公開日 2016/12/22 11:10

GIGA MUSIC独占先行配信!ハイレゾで歌謡曲の懐の深さに包まれる「新沼謙治全曲集 ふるさとは今もかわらず」

連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
新沼謙治の歌手魂がハイレゾの高解像度で浮き彫りに

ハイレゾリマスターの改善効果は非常に大きい。代表曲「嫁に来ないか」、「ヘッドライト」はミックスからやり直した?と思わせる変貌ぶりだ。全曲通じてハイレゾの音空間拡張で演歌に多い音の壁で塗り潰したような平板さが消え、楽器の分離が生まれ音場に立体感と奥行きが生まれたことがうれしい。新沼謙治の声の描写のフォーカス感が増し、ふるさと歌謡を歌う時の音程から天性の音感が伝わる。演歌の時の声の高まりのスムーズさと迫力は24bit拡張効果がてきめんに奏功している。それでは全16曲から代表的な10曲を選びCD44.1kHzとハイレゾ配信96kHz/24bitで比較してみよう。

なお、本タイトルは一部の楽曲において、日本コロムビア・マスタリングスタジオが新たに導入した「ORT Mastering」によりアップコンバートしている(ORT Masteringの詳細はこちら)。以下、ORT Masteringを使用した楽曲には(ORT使用)と表記。

トラック01「ふるさとは今もかわらず(シンフォニックVer.)」(ORT使用)


フルオーケストラに児童合唱が加わった大編成。CDも高音質だが、ハイレゾの広大な音空間で合唱に水平方向の包み込むような広がりが生まれ、パートの分離も明瞭化した。帯域の拡大で合唱のハーモニーから生まれる倍音が音場高く舞い上がり瑞々しい。新沼のソロも合唱との対比にリアリティと臨場感が生まれステージ中央に等身大ですっくと立つ。

トラック02「古里はいいもんだ…」(ORT使用)


CDは歌謡曲らしい艶のある美音だが、ストリングス等にやや折り返し歪みのようなデジタルノイズが纏わり付く。ハイレゾは新沼の声が高々と定位しバックグラウンドノイズが消えて音場に深い奥行きがある。CDは新沼の声がやや拡散・膨張気味だが、ハイレゾは引き締まって声の肌理とニュアンス、発声が鮮明で声帯や胸郭の使い方が見えてくる。歌手・新沼謙治の唱法の秘密に肉薄する解像力。

トラック03「おもいで岬」


デビュー曲。リズム楽器+エレキギター+ストリングス、クラリネットの比較的こじんまりした編成。録音が最も古く、CDは音場の明澄度があまり高くない。帯域も狭い。楽器が歪みがちでドラムスのスネアの打撃の輪郭が甘く切れがない。フルートのオブリガートの定位が散漫な旧弊な歌謡曲録音に止まる。ハイレゾリマスターで大躍進、新沼の声がヴェールを二枚か三枚剥いだように肉声感が現れ前面に出て力強い。クラリネットの音色が鮮度と鋭さを取り戻し小編成らしい和気あいあいとしたふるさとアンサンブル。

トラック04「陽だまりの町」(ORT使用)


CDはふくらみがあり艶やかな暖色系の美音。これはこれで悪くないが、歌と演奏のリアリズムがない。ハイレゾリマスターのノイズシェービング効果でバックグラウンドノイズが消え音場に透明感と奥行きが生まれた。ハイレゾは音場の色付きが消えナチュラルバランス。各楽器の本来の音色と質感を取り戻し、トランペットやマンドリンのオブリガートに生彩があり「歌」の存在感。

トラック05「嫁に来ないか」


1976年のレコード大賞新人賞受賞曲。CDは鮮度という点では頑張っている。しかしナロウレンジで音が痩せていてリズムセクションが引っ込んでいる。トランペット、エレキギター、そして新沼の歌がセンターに集中して解れずモノラルのような平板なバランス。代表曲の一つだ。単独でダウンロードするファンも多かろう。その分注力したのか、ハイレゾになって再吹き込みしたかのような音質の劇的改善を果たした。

