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新型SUV「CX-5」の開発を率いた山口氏が愛機の設計者である渡邉氏と対談

マツダ×クリプトン、夢のエンジニア対談。クルマとオーディオ、日本の“ものづくり”に息づく共通点とは?

公開日 2026/06/23 06:30 栗原祥光
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マツダの新型SUV「CX-5」の開発を率いた山口浩一郎主査。趣味はクルマで、愛車はRX-8のほかRX-7カブリオレというロータリー党だ。だが、もうひとつ趣味がある。それがオーディオ。長年ビクターの密閉型スピーカーを使われており、しかも3セット所有されているという。そんな山口氏の夢は、愛機の設計者である渡邉 勝氏(現:クリプトン)に会って話をすること。

向かって左から渡邉 勝氏と山口浩一郎氏

マツダは「CX-5」、クリプトンは「KX-5PX」と2人の代表作の名前が似ていることもあり、お二人を引き合わせて、エンジニアの目から見た日本製品と海外製品の違い、日本人の気質をテーマに話を伺うことにした。

【自動車篇】「人生をより良くする車を作りたいなと思ったんです」

CX-5発売記者会見の翌朝、山口氏は「今日の日が来るのを、とても楽しみにしていました」と、集合予定時刻の1時間以上も早く会場に到着。CX-5の前で渡邉氏を今や遅しとソワソワ。そして定刻の少し前に渡邉氏が姿を現わすと、満面の笑みで出迎え、渡邉氏もそれに応えた。

さっそく打ち解け合う両名

それでも最初は緊張した面持ちの2人だったが、「なんか旧友に会ったような気がします」(山口氏)「そうですね(笑)」(渡邉氏)というように、あっという間に打ち解けていた。それはオーディオという同じ趣味を共有していることと、エンジニア同士であるということもあるのだろう。

CX-5の前だからか、自然と車の話題から話が始まった。渡邉氏は免許を返納されたというが、それまで9台の車を乗り継いだという。「最初はスバル360コンバーチブルでした。それからスバル1000スポーツを買って大阪万博に行きました。ちょうど東名高速が開通した頃です。そこで水平対向エンジンに目覚めまして(笑)」と、当初はスバル党だったという。

山口氏が手掛けたCX-5の前で自動車談義

その後Hondaなどの国産車を経てフォルクスワーゲンに鞍替え。以後はBMWやメルセデスといったドイツ車一筋となったという。昨年免許を返納したそうで、それまではアウディに乗っていた。マツダについての印象を伺うと「私の弟がマツダ党なのですが、私は……」と少し気まずそう。「関東からすると遠い場所にある会社で、それゆえ縁遠かったのかもしれません」という。

山口氏も負けてはいない。「大学生の頃、中古でFC(2代目RX-7)を手に入れてからマツダに目覚めまして、そのまま入社しました(笑)。入社後にFD(3代目RX-7)が出たので買いまして10年ほど乗りました。

暫くすると子供が生まれたので、ユーノスコスモに乗り換え、今度は自分で設計した車であるRX-8に買い替えました。今はRX-8と長年欲しかったFCのカブリオレの2台持ちです。ですので、ロータリーを11個回してきたんですよ」という筋金入りのロータリーマニア。「自分が手掛けたということもあってCX-5は買おうと思っているんですよ。SUVは初めてで」と笑う。

マツダ/CX-5

ここでCX-5について簡単に紹介しよう。CX-5は2012年の登場以来、約130か国500万人以上の方に愛されるSUV。マツダの売り上げの25%を占める基幹車種である。山口氏はその3代目の開発主査として「SUVの王道を極める」をテーマに、「カッコいいけれど、使い勝手がよい」を主眼に開発。

「エモーショナル(デザインや走行性能)とデイリーコンフォート(快適さ)を両立させつつ、ヒューマン・インターフェイス(先進技術やADAS)を追加しました。これがCX-5のハイライトです」と山口氏は語る。その上で20代や30代でも手が出せる価格(330万円 - 430万6500円)とした点も見逃せないポイントだ。

実際に車両を見ながら渡邉氏は、ドアの開閉音に注目。「日本車とドイツ車ではドアを閉めた時の音が違うんですよね。特にリア側が弱いことが多いんですよ」「でも、外から聞いた感じだといい音がしますね」と語ると、「その点においても、今回私達はこだわりました」と山口氏。

