『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#3 - 神保 彰 『34/45』リリース記念インタビュー!
『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第3回
『34/45』リリース記念!神保 彰 インタビュー
〜高音質ハイレゾの常連作品の集大成は、東京・LA・NYの豪華ゲストが参加!
■神保 彰と角松敏生、夢の共演が再び!
本連載では、角松敏生さんを第1回、かつしかトリオの皆さんを第2回で取り上げました。その、かつしかトリオのドラマーである神保 彰さんが、45周年記念アルバムを制作し、なんと1曲目のギタリストとして角松敏生さんを起用との情報が飛び込んできました。これは、この連載で取り上げるべき運命!?
神保さんのソロ作品は、本連載の前作となる10年続いた『太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』で最多の登場。潤沢な予算での音楽制作が難しくなっていく昨今、LAやNYのミュージシャンとの共演、そして海外エンジニアの起用という群を抜く作品クオリティーと高音質からの選出でした。今では “神保 彰ハイレゾ=高音質” という認識が深まり、リファレンス音源として活用しているオーディオ評論家さんがおられるとか。
そして何より神保作品の大きな魅力は、当然ながらドラムを “世界の神保” が叩いているということ。真っ先に制作費コストダウンの標的とされる生ドラムの起用。打ち込みドラムが当然の現代作品群で、神保さんの生ドラムを海外レコーディングで聴けるというのは、もはや当時の正月恒例行事。痺れるサウンドと出会えた新年早々の作品群には感謝しかありません。
今回の神保さんと角松さんの共演は、ジンサクの『DISPENSATION』と、角松プロデュース作『CHIAKI』の「Flow of Desire」以来。両氏のファン歴40年超えの私としては、盆と正月が一緒に来たくらいのビッグ・ニュースです。かつしかトリオの東京国際フォーラムでのツアー千秋楽を終えた数日後、神保 彰さんにインタビューさせていただきました。
■ボーカリストではなく、ギタリスト角松敏生を起用!
─── 私の知る限り、角松さんが自身の作曲やプロデュース作でない楽曲にギタリストとして参加したのは、初めてではないでしょうか。
神保:ええっ、そうなんですか? 角松さんは歌だけでなくインストのアルバムも作っていまして、ボーカリストが弾くギターって、ちょっとした歌いまわしが楽器奏者と少し違うんです。それがずっと心に引っ掛かっていて、いつか自分の作品で弾いてもらいたいなと思っていました。
95年に、ジンサクのアルバム『DISPENSATION』を角松敏生さんにプロデュースしてもらいました。そのアルバムを僕もすごく気に入っていて、今でもときどき聴き返すくらい良いアルバムです。それから角松さんとは音楽的な接点というのは無かったんですけれども、4月に日本橋の三井ホールで僕の45周年ライブがあるので、最初は角松さんにライブのゲストとして出てくださいとオファーしました。
たまたま角松さんも45周年で、角松さんの横浜アリーナが6月で、自分のライブが4月なので、スケジュールが近かったのですが、調整してくださりご快諾いただきました。だったらアルバムでも1曲弾いていただけませんか?という流れになったんです。
1曲弾いてくださいとお願いするにあたって、やっぱりどんな曲か分からないと返事のしようがないだろうと思って(笑)。角松さんにギターを弾いてもらうことを想定して、この1曲目の「Mid Summer Shuffle」という曲を書いたんです。僕が思う角松さんのギターみたいな感じが上手く出せたと思います。
曲タイトルも先に決めて、デモと譜面をお送りして、これを弾いてもらいたいんですとお願いしたら、これもご快諾いただきました。
「Mid Summer Shuffle」は、バッキングギターも角松さんです。バッキングまではお願いしていなかったのに、角松さんから録音データのトラックがいっぱい帰ってきて(笑)。バッキングが3トラックとメロディーソロのトラックと、ハーモニーのトラックと、全部で5トラックくらい送られてきました。しかも「ガチでミックスしました」って、ミックスも角松さんがしてくれたんです。
そのミックスも凄く良かったんですけど、ドラムの音など自分のイメージもあったので、角松さんのミックスを参考にして、もう一回こちらでミックスし直しました。そうしたら角松さんにも、そのミックスを凄く気に入ってもらえて。「これは誰がミックスしたの?」と聞かれたので、ミキサー情報などお伝えしました。
■ミックスは、ドリカム・ツアーで出会った若手エンジニアを起用!
