『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#7 - SLAK 1stアルバム『SLAK』レビュー!スウェーデン×日本の強烈ミュージシャンによる札幌レコーディング
『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第7回
SLAK 1stアルバム『SLAK』レビュー
〜スウェーデン×日本の強烈ミュージシャンによる札幌レコーディングが、ハイレゾで生々しく再現された!
何か良い新譜は無いものか?と探していると、コバズ担当者さんから「ドラマー川口千里さんが参加した新バンドがありますよ」との嬉しい情報が。川口千里さんとは直接の面識はありませんが、実は何度も間近でお見かけしたことがあるのです。
私はオーディオ製品だけでなく、世界で活躍する著名ミュージシャンの楽器ケーブルも開発しています。仕事柄、ライブ前のリハーサルで、実際に新型のケーブルをテストしてもらうことも。そんなとき、様々なドラマーの生音を聴けるのは、私の密かな愉しみでもあるのです。
世界的ドラマーの神保 彰さんは、「もう終わりなの!?」と驚くくらい、リハーサルでは極端にドラムを叩かないタイプ。とある著名フュージョン系ドラマーさんは、黙々と音の鳴らないドラム練習パットでウォーミングアップされていました。
では川口千里さんは?というと、リハーサルで長くドラムを叩くタイプです。一般的なプロ・ドラマーの平均と比較して、私の体感で倍の時間は叩いているという印象。練習している、ウォーミングアップしているという感じとは少し違い、会場の鳴りとドラムの鳴りを融合させるのに時間を割いている。違うかな?今度、川口さんにお会いする機会があれば、ぜひ尋ねてみたいと思っています。
というわけで、川口さんのドラムは超至近距離でたっぷりと生の音を堪能した経験値がありますので、マイクを通して最新レコーディングされたサウンドがどういう仕上がりなのか、しかもそれをハイレゾで聴くとどんなサウンドなのか。川口さん加入の新バンドに興味津々です。
早速ご紹介いただいたSLAKを聴いてみました。これがもう大当たり!
ハイレゾで聴きたくなる2つのオーディオ的な衝動
ハイレゾで音楽を聴きたい! この衝動には2つの源流があると思います。
ひとつは、大好きなアーティストや愛聴盤を、少しでも良い音で聴きたい。もうひとつは、オーディオ最高峰のパフォーマンスを体験したい。
モータースポーツに例えるなら、最高速チャレンジみたいなものでしょうか。時速300kmオーバーの世界観って、どうなの?趣味としてのオーディオにとって、なんともワクワクするチャレンジのひとつではないでしょうか。
SLAKのハイレゾは、フュージョンというジャンルに深い興味がなくとも、ハイレゾ再現の挑戦として有意義なタイトルだと感じました。ジャズ・フュージョンの予備知識や専門知識がなくとも楽しめる音楽です。
ハイレゾの魅力は超高域だけじゃない
ハイレゾの優位性はどこにある? オーディオ教科書風に答えると、『CD規格では収録されていなかった20kHz以上の超高域が記録再生できるところ』となるのでしょう。
私は、プロの音楽制作現場の機材開発を行い、良い音への追求をエンジニアさんと一緒に切磋琢磨してきた経験があります。SACD盤の音源を制作するスタジオを運営していた時期もあります。そういった経験値からすると、ハイレゾの魅力は超高域だけでは無いと言い切れます。
どうしても、オーディオ好きの人がハイレゾを聴くとき、超高域に着目してしまいがち。そうすると、音の作り手側のエンジニアも、超高域が輝いているっぽい音作りをしてしまう。こういった良くない循環が、ハイレゾ創成期のサウンドには見受けられました。
ハイレゾの真の魅力とは “器” です。私たちの大好きな音楽を記憶する器が、従来のCDやレコードよりも、とてつもなく大盛りである。音楽の食いしん坊である我々としては、ハイレゾはこの上ないメガ盛り音源なのです。
SLAKの音楽をハイレゾで聴いてみてのファーストインプレッションは、「これはオーディオで鳴らし甲斐のある音源だ!」でした。ハイレゾだから “高域のEQスパイス強め” といったような意図は皆無。CDやレコード盤の制作に使用されるくらい更に上流の音源と言えるハイレゾの面目躍如。瑞々しくも骨太のサウンドが楽しめます。
エンジニア 木村正和氏による生々しい録音!