ドアの開閉して、その「音」を確認する渡邉氏

どうやら補強の入れ方やパッキンによる密閉度、さらに「外気と車内の気圧差が生まれるとドアが閉まりづらくなるので、エアコンの機能を使って一時的に車内の空気を抜いていたりしています」というから驚きだ。

車内からも試す渡邉氏。「車内の方がいい音がしますね」と太鼓判。さらに「このシート、とてもいいです。ドイツ車に乗って以来、日本車のシートはダメだと思っていました。でもCX-5のシートは適度に硬くて良いですね」と驚いた様子。

座り心地やドアの音に満足した渡邉氏

「車はハンドリングとか乗り心地も重要ですが、いつまでも乗っていたい車がよい車だと思います。あとインフォメーションが伝わるかも重要で、このシートならずっと運転したい気になりますね」と良い車の条件が口から出た。

折角なので、山口氏によい車とは何かを尋ねた。「抽象的になりますが、使う人の行動を自ら変えるようなクルマが良いクルマだと思っています。僕がRX-7のカブリオレを買ったのは、朝早起きをして澄み切った山に行ったら気持ちがよいから。それ以来、早起きするようになったんです。このように人の人生をより良くする車を作りたいなと思ったんです。それが今回のCX-5です」。

マツダ/CX-5の運転席側ドア。Aピラー付近にトゥイーター、その下にミッドレンジを配置。ウーファーはアクセルペダル付近に配置しているという(写真はBOSE仕様)

CX-5の音を渡邉氏はどう聴く?

山口氏はカーオーディオにもコダワリがあるという。マツダのコダワリっぷりは、別記事を参照していただくとして、「一般的に前席はドアにウーファーを取り付けますが、そうすると容積が足りなかったり、ドアに大きな振動が伝わったりします。そこでウーファーを運転席の足元に設置しました。そうすることで、エンクロージャーの容積が確保できます」

そのために、生産工程を変えたとか。今回は上位グレードのBOSEではなく、ノーマルのモデルなのだが、果たしてスピーカー設計者のお耳にかなうのか?

試聴する渡邉氏

内心「どうせカーオーディオでしょ?」と思っていたという渡邉氏。結論から言えば、その音には驚かれたようだ。「ちょっと低音が出過ぎているようですね。でも、これは走行中だと印象が変わるのかなと思いますけれど」というと、イコライジング設定画面から低域を3ステップほど絞り、かつALCというノイズに対する補正を切った状態で再試聴。

すると「今まで聴いた中では、カーオーディオの音というより、家庭で聴いているHi-Fiの音に近いですね」「定位感も運転席に合わせると、あまり違和感はないですね」と、密閉型の神様から合格点を頂戴した。

渡邉氏がセッティングしたイコライジング設定

ノイズ補正のALCをオフにした状態で試聴した

試聴は車両を停車させた状態で行った

【スピーカー篇】「スピーカーは人の体と心を揺り動かすんです」

クルマからオーディオへと話題を移そう。まず、山口氏がビクターの密閉型を3セットも所有することに至る経緯について。

クリプトンの試聴室でオーディオ談義に花を咲かせる両氏

「私が若い頃はみんなオーディオが好きで、僕もFM雑誌を読みふけっていました。そして高校生の頃、オーディオ好きの父親からビクターのSX-10 Spiritを譲り受けました。

だけど最初は全然鳴らなくて。ある時、木製のスピーカー台に変えてから鳴るようになったんです。それから面白くなって1ランク上のモデルはないかと捜した時にSX-1000を中古で入手しました。その後、小さい部屋で聴きたいなと思うようになりSX-500 Spiritを迎えました。ですので都合3セット、渡邉さんが手掛けたスピーカーを所有しています」とのこと。

そしてスマホを取り出し、愛機の写真を渡邉氏に見せると、久々に孫に会ったお爺さんのような顔に。「SX-10 Spiritは、SXシリーズの10機種目、10年目、25万セット(50万本)記念ということで誕生したんですよ。その当時は車の台数と変わらないくらいオーディオが売れていたんでけどね(笑)」と目を細めながら当時を振り返る。

山口氏の愛機、SX-10 Spiritと一緒に記念撮影

SX-10 Spirit。ウーファーは32cm径で、振動板にはクルトミューラー製ノンプレスコーンを採用。中域は6.5cmソフトドーム型を採用。3.5cmソフトドームトゥイーターの振動板には正絹(羽二重)布が用いられている

