多分ドラマーは嫌だと思いますね。だから最初にどしっとリズムの土台を作ってもらって。いろんな解釈があって面白かったですよ。だってキーボードは完成を待っている方じゃないですか。さあ、どんなドラムが来るんだろう、どんなベースが来るんだろうって、ワクワクして待っていましたね。
櫻井:個別のスタジオでバラバラに録音する良さっていうのは、向谷さんはたくさんの音色があるから大変だと思うんですけど、ベースの音色はひとつだけ。シンプルなんですけど、自宅スタジオでやることによってグルーヴの作り方を突き詰めていくことができて、音価の微調整を確認しながらできるのが魅力です。
カシオペア時代や前作のLA録音での一発録りの良さは、もちろんあります。個別スタジオの録音では、一発録りとは違うもっと深いところのグルーヴ作りに自分を追い込めるという、やりがいがあるんです。
ドラムと絡むと同じ四分音符も違ってきて、美味しいグルーヴ感が得られるよう音の長さをどこに着地させたら良いかと、時間をかけて悩むわけです。これはホームスタジオならではの作業。綿密なグルーヴというコンセプトで今回レコーディングできたのは、LA録音の前作とメリハリがついて良かったなと思います。
向谷:ベースは攻めてますよ。あのフレーズを、あのコードで、ああ弾くんだと。ちゃんとベースが攻めきれているから、その音をもらった後のキーボードが大変なんですね。そんなキャッチボールが面白かったです。
──向谷さんの弾くシンセブラスが魅力的です
向谷:シンセブラスは、ヤマハGS1(※世界初の商用FM音源を搭載した、ヤマハの伝説的な1号機デジタルシンセ)を借りて弾いているところもあります。ボコーダーも3曲入っていますし、80年代の楽器と現在の楽器をミックスしました。 確かにシンセブラス系って、当時バリバリ演っていたよね。今回シンセブラスは多いですよ。
神保氏自らが録音した、すっぴんのドラムサウンドが素晴らしい
──神保さんが時間をかけてレコーディングしたという曲は?
神保:一番時間がかかったのは8曲目の「Black Ice」ですね。ドラムをレコーディングして一応は形にはなったんですけど、翌朝になって聞いてみると「もっといけるんじゃないか」と。それが自宅録音の良さというか。
向谷:「Black Ice」は一番データが届かなかったよね。いつも数十分で録音が終わる神保さんが2日ぐらいかかっているから、なんだかヤッターみたいな感じ(笑)。あの曲はベースも大変だったんだよね。
櫻井:大変ですね。 左手のローポジションでずっと動くフレーズが 1曲通してなので、握力が鍛えられました(笑)
向谷:ドラムがエースみたいな曲なんだけど、ベースはローDで弾いてもらって、ローDとローCでずっと演奏するというのは、6弦ベースとはいえベーシストとして一番大変だろうなと思って。
──10曲目「TanTan」のリズムはドラム的にどうなっているのでしょう?
神保:タンタンというのは向谷さんの愛馬の名前なんです。馬って歩いているときは4拍子で、走ると3拍子的になるんです。4拍子と3拍子が混ざった感じの面白いリズム・パターンになっていると思います。
向谷:デモテープの段階ではピアノとベースのシンプルな曲だったので、どんなドラムが来るかなと思ったら、僕もびっくり。馬のヒヅメの音からオーバーラップした時に、今度は神保さんがヒヅメをやってる!
神保:あのリズムは譜面にはなるとは思いますが、4つで割っているところと 3つで割っているところが混在しているので、なかなか譜面にはしづらいかもしれないです。
──ドラムの音が生々しく、良い意味で若々しいサウンドに感じました
櫻井:やったー、若返った!(笑)
神保:バナナ・スタジオ(※神保氏のプライベート・スタジオ)でドラムが録れるなと思ったのは、やっぱりLA録音でのドン・マレーさんとお仕事したことが大きくて。驚くほど何にもしなかったんですよ、ドンさん。 何か秘密のフォーミュラみたいなものがあるのかなと思って観察していたんですけども、驚くほどオーソドックスだったんですよね。
だったら、ウチにはあまり機材はないですけど、マイクでドラムのすっぴんの音を記録して、エンジニアにそれをブラッシュアップしてもらうという方法だったら、バナナ・スタジオも捨てたもんじゃないなと。
向谷:捨てたもんじゃないどころか、本当にすっぴんのバナナ・スタジオの音が素晴らしくいい。だって、そのバナナで録った音を聴いて、次に僕たちが演奏するわけじゃないですか。
──ミックスのエンジニアは?
