マツダ「CX-5」は音も“5つ星”。居心地の良さを追求したBoseサウンドを体験
マツダが純正カーオーディオにかける情熱は並々ならぬものがある。それは同社の旗艦SUVである「CX-5」も同様だ。なにせ開発主査がオーディオファイルなのだから……。今回Bose仕様のサウンドを愉しむことができたのでご報告したい。
こだわりの3ウェイシステムを搭載
CX-5は、全世界130か国以上で販売し、販売比率もグローバルで28%、国内でも25%とするマツダの屋台骨を支える1台だ。その開発の陣頭指揮をとる山口浩一郎主査には、想像を絶する責任が重くのしかかっていることだろう。事実、任命を受けた当初はワクワクしたそうだが、想像を絶する高い売り上げ目標にプレッシャーを感じて胃が痛くなったという。
そんな彼の趣味のひとつがオーディオ。今年1月、山口氏から長年ビクターの密閉型スピーカーを愛用していること、「いちど開発者の渡邉 勝氏にお会いしたい」という話から、貴重な対談企画が実現した。普段から笑顔を絶やさない山口氏であるが、より一層目じりを下げて愉しんでいる姿に、心底オーディオを愛している人なのだと感じた。
CX-5には標準装備の「マツダ・ハーモニック・アコースティック」のほか、メーカーオプションの「Boseサウンドシステム」という2種類のオーディオシステムが用意されている。
違いは標準オーディオが8スピーカーであるのに対し、Bose仕様車は、12スピーカーに増やしたほか、マツダ車としては初めてBoseの音響ソフトウェア技術PSR(パーセプチュアル・サウンド・レンダリング)を採用。リアルで臨場感あふれる、コンサートホールのような上質なサウンド体験を提供すると謳う。また自動ノイズ補正機能の進化により、風切り音によるノイズも補正するそうだ。ちなみにトゥイーターの振動板も標準とBoseでは異なるという。
だが、CX-5のコダワリはそれだけではない。フロントスピーカーが量販車としては珍しく3ウェイ構成なのだ。トゥイーターはドアミラー近傍に、ミッドレンジはドアパネルに配置されている。だが、ウーファーの姿はここにはない。どこか?
なんと運転席側ならアクセルペダルの近傍右側に配置しているのだ。これによりバックキャビティ(=エンクロージャー容積)が拡大できたほか、ドアに振動が伝わらないというメリットが生まれるという。だが、これを実現するには、生産工程から見直さなければならなくなったと山口氏は笑う。工場からしたらよい迷惑だろうが、無理を通したあたりに、山口氏の音にたいするコダワリが伺える。
シンプルなUIでイコライザーなどを設定可能
設定画面を見ると、意外とシンプルなことに驚く。イコライザーは3バンド。リスニングポジションは全席または前席の2ポジションのみ。
そのほか、車速に応じてオーディオの音量や音質を自動で調節する「ALC」、立体感を演出する、いわゆるサラウンド機能の「Bose Centerpoint」、そして車内マイクでモニタリングし、音量や音質をリアルタイムで補正する「Bose Audio Pilot」が用意されている。名称から機能がイメージしづらいものの、オーディオに明るくない人でも扱いやすいという点で、機能を絞ったのは正解だと思う。
音量やトラック送り/戻しなどはステアリング左側のボタンからも行える。このボタンが大きくて使いやすいのは美質。
ユニークなのは、ボリュームが上下に押すだけでなく、親指を滑らせる動作でも変化すること。これはメルセデスやフォルクスワーゲンなどで見かけるようになったUI(ユーザーインターフェイス)で、最初は慣れないものの、暫くすると微妙な音量調整ができるようになる。ぜひ試して欲しい。
「居心地の良さ」を重視した耳あたりの優しい音触
試聴は停車状態でBose仕様の車両とスマートフォンを接続し、Qobuz音源で行うことにした。
いきなり総括めいたことを申し上げるなら、車両のコンセプトである「新世代エモーショナル・デイリーコンフォート」を体現しているかのような音だ。CX-5は肩肘を貼らない良質なインテリアと長時間ドライブでも疲れない脚の良さが自慢だが、音も長時間聴いて疲れない耳あたりの優しい音触に仕立てられている。言い換えるなら「居心地のよさ」を重視した室内空間と音なのだ。
まずはEDMで低域のチェックから始めた。楽曲は今年上半期、10代を中心に流行したILLITのIT’S MEである。コンプレッションを効かせたベースラインは、普通のクルマならドアの内張を盛大に叩き、不明瞭な音程になりがちだ。
だが、CX-5はそのようなことはなく、スッキリとしてクリア。ウーファーをドアにマウントしないという策は成功しているといってよいだろう。BPM147のリズムに乗せた、硬質で反復的な電子テクスチャーとメタリックな歌声は、システムによっては聴くに堪えない音になるだろう。だが、CX-5は適度に柔らかくし、ノリの良さはそのままに、聴き心地の良さへと昇華している。
クラシックはどうだろうか。イヴァン・フィッシャー指揮によるラフマニノフの交響曲第2番の第2楽章は、大きなうねりを伴うオーケストレーションを淀みなく再生。弦楽器の爽やかさ、金管の綺麗な響きが心地よい。ここでCenterpointをのレベルを上げていくと、よりイマーシヴなサウンドへと変化していく。個人的にはレベル1あたりが心地よく感じた。
山口主査が青春時代に聴かれたであろうと妄想し、大瀧流スペクター・サウンドの集大成「君は天然色」を聴くことにした。最初のチューニングの音からスタジオの広さが伝わるかのよう。
日本人なら誰もが知るであろうイントロは、17名の奏者による十分な厚みをもって車内に包み込む。定位感がよいのは、センタースピーカーのレベルが低いからだろう。
実によく調律された音である。明るいメロディに乗せて、恋の喪失感を歌う大瀧詠一の美しさも格別だ。美しくも悲しい日本語歌詞特有の世界観は、やはり日本人の手でなければ再現できないのでは、という想いにかられた。そうBoseの看板はあれど、この音は日本人の音なのだ。
音楽を聴きながらCX-5のステアリングを握っている時、ふと山口主査の優しい笑顔を思い出した。そして私も笑顔になっていたことに気づいた。CX-5は単なる移動の道具ではなく、車両の質感と音で笑顔を生み出す機械でもあるのだ。

