渡邉氏が設計した新旧スピーカーがご対面

すると山口氏は広島から持参したというSX-10 Spiritを持って来たではないか。とても44年前のスピーカーとは思えない綺麗なコンディションに、渡邉氏はとても嬉しそう。

そんな渡邉氏にスピーカー背面を向けるや、山口氏は金色の油性マジックを取り出してサインを書いて欲しいとオネダリするではないか。あまりのことに驚く渡邉氏。「サインを書いたこと、そんなにないし……。それに買取価格が下がってしまいますけれどいいんですか?(笑)」と断りを入れつつも、CX-5発売発表会見の翌日にあたる2026年5月22日の日付を入れたサインを書き上げた。山口氏にとって、この2日間は生涯忘れられない日になったことだろう。

山口氏の愛機にサインをする渡邉氏

渡邉氏のサインが入った世界で1セットのSX-10 Spirit

記念撮影

密閉型の魅力はどこにあるのか? 山口氏は「密閉型はちゃんと鳴らせば、奥行きがスッと出るんです。低域の迫力とかはバスレフ型には劣りますけれど、手を伸ばせば届くかのような空間表現が魅力です。それがスッキリと綺麗に出るのが渡邉さんのスピーカーでした」と魅力を語る。ちなみにアンプ選びに苦労したそうで、現在はラックスマンのA級プリメインアンプ「L-590A」をお使いだという。

山口氏

一方、渡邉氏が密閉型にこだわる理由は、アコースティックリサーチの「AR3a」との出会いに遡るという。「こんな小さいスピーカーで、こんな音が出るんだと感動しまして。でも当時買えなくて、オーディオ店に通い詰めました。それで、AR4aという2ウェイ密閉型を買いまして、現在につながる2ウェイ密閉型に行きついたんです」。

そして今では「音楽を知っている人は密閉型に行きつくんですよ」とまで言い切る信念を抱くようになった。

渡邉氏

CX-5とKX-5PXの共通点を挙げるとするならば、塗装へのコダワリだ。マツダは匠塗(TAKUMINURI)という、発色を担う発色層と光の反射を担う反射層を2層重ねた特別な塗装をしている。驚くべきは、ミクロン単位の小さなアルミフレークを水平に並べている点。そうしないと光の移ろいが表現できないという。

ソウルレッドクリスタルメタリック(匠塗)塗装のCX-5

KX-5PXも負けていない。ピアノブラック仕上げの本機は、5回も塗装を行っているという。それだけこだわる理由は、音に大きな影響を与えるためと渡邉氏は語る。

ピアノブラック仕上げのKX-5PX

山口氏がクリプトンのスピーカー4機種を比較試聴

ということでKX-5PXを試聴する運びとなった。アンプはアキュフェーズのセパレート、スピーカーは角度を振らない正面配置。「クリプトンのスピーカーは、30度で測定した時に最もバランスが取れるように設計しています。ですからスピーカーを振っていないんです」と渡邉氏が説明すると、「となると、うちのスピーカーもセッティングしなおさないと」と山口氏。ちなみにビクター時代はトゥイーター軸上で測定していたので、振った方がいいとのことだ。

試聴位置にセットされたKX-5PX

KX-5PXを試聴する両氏

渡邉氏がセッティングしたKX-5PXを聴いた山口氏は「女性の声がとてもよいですね。楽器と声の質感がとても好ましくて。あと空間表現がとても豊かですね」という。渡邉氏も「私が最も注力しているのは声の質感なんですよ。そしてアコースティック楽器のナチュラルな質感です」というと「評論家になれますよ(笑)」と山口氏の耳に太鼓判。

KX-3SX

これに気を良くされたのか渡邉氏は「では仕上げ違いを聴いて頂きたいです。使っているユニット等は同じで、ローズウッドの突板仕上げになります」とKX-3SXに交換しはじめたではないか。「なんか、試されているみたいですね」と言いながらも、山口氏は嬉しそう。

KX-3SXを聴く両氏

「こう聴いてみると、KX-5PXは少しメリハリがあったように感じます。KX-3SXはナチュラルな質感で、音楽にスーっと入っていけそうな気がします」と、KX-3SXの方が好ましいという。「山口さんがお使いのSX-1000も突板仕上げだから、私もこちらの方が好ましいかなと思ったんです」とニヤリ。

KX-1X

さらに「では、今度はフェライトとアルニコという磁気回路の違いを聴いて頂きましょう」と、KX-1XとKX-3SXの比較にまで発展。もはや誰も2人を止めることはできない。

