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公開日 2016/05/19 16:00

GIGA MUSIC独占先行配信!「いしだあゆみ ゴールデン☆ベスト」を聴く。CDから大幅に音質が向上

連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
大橋伸太郎
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音楽配信サイト「GIGA MUSIC」にて、名門・日本コロムビアが擁する選りすぐりの未ハイレゾ化音源が、続々とハイレゾで登場することとなった。しかも独占先行配信。既に庄野真代の配信が始まっており、その後も様々なアーティストが予定されているという。

Phile-webではこのハイレゾ音源を連続レビューする企画をスタート。リリース当時のエピソードや、ハイレゾになったからこそ注目したい聴きどころをたっぷりとご紹介したい。




いしだあゆみ ゴールデン☆ベスト / いしだあゆみ
96kHz/24bit FLAC
購入ページはこちら


細いけれど折れない一輪のバラのように凛とした
いしだあゆみの歌声がハイレゾで蘇る


筆者が小学生だった時代、逗子マリーナ(神奈川県逗子市)がオープンした。ヨット遊びは雲上人の話、マリーナのプールに行っただけで「スゲエ」といわれるステータスの高い世界だった。松任谷由実のコンサートで全国区になるのはずっと後の話だ。

当時学校で広まったのが「いしだあゆみ」がマリーナのプールで泳いでいた…という噂。「さすが、スター歌手!」と馬鹿な小学生たちは興奮した。今考えると眉唾臭い話だ。TV出演で超多忙な人気歌手なら赤坂周辺の高級ホテルのプールで泳ぐのが自然だ。

もしかしてこういうことではないか。逗子マリーナに行ったことを自慢したい一人の小学生が虚栄心まじりの願望で「エヘン、ボクはマリーナのプールに行ったのさ」→「ほっそりした体つきの目の大きいお姉さんがワンピース水着(多分)で泳いでいるのをみかけた」→「お姉さんはいしだあゆみにどこか似ていた」→「いやマリーナに来るのだから、もしかしていしだあゆみかも…」→「そうだ、あの人はいしだあゆみその人だ!」というプロセスで妄想が「事実」に変わって行ったのだ。そう、一種の都市伝説だ。

こんな噂がまことしやかに広がるのも、いしだあゆみだから。都はるみや美空ひばりは体型上水着に結び付かない(失礼!)。スレンダーないしだあゆみだからプールサイドの水着姿が絵(妄想)になる。「ハイカラ」はこの人の為にある形容詞かも。今でいう時代のミューズというやつ。姉はオリンピック日本代表のスケート選手、妹は女優、(元)夫は俳優で歌手の萩原健一、スポーツ芸能一家だ。

唱法がまたユニーク。歌謡曲が全盛の時代、毎年無数のニューフェースがデビューした。ちなみに同期に声量豊かな本格派ちあきなおみがいる。売れるために新人歌手は個性を打ち出さなければならなかった。いしだあゆみの歌の先生は和製ミュージカルのいずみたくだ。ノンビブラートで一見ぶっきらぼうな唄い口は、シャンソンの率直で歯切れのいいディクションを取り入れたのではないか。ハスキーで高域にほのかに甘さがにじんでセクシー。小股の切れ上がったクールモダンに演歌のこぶしをまぶしてタメを効かせたフレージング。一度聴いたら忘れられない都会の歌声だ。

いしだあゆみの代表曲を集めたアルバムが、96kHz/24bitのハイレゾに生まれ変わりダウンロード配信が開始された。都会のオトナの恋が似合う永遠にかっこいいお姉さん、いしだあゆみ。細いけど折れない一輪のバラのように凛としたあの歌声に会える…ドキドキする思いでダウンロードスウィッチを押したのだった。