音場が解れて楽器群の分離が目覚ましく改善、ステレオフォニックな広がりが生まれストリングスも量感と艶を取り戻した。CDで遠慮気味に聞こえたエレキベースは日本コロムビアのミュージシャンらしい太く弾力的な響きを取り戻し、演奏陣の確かな伴奏に乗って新沼謙治が本来の明るく艶のある美声ではつらつと恋愛讃歌を歌い上げる。

トラック06「今きたよ」(ORT使用)


昭和のふるさと風景を追想する歌。新沼と児童合唱がユニゾンで歌うフレーズが多くエフェクト(リバーブ)を効かせてノスタルジックでドリーミーな音場を演出している。素朴な曲調ゆえに素直にてらいなく歌うことが必須。新沼謙治の音程の確かさが如実に伝わる。CDも美しいがハイレゾは児童合唱から新沼のソロが心地よく分離して浮かび上がりバック演奏と重層的な音空間を生み出し時間の扉が開かれる。ここまでが「ふるさと歌謡」。

トラック07「ちいさな春」


ここからトラック14まで演歌歌手・新沼謙治の本領発揮。演歌を聴く面白さは、こぶしを効かせた歌だけでなく多彩な使用楽器が生み出す濃い音作りにある。CDでストリングスの厚い響きに埋もれ気味だったアコギやマンドリンの繊細な響きがハイレゾでくっきり浮かび上がる。音は厚いがハイレゾは響きが澄明で奥行きがあり「壁」にならない。懐の深い演奏の中心に切れ味のいいこぶしを効かせ新沼謙治がすっくと立つ。

トラック10「ヘッドライト」


新沼謙治の演歌代表曲。一見彼のキャラクターに似合わない負け犬カップルの逃避行の悲哀を歌う。CDは演奏トータルの響きが平板でLchの金管楽器アンサンブルが潰れて飽和気味。ドラムス、シンバルの音が引っ込んで埋もれている。ハイレゾは一転して大躍進。水平方向に包み込むような音場の広がりが生まれ、ストリングスに艶が、ベース、ドラムスのリズム楽器に重量感が生まれ、シンバル、ブラシワークも目に見えるように生々しい。新沼謙治の歌に肉声の力強さと寄り添う近さが生まれ、これなら一緒に逃げるのも悪くない!?

トラック15「津軽恋女」


ふるさと歌謡をベースに演歌の侠気ある歌唱をハイブリッド。新沼謙治の新境地。シンセサイザー中心の演奏にエフェクトを多用し冷え冷えと幻想的な音世界を作り出したアレンジが見事。ハイレゾは音場が大幅に進展、音空間が数倍拡大し曲想通りの雄大なスケールが生まれ、新沼謙治の歌が深山のこだまを従えたかのように宙空に解き放たれたゆたいしなやかに息づく。見事なハイレゾリマスターだ。

トラック16「大雪よ」(ORT使用)


大雪山をテーマにした自然讃歌。ルーツのふるさと歌謡に回帰しながら欧米ポップス調の品格あるフルオーケストラアレンジで、ふるさとローカルが日本人全ての心象風景へと飛躍を遂げたバラード。CDも美しく音場スケールに不足はないが、ハイレゾは天地方向の音場の広がりが違う。大雪山の頂を見つめる新沼謙治の歌が高々と現れ、オーケストラの各パートの分離が鮮明になり音色を増し、リスニングルームが艶やかで清冽な響きで豊かに満たされる。エンディングにふさわしい素晴しいリマスター。

  ◇  ◇  


フェイス・ワンダワークスのハイレゾ配信「ふるさとは今もかわらず」全曲で、新沼謙治の歌唱の確かさ、歌い口の変化、朴訥さと一体のしたたかな技巧を実感できる。つねに楽曲と一体になることを心掛ける彼の歌手魂がハイレゾの高解像度で浮き彫りになった。デビュー40周年を越えて現役バリバリの新沼謙治。ジャンルを問わず長く活躍する歌手は前向きな努力と錬磨を忘れない。歌というものについて深く考えさせられる今回の試聴だった。



<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」

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