感想を伝える山口氏と応える渡邉氏

「これは大分違いますね。フェライトの方が色々な音が混じったような感じがしますね。こんなに違うんですね。車で例えるなら、エンジンが違うというよりタイヤが違うという感じですね。タイヤの思想が違ったら、感じるものが全然違いますからね」と独自の表現をする山口氏。

それを受けて「なかなか皆さん、分かってくださらないんですよ」(笑)と渡邉氏はさらに上機嫌。山口氏のお目付け役として同席しているマツダの広報担当者も、オーディオに明るくないにも関わらず「全然違う……」と言いだしてオーディオに開眼しそうな雰囲気だ。

漆塗り仕上げのKX-0.5U

渡邉氏はさらに気を良くされたのか、今度は突き板ポリウレタン塗装仕上げと漆仕上げの違いを試聴する運びに……。

「漆仕上げの方がいいですね。音の見通しや立ち上がり/立ち下がりが全然違います。あと音の静けさも漆塗りの方がよいですね」と山口氏。そして「僕のSX-10 Spiritを漆塗りにしてください。スピーカーは車の中にありますから」(笑)とまで。ちなみに漆仕上げは能登半島地震の影響により、現在受注を停止しているそうだ。

ここまで聴いての山口氏のお気に入りは「漆塗りか、KX-3SX」とのこと。いずれも「澄んだナチュラルな音が好ましかった」そうだ。既に取材は関係なくオーディオを愉しんでいる2人。

ビクター時代の“最高傑作”も登場

さらに気を良くされたのか、ついにはビクター時代に手掛けた「SX1000 Laboratory」までもが登場! 渡邉氏自ら最高傑作であるというスピーカーに、山口氏も「これ欲しかったんですよ」と感動しきり。

SX1000 Laboratoryが登場!

トゥイーターに世界初の3cm結晶ダイアモンド製振動板を採用。キャビネットにはカナダ産のカエデ材が用いられている

ラスボスが奏でる音色は、40年以上前のスピーカーとは思えない瑞々しさを湛え、その場にいた誰もが頬を緩ませた。「いいですね。高域がとてもイイです。持って帰りたいくらいです(笑)。もっと聴いていいですか?」と、山口氏は手持ちのディスクをとっかえひっかえ、帰りの飛行機を気にしながらも、時間の許す限り愉しまれていた。その様子を見る渡邉氏の瞳は、どこか弟子を見ているような、そんな印象を受けた。

メインディッシュの後、渡邉氏プロデュースという小型アクティブスピーカー、KS-55HG/R(レッド)を運び出した。小さなスピーカーでもナチュラルでいつまでも聴いていられるという渡邉氏の音がすると山口氏。ちなみにその赤いボディはマツダ匠塗であるソウルレッドクリスタルメタリックを意識したそうだ。

KS-55HG/R(レッド)を試聴

オーディオファイルの山口氏に、オーディオ機器の評価ポイントを聞いてみた。すると「車の選び方と似たところがあると思うのですが、肌に合うかが大事かなと思っています。育てたいと思わせるかどうかです」と、高域や低域、S/Nといった数値的な観点ではないという。

いっぽう渡邉氏は「人の声が人であることです。そして次にナチュラルさ。あとスピーカーは体と人の心を揺り動かすんです」と語る。山口氏も「そうですね。自然な音が重要だと思います」と同調されていた。

山口氏が持参したデジタルディスクの一部

日本人には「おもてなしの心」と「職人魂」がある

さて、日本と海外で顧客が求める物はどのように違うのだろう。オーディオの場合「海外の人は、日本人は低音音痴だと言われています。例えば日本盤と輸入盤のレコードを比較すると、大抵日本盤の方が低域が少ないんです」と渡邉氏は語る。

試聴を終えて談笑する両氏

自動車はというと、「欧州はハイスピードの市場ですので、高速領域の安心感やブレーキなどは厳しい目で見られます。北米は100km/h - 130km/hという速度域の中で、安心でラクができる車が求められます。

またハイウェイの合流などでスッと入れるような瞬間的なパワーを出せる車を好む傾向があります。日本は低速、街中での乗り心地に対してキビシイですね」(山口)という。当然ではあるものの、生活環境によってスピーカーも車も求められるものは国によって大きく異なることを再認識した。