CDからの音質向上は目をみはるほど
大ヒット曲が生まれた瞬間の音を味わえる


今回配信が始まった「いしだあゆみ ゴールデン☆ベスト」は、彼女の人気曲を選りすぐってハイレゾ化したもの。「ブルー・ライト・ヨコハマ」「シェルブールの雨傘」「ある愛の詩」「京都慕情」など、ポピュラー曲や歌謡曲ヒットのカバーが収録されている。今回は既に発売されているベスト盤CDと比較試聴してみたが、その音質の改善に目を(耳を)みはった。前回紹介した庄野真代から十年近く前の録音だ。リマスター&ハイレゾ改善効果はその分大きい。

「ブルー・ライト・ヨコハマ」(1968)のヒットした'60年代後半はまだ4トラック録音の時代だ。音質のいい8トラック録音機材は'60年代終わりになって漸く録音スタジオに進出する。ザ・ビートルズやローリングストーンズのような小編成のシンプルな音楽ならまだしも、日本の歌謡曲はフルバンド、ストリングス、コーラスと使用される楽器の数が断然多い。同時録音でもちろんアナログ磁気記録。4トラックではそもそも器が足りない。

さすがに日本コロムビアの職人仕事だけあって、いしだあゆみのボーカルは神経を使ってきれいに入っている。ハスキーな声質なのでリバーブを多めに掛けていることが特徴。CD版で気になっていたのが、バック演奏の情報量と帯域がプアで聞き苦しいこと。ことに金管が歪んで響きが曇り、平板だ。ハイレゾ版は別物に生まれ変わったとまではいかないが、デジタル化で大幅に改善された。その時スタジオで聴こえたであろう生音の佇まいを大幅に回復している。リミックスでなくリマスタだがよくここまで頑張った、と思う。

それでは、中年以上なら誰でも耳に馴染んでいるいしだあゆみの代表曲を、CDの44kHz/16bitと配信の96kHz/24bitで逐一比較しながら聴いてみよう。


トラック1「ブルー・ライト・ヨコハマ」


CDとのすぐに分かる最大の違いは、ハイレゾは音に広がりと立体感があることだ。CD版は高域情報が足りず、ステレオ音場の水平方向の広がりが制限されてしまう。ハイレゾで帯域が拡張され、情報量が増え音楽が見えない窮屈な器から解放された。バックグラウンドノイズが消え、リアルな音場が現れ呼吸する。空前の大ヒット曲が生を受けた歴史的瞬間がここに…。もちろん多重でなく歌手とバンドが一体の同録。リズムを刻むドラムスがずっしり重量感を増し、Aメロをリフレインするチェンバロが前面に出て光沢を帯びてふくよか。歌が立体的で目を閉じると三メートル前にいしだあゆみがいる! 水着ではないけど…。悶絶ものだ!


トラック4「今日からあなたと」


CD版はエレピやストリングス、木管の響きが曇っている。音場に広がりがなくドラムス(タム)の打撃がひっこんで軽い。いしだあゆみの声がやや過剰なリバーブ(風呂場で唄っているようだ)に埋もれていたが、ハイレゾは余分な響きが整理され肉声の芯が質感を具えてくっきり宙空に浮かび出る。ベースラインがブルンという太く金属的な質感で鮮明に現れるのも心地よい。


トラック5「喧嘩のあとでくちづけを」


いしだあゆみが普段のクールさをかなぐり捨てて愛の具体を「おねだり」する異色曲。時代を反映して金管とストリングスのあいの手が楽しく、よく唄うベースラインとエレピのオブリガードがバタ臭い和製R&Bの佳曲。CDは聞き旧したシングル盤のように金管が歪んでサチってかすれるが、ハイレゾは歪みとノイズはフォルテッシモで依然残すもののかなり改善、ベースラインが明瞭になり日本コロムビアのスタジオミュージシャンの演奏の巧さに聞き惚れる。


トラック6「あなたならどうする」


CDは音場が左右スピーカーの外側へ広がらない。音場情報が足りないからだ。いしだあゆみの歌もリバーブが過剰で左右スピーカー間に締まりなく広がる。ドラムスのシンバルやブラシワークが軽い。ハイレゾ版も広がりはそれほど出ないが、音場に奥行きが生まれ、歌がセンターに高さとフォーカスを伴って収束する。演奏も量感が出て輪郭が鮮明。