このSLAKのアルバムは解説によると、“2025年9月に行ったお披露目ツアーは全公演ソールドアウト。本作は、そのツアー終了後に札幌のレコーディング・スタジオで録音されました” とのこと。なるほど、スウェーデンと日本の凄腕ミュージシャンがライブを行い、その勢いのままレコーディングに突入した。それが札幌とは興味深いです。
では録音エンジニアは? コバズのページで “i” マークを押してインフォメーションを表示させると、クレジットに “Masakazu Kimura, RecordingEngineer, MixingEngineer, MasteringEngineer” という記述が。録音とミックス、そしてマスタリングまで、日本を代表するエンジニアの木村正和氏とは! 流石のサウンドと納得せざるを得ません。
レコーディングに使用されたのは、札幌の芸森スタジオ。世界に4台しか存在しない貴重なSSLミキシング・コンソールが設置されている、天井高7.5mの広々とした空間が魅力的なスタジオです。
お披露目ツアーの最終日が札幌だったことからの、ライブの勢いそのままでの札幌レコーディング突入。10曲の録音をたった2日で完成させたことから、そしてハイレゾで実際に聴いた生々しいアンサンブルからも、おそらく一発録りに近いスタイルでのレコーディングだったのではないかと想像できます。ミュージシャンごとに多重録音していくスタイルでは、この勢いあるサウンドを生み出すのは困難ですから。
ハイレゾで楽しむ、SLAKの聴きどころはこれだ!
ハイレゾでSLAKを聴いて驚かされたのは、私が様々なリハーサルで体感してきた川口千里さんのドラムが見事に再現されること。それこそ手でドラムセットに触れることができるくらいの超至近距離で聴いた、あのドラムの音。その記憶が蘇ってくるのです。さすが、川口さんの音を長く録り続けているエンジニア木村正和氏ならではのサウンド。
そのテクニカルなドラムと渾然一体となって押し寄せてくるのが、ヘンリック・リンダー氏のグルーヴィーなベース。しっかりとオーディオのセンター音像で土台を形成し、グイグイと押し出してくる。
ビョーン・アルコ氏のサックスも歌う、歌う! スウェーデン×日本の凄腕ミュージシャンの融合が、本当に高い次元で成功していると感じます。このサックスとベースは、日本のミュージシャンでは聴けないタイプのサウンド。その証拠に、SLAKの音はJ・フュージョンに聴こえない。2人もJ・フュージョンの代表的ミュージシャンが参加しているにも関わらずです。
面白いことに、川口さんのドラムと白井アキト氏のキーボードだけでスタートした曲は、まるでJ・フュージョン。そこに歌うサックスとグルーヴィーなベースが加わると、途端に化学反応を起こしSLAKサウンドになるのですから不思議です。
サックスのビョーン・アルコ氏は、J・フュージョンのお家芸とも言えるウインドシンセの演奏も1曲で披露してくれています。この演奏が良い意味で日本のフュージョン楽曲ぽくなくて良い。NuRAD(ニューラッド)という最新モデルのウインドシンセなのに、そのサウンドはまるでアナログ時代のウインドシンセを彷彿させるような、暖かでエモーショナルな音色。サックスと合わせて、ウインドシンセのパフォーマンスも必聴です。
オーディオとして、そしてハイレゾならではの聴きどころというと、やはりドラム・ソロ。他の楽器の音が無いことから、ハイレゾという器の全てをドラムの音だけで占有できる。単独楽器のみを記憶するという特化型録音の状況が、ドラム・ソロでは体感できるのです。ダイナミクスやシンバルの切れ味、深いフロアタムの響き、スネアドラムのアタック、そしてキックドラムの腹にくる衝撃。オーディオ好きとしてはたまらない音の洪水です。
ハイレゾをスピーカーでガツンと鳴らせるイベント開催の暁には、このSLAKもまた鳴らしてみたいハイレゾ音源の筆頭に加わりました!
筆者プロフィール
西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST” チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。世界トップ・ベーシストたちのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。






