そして「日本人はディテールにこだわる」傾向が強いという。渡邉氏によると「日本人は細かいところに耳が行きがちです。でも海外は音楽全体を捉える傾向がありますね」「それは、おそらく日本は昔から低音が出る楽器がそう多くなかったからではと思っています」と分析をする。

その上で山口氏は「手触りをこだわる方が多いですね。ですので、バブル期に登場したユーノスコスモなどは、仔牛10数頭分のオーストリア・シュミットフェルトバッハ製レザーを使っていました。今でもマツダはナッパレザーを使って……というようなグレードを用意しています」という。

また「ロータリーエンジン車を2台(RX-8、RX-7カブリオレ)持っています。先日RX-7カブリオレのオフ会があったのですが、みんな大事に乗っていますね。アメリカだと改造とかしがちですけれど、日本人は純正が好きな印象があります」と、物を大切にする傾向があるそうだ。そういう山口氏もSX-10 Spiritを何十年も愛用されているが……。

CX-5の開発秘話を語る山口氏

日本人の気質に話が及ぶと、山口氏から興味深い話が飛び出した。「日本人は自分が裏方に回っても、どのようにお客様を喜ばせるかという『おもてなし』の精神がしっかりあると思います。言わなくてもやってくれる。そして『職人魂』があると思います。自分の部品がこうやったら上手く行く、というのを言われなくてもトコトンやる、突き詰める、極めるまでやりたがる。それが日本人であり、日本の車造りだと思います」。

これに対して渡邉氏は全く同感であると伝えたうえで「日本人の感覚のセンシティビティというのは、他の国の方とは違うと思います。それが落とし穴でもあったりします。大枠が見落とす時がある。それは車もスピーカーでも起きうることだと思います」と、日本人特有の危うさを警鐘した。職人をどのようにコントロールするか、これが開発責任者、プロデューサーの役割といえるだろう。

クルマもオーディオも、「育てたい」と思えることが大事

スピーカーと車では扱う部品の点数も素材も全く異なるが、サプライヤーの協力がなければ物は生み出せない。スピーカーで重要なのが振動板だ。クリプトンでは多くのスピーカーにドイツ・クルトミューラーのコーン紙を用いている。渡邉氏は「私が長年、クルトミューラーのコーン紙にこだわるのは、高域が綺麗に減衰するからなんです。ですので2ウェイにする際、ハイカットせずに使っています。

ですが、私達が使う量は少なくて、新規でお願いしても作ってくれません。ですから46年前のビクターのSX-3で使っていた25cmのコーン紙をお願いして作ってもらっています。よって46年くらい前のコーン紙を未だに使っているんですよ」と語る。46年も同じ振動板素材を供給しつづけるメーカー(ドイツ・クルトミューラー社)に驚かされるし、それを実現するだけの信頼が結ばれているというわけだ。

山口氏もサプライヤーとの信頼関係が重要だと語る。「今回初めて、車1台分の鉄を日本製鉄にお願いしました。良いものを安く、軽く、同じ志をもって、ということをクルマの形がない状態の時から協業することにしました。彼らは物性の解析技術が長けていて、様々な部品削減などを提案してくださったんです。普通は儲けが減るのでやらないですよね。でも提案を頂いてお願いして。結果、従来よりも10%の重量低減が達成できました」という。

最後に山口氏は「車は人の命だけでなく思い出も運びます。人生の一部を預かっているんです。家族で車で出かけた時、愉しかったよね、と言える車。手放す時に嫌な思い出がない車、良い思い出だけが残る車がいい車だと思っています。豪華な装備でパワーがある車が良いというわけではないと思います」という。

その話を聞いた渡邉氏も「そうだと思います。ひとつのスピーカーをどのように使うか、愛情を注いで、どう育てるかが重要なんです」という。それは工業製品全般に言えることだろう。

CX-5の前でエンジニアトークをする両氏

別れ際、「改めて、私の作ったスピーカーを3機種も買ってくださって、ありがとうございました。それだけ人を動かせたことが嬉しかったです」と渡邉氏は山口氏の手を握る。

山口氏も、「私も初めてお会いするのに、すぐに打ち解けて嬉しかったです。なんか旧友に会ったようです」と笑顔をみせた。

「自動車とスピーカーの設計には相通じるものがあると思っています。というのもデザインと音にお国柄があり、そこに設計者の個性が現れるんですよ」(渡邉氏)という。2人の作品を改めてみると、どこか共通した優しい部分を感じさせた。

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