─── 新録曲のミックスとマスタリングのエンジニアさんは?
神保:今回のアルバム『34/45』の全曲書き下ろしdisc4は、全て同じミキサーさんです。ドリカムのツアーでマニピュレーターをしている、40代前半の上甲敬太くんというエンジニア。僕からすると、ずいぶん若手(笑)。
ドリカムのマニピュレーターだけでなく、菅田将暉さんのアルバムなどレコーディング・エンジニアとして活躍中です。僕がドリカムのツアーを去年と今年に参加した半年間一緒にツアーして、すごく人柄も良くてコミュニケーションがしやすかったので、次は上甲くんにお願いしようと思っていました。
新録曲のマスタリングも上甲くんです。CD盤のDisc1からDisc3の過去作は、キング関口台スタジオの吉越晋治さんのマスタリング。といっても、ほとんど音質的には触っていません。曲間とPQエンコード作業を行ってもらいました。音質補正は行わず、音量感のみ若干の調整を行っています。CD盤の過去作のマスタリングは本当に微調整のみで、基本的にはそれぞれの作品の音のまま収録しました。
■レコーディング・エンジニア神保 彰のデビュー作!?
─── 新録曲はドラムの音が生々しく、しかもドコドコドコという手と足のコンビネーションによる早いパッセージでも音の粒立ちが良くて、オーディオで楽しむにも魅力的なサウンドに感じました。ドラムは、どのようにレコーディングされたのでしょう?
神保:ドラムはバナナスタジオ(※神保氏のプライベートスタジオ)で、自分で録ったんです。僕はEQとかコンプとかエフェクトの知識があまり無いので、とりあえずマイクを立てて、何もしない素の音そのままをミックスの上甲くんに渡して、その後の音作りをしてもらいました。
マイクはそれなりの本数を立てています。普通のスタジオでドラムをレコーディングするのと同じくらいのマイク本数です。今回、すごくドラムの音が気に入っていて、良く録れたと感じています。
バナナスタジオにもマイクのコレクションが増えてきたんです。気になるマイクをちょっとずつ買い足して、だいたいレコーディング・スタジオにあるようなマイクは全部揃っています。
何曲か録ったことはあったのですけど、バナナスタジオでドラムを本格的に録音してアルバムトータルで作品に残すというのは初めてです。バナナスタジオで自分でドラムを録音して、どのくらいのクオリティーになるのかというのも、今回の検証事項として大きなポイントだったんですけど、結果としてすごく満足しています。
■神保 彰流、ドラマー目線からのマイクセッティング
─── ご自身でのレコーディングということで、ドラマーならではのマイクセッティングがあるのでしょうか?
神保:エンジニアというのはドラムの外側からマイクを立てますよね。僕はそのマイクの立っている位置を内側から見てきました。それこそ、いろんなエンジニアの立て方を見てきているので、どうやってマイクを立てたら良い結果がでるのかが、なんとなく経験で分かっています。
バナナスタジオは全然響かないんです。例えばオーバーヘッドのマイクをドラムから離して遠くに立てても、スタジオがデッドなので部屋自体の響きがない。そこで、なるべくマイクを近くして、間接音が入ってこない直接音を録るようにしたほうが良い結果になるだろうなと思ったんです。
ドリカムのツアーで回ったときは会場がアリーナ。そうすると、ドラムを叩くとバーンと響くんです。その時のミキサーの方が、オーバーヘッドのマイクをものすごくシンバルの近くに、それこそ20cmくらいの近さで立てていたんです。
シンバルは揺れるから、近づけてマイクを立てるとフラッターが起きてしまう。こんなに近くにマイクを立てて大丈夫かなと思ったんですけど、シンバルの揺れを考えてマイクの角度を工夫して立てることで、マイクとシンバルの距離が変わらずフラッターが発生しない。
そこで僕もバナナスタジオで録るときに、その立て方をやってみたんです。オーバーヘッドは普通のスタジオ録音に比べると極端に下げて録ったんですけど、それが良い結果につながりました。
45年のキャリアの中で、ドラムセットの叩く側から見てきたマイクセッティングが、知らないうちに自分の中で培われてきたのかなと感じています。
■東京、ロサンゼルス、ニューヨークの三大都市から豪華ミュージシャンを起用!