神保:上甲敬太くんという、ドリカムのツアーで一緒だったエンジニアさん。僕のアルバム『34/45』でやってもらいました。ドリカムのツアーに参加したことも実はすごく大きくて。アリーナで演奏すると、ドラムをバーンって叩いたら、それはもうバーンって会場中に音が広がっちゃうんですよ。その時のエンジニアの人が、シンバルをものすごい至近距離で録っているんですね。シンバルを至近距離で録らないと、会場の鳴りが入ってしまい全部音がぼやけてしまう。
シンバルを至近距離で録ると、シンバルって叩くと揺れて動くから、フラッターが出ます。シンバルの揺れている位置で録ったらフラッターが起きるけど、至近距離での録る位置によってはシンバルとマイクの距離が変わらないから近づけることができるというのをその時に発見したんです。
バナナ・スタジオって全然響かないデッドの極致なので、マイクを離して録ると部屋のデッドな感じが出てしまう。そこで、思いっきりシンバルにマイクを近づけてオンの音を録る。ドリカムのツアーを経験したことによって得たノウハウのひとつなんです。
6弦ベースの音は、ミッドの密度が大切
──ベースもすごく良い音です
櫻井:ベースも超シンプルに録音しました。今までは自宅で録る時は、アバロンのダイレクトボックスを使っていたすけど、今回はニーブのコンソールを使用したLA録音の後だったので、やっぱりニーブがいいなと思って。ニーブのインターフェース88 Mを使いました。
あとは、派手に演奏する曲が結構あったんですけど、あえてベース内蔵プリアンプを使用せず、パッシブでやってみようかなと思って。肌触りをモータウンみたいにとうか、タッチセンスが出るような感じの、できるだけナチュラルにという狙いです。
ベース本体は、LA録音と同じヤマハの6弦ベース。LAではアクティブで録音しましたが、その後のツアーでパッシブでも結構いけるなと思い、今回はパッシブです。
ちょっとマニアックな話になりますけど、ベースのセンターフロントのピックアップをシングルコイルにして、リアピックアップをハンバッカーの並列にして、ちょっとリア寄りにしてやると今回のような音になるんです。パッシブならでは音の太さも出ているかなと思います。
もちろんケーブルはいつも使っている西野さんのところのレクスト・ケーブルですよ(笑)。レクスト・ケーブルの最新バージョン、いいですよね!不必要にローが強すぎず、大切なミッドの音域がすごく良い。
ミッドの密度。これが結局、一番大事。今のセッティングでは、ハイパス・フィルターで40Hz以下の30Hzから35Hzあたりで切っているんですよ。40Hz以下あたりで切って、その後のエフェクターやPAに送っています。バーンというところを最初からなくしていますが、50、60、70Hzがしっかり出てますから大丈夫なんです
音が前に出てミッド表現が素晴らしいレクスト・ケーブル、引き続きよろしくお願いします(笑)
ミックスダウンでは楽器のナチュラルな感じの肌触りを重視
──レコーディングのフォーマットは?
向谷:96kHz/24bitです。48kHz/32bitを使う人も多いみたいだけど、私たちにはよく分かってないかも。
神保:もうすぐ古希の方がいらっしゃいますので(笑)
向谷:音が聞こえすぎないもんね(笑)
──音を聴いても、波形をみても、そんなに音圧をガツガツ突っ込んでない音が好印象でした
向谷:エンジニアの上甲さんにお任せで最初に届いたミックスが、今風の音圧を結構突っ込んだ音だったんです。これはバランス的にやりすぎかなと感じたので、上甲さんにいろいろお願いをしました。
最終的に完成したのがこの音で、おっしゃるようにそんなに上まで突っ込んでない、ダイナミックな音に仕上がっています。いくらデジタル系のキーボードの音であったとしても、曲の色々な良さみたいなものを出してくれるのにダイナミクスは必要ですから。
櫻井:最初のトラックダウンの段階が、Jポップのようなガッとパンチがある感じだったので、もうちょっと楽器のナチュラルな感じの肌触りになるといいですねって話をしたら、こういう形のサウンドに仕上がりました。
──マスタリングのエンジニアさんは?
神保:上甲くんがミックスだけでなくマスタリングまで一貫してやってくれています。
上甲くんはトラックダウンする時に、ある程度マスタリングを想定してラフにマスタリングして送ってくれるんです。だから最終形が割と見やすいです。
──前作のLA録音による超豪華な一発録りサウンドも最高に美味でしたが、今回の新作も美味しく楽しんで聴くことができました
向谷:まさに「SO-DAYONE !!」って感じですね!
筆者プロフィール
西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST”チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍 『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』 (リットーミュージック刊) の著者。世界トップ・ベーシストたちのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追求する。
