トラック8「何があなたをそうさせた」


いしだあゆみらしからぬ女の嘆き節。唱法も藤 圭子(宇多田ヒカルのお母さん)っぽい直線的な演歌調。定番的音の要素(グランドハープ、トランペットソロ、ストリングス、フルートのオブリガードetc)を散りばめ、「深夜放送第二部」がピッタリの正調歌謡曲だ。CDはイントロのトランペットソロがざらっと歪みっぽく倍音不足でうるさく、続いて登場のストリングスも歪んで響きが薄かった。8トラックミュージックテープ(カートリッジ)を聴いている印象だ。しかしハイレゾ版はトランペットは未だ歪みを残すが艶がある。解像力が上がり、歌声にいしだあゆみらしい肌理を取り戻す。


トラック10「砂漠のような東京で」


CDは楽器群がセンター領域にマッピングされ広がらなかったが、ハイレゾはイントロのパンフルートが立体的で、隠れていたバックのアコギが現れ、左右スピーカー外側にきれいに広がる。いしだあゆみの歌の歌もストリングスをバックに従えセンターにくっきり描かれる。


トラック12「さすらいの天使」


1972年録音。「また逢う日まで」に似た粋な洋楽調アレンジの1970年代らしい明るい楽曲だ。ここまでに比べ録音が格段によくなっている。8トラック以上、16トラックかもしれない。録音がいい分ハイレゾ改善効果がてきめんで、ずっしり沈んで歌うベース、重量感あるスネアドラムの打撃、倍音を放射して宙空にブリリアントに響く金管など、オーディオソースとして聞き応えがある。そして明るい曲調を得ていしだあゆみ本来の魅力が炸裂する。悲しみより幸せが似合う歌手だ。あの大きな明るい瞳を思い出す。ハイレゾでこの歌を聴いて、倍音の乗った高域の甘いニュアンスこそ歌手いしだあゆみの「決め技」と知った。



4トラックから8トラック以上へ、シングルからアルバム中心へ、AMラジオからテレビ歌番組へ。歌謡曲の変化の時期に活躍したミューズの魅力をハイレゾ配信がいま伝えてくれる。全17曲を年代順に聴いて、忘れていた歌謡曲の魅力を改めて知った。誰にも覚えのある身近な恋愛感情を、選び抜かれた言葉で綴る歌詞。作曲家と編曲者が歌手の声質やキャラクターに合わせ、服を仕立てるように作ったワンオフの楽曲…。いしだあゆみとて、'70年代後半の曲になるとニューミュージックの影響で歌詞が文学的、抽象的になり、曲調もメロディーからサウンド中心に変わり、歌謡曲の率直な魅力が失われていく。

今回の試聴の前に、グループサウンズの名門シャープファイブのメンバーで、現在鎌倉市小町通りでライブハウス「蝶家」を経営する山内英正さんに「いしだあゆみってどんな人なの?」と訊いてみた。いしだあゆみと山内さんは日本コロムビア在籍時代の同期だ。そうすると意外な答えが返ってきた。

「よく一緒にプロモーションにかり出されたけど、あゆみちゃんは大人しい地味な娘だったな。女優業が中心になりショーケンと結婚したりして人生経験を積んで変わっていったんじゃないかな…」

今回、ハイレゾ版「いしだあゆみ ゴールデン☆ベスト」で彼女の代表ヒット曲を年代順に聴き、そして山内さんの言葉を聞いて、歌の世界のヒロイン達といしだあゆみという歌手・女優であり一人の女性の人生が重なって感慨深かった。万人共通の感情を素直に歌う歌謡曲がハイレゾに変わって、歌の心と一人の歌手の軌跡がありありとすがたを現したのだ。歌謡曲はやっぱりいい!ハイレゾは本当にすごい!そう感じた試聴だった。



<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802 Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」


(企画協力:フェイス・ワンダーワークス)

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