─── 角松さんの他にも、新録曲ではフィーチャリングという形で豪華ミュージシャンのクレジットが目白押しです。
神保:ドラムは最初に入れておきました。自分でバッキングトラックを作って、そこにドラムを録音して、オケとして完成している音源をミュージシャンの皆さんへ送ってソロパートやバッキングを演奏して録音してもらっています。
ピアノのオトマロ・ルイーズは旧知の仲で、僕のソロアルバムの常連です。参加してもらった楽曲が圧倒的に多く、6割か7割の作品で弾いてくれています。今回の新録でもピアノとローズをお願いしました。
武藤良明くんはジンサクのギタリストでした。96年にジンサクのギタリストのオーディションをしたときに、武藤くんのリズム感が一番良かったんですよ。当時まだ彼は音楽学校の学生で21歳だったかな。プロの世界へ引き込んだ張本人が僕です(笑)
ジンサクのあとは接点が無かったんですけど、去年と今年のドリカム・ツアーで武藤くんは今やドリカムのバンドマスター。半年間一緒にツアーして楽しかったし、ギタリストとしても素晴らしいなと思ったのでお願いしました。3曲目の武藤くんのギター、ファンキーでカッコイイですよね。
Gaku Kanoくんは、まだ芸大の学生さんで、22歳かな。本格的な音楽活動は来年4月に学校を卒業してからになるんですけど、もうアルバムを1枚作っていて。そのトレーラー映像を僕の妻が見つけて、こんな面白い人いるよって教えてもらいました。その映像も良かったし、彼のアルバムを検索して聴いてみたら、本当に素晴らしい感性。すぐにDMして、ギターの鳥山雄司くんとやっているユニットのピラミッドで一緒に演ってみない?って誘ったんです。
ここ1年半くらい、ピラミッドのライブでは毎回Gaku Kanoくんに弾いてもらっています。そのときはキーボードですけど、本業はドラマーなんです。ドラムもすごくイイ感じで、しかも彼のソロアルバムでは全ての楽器を一人で演奏した多重録音で、ほぼ一人で作っているんです。彼の演奏するボコーダーは、声でもないし楽器でもないし不思議な感じです。
オズ・ノイはニューヨークのギタリスト。自分が音楽制作の舞台にしていたのは、東京とロサンゼルスとニューヨークなので、全ての街の人に関わってほしいなと思い、ニューヨーク代表でオズにオファーしました。
Opus De Drumsの2曲は、feat.Akira Jimbo。クラシックの世界では良く使われる “Opus” は作品という意味のラテン語で、今回は#1と#2ですけど、今後は#3、#4、#5、#6と続いていくんじゃないかなという気がしています。この2曲は、ドラムのパターンを最初に作って、そこから積み上げて作りました。
僕は曲を作るとき、メロディーやコード進行といった曲の上の部分から作っていくことが、ほぼ9割、ひょっとすると10割ですけど、その2曲は面白いドラムのパターンが最初にあって、それに対してベースはどうしようかな? その上に被せる音はどうしようかな? という形で、下から積み上げていきました。
■ドラムの音はハイレゾが魅力的!
─── ハイレゾで『34/45』を聴く皆さまへメッセージをお願いします。
神保:サンプリング周波数よりビット数による変化のほうが圧倒的にドラムの音への影響があるなと感じています。聴き比べると如実に違いましたから。自分の方へ向けて音が飛んでくるというのは、やはりハイレゾならではの魅力があると思うので、ぜひ聴いてみてください!
筆者プロフィール
西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST” チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。世界トップ・ベーシストたちのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。
