公開日 2018/11/22 06:00

ラズパイでDSD 5.6MHzのネイティブ再生も可能! DACカードに期待の新モデル登場

海上忍のラズパイ・オーディオ通信(52)

新DACカードに秘められた「裏ワザ」

現在開発が進められているDACカード「SB32+PRO DoP」

「SB32+PRO DoP」は、DACチップにESSの「ES9218P」を採用。PCMは最大384kHz/32bit、DSDは5.6MHzのネイティブ再生(DoP)に対応する。ヘッドホンアンプを搭載、側面に配置した3.5mmステレオミニジャック(LINE出力可)からアナログ出力できるため、ポータブル/据え置きどちらの用途にも活用できる。

クロックはNDK社の低位相ノイズクリスタルを2系統(45.1584MHz/49.152MHz)搭載、前述したマスターモードにも対応するため、ジッター問題を回避できる。電源は3系統、デジタル3.3V/アナログ3.3V/コア電圧1.8Vそれぞれが独立したディスクリート構成で、しかもnonNFB電源で供給するという徹底ぶりだ。

ボリューム機構にも注目。ES9218Pは32bitデジタルボリュームに加え、24dBアナログボリュームを内蔵しているのだ。これにより、-24dB以上の位置ではデジタルボリュームを使わず、(0dBから-24dBの間は)1dB刻みのアナログボリュームとなり、ビットパーフェクトを保つことができる。

Raspberry Pi向けDACカードではおそらく世界初の試みと思われるフィーチャーが、PICマイコンの活用だ。PICマイコンは家電製品の制御などに用いられるICで、それ自体は音質に影響しないが、書き込んだプログラムで制御することによって柔軟な機能を発揮する。このPICマイコンを使ってPCM5122の挙動をエミュレートすることで、ES9218PをPCM5122としてシステムに認識させてしまおう、というわけだ。

PCM5122をエミュレートする理由だが、一つにはPCM5122ドライバがマスター/スレーブの切り替えに対応していることが挙げられる。前述したとおり、ここがGPIO接続DACカードにおける音質向上のキモだからだ。

CASE 01の銅板を利用したノイズシールド機構にもマッチする

もう一つは、PCM5122(HifiBerry DAC +PRO)として認識されれば、デバイスドライバーを新たに書き起こす必要がなく、直ちにほぼすべてのLinuxベースのオーディオOS( VolumioやMoodeAudioなどARM系Linux OS)で利用できること。ESSのようにドライバーをオープンソース化しないメーカーのDACチップも、この方法であれば既存のLinux OSで難なく使えてしまう。

SB32+PRO DoPは、指定したデバイスドライバーにより挙動が変わる。ドライバーに「hifiberry-dacplus」を指定すると、PCM5122が行うはずの応答をPICマイコンがエミュレート(コマンド変換)することで、ES9218Pを制御するモードになる。この場合、SB32+PRO DoPはマスター/Raspberry Piはスレーブとして動作するので、音質的にはベストだ。

なお、ES9218Pの制御はI2Cで行われ、オーディオ信号やクロックが載るI2Sのストリームには一切影響しない。ドライバーに「hifiberry-dac」を選択すると、I2C制御なしのスレーブ動作(Raspberry Piがマスター)となるが、あえて選択する必要はないだろう。

DSD 5.6MHzのネイティブ再生も!

ふだんリファレンスとして利用しているPCM5122搭載の「DAC 01」をSB32+PRO DoPに差し替え、Raspberry Piの電源を投入したところ……そのまま何事もなく起動した。OSにはワンボード・オーディオ・コンソーシアムで開発を進めている「1bc」を利用しているが、前述したとおり現行のLinuxカーネルにはPCM5122ドライバ(hifiberry-dacおよびhifiberry-dacplusも)が統合されているため、よほどカスタマイズした環境でなければセットアップは簡単だ。

マスターモード動作時には、オレンジ色のLEDが点灯する

SSHでRaspberry Piにリモートログインし、認識されているオーディオデバイスを確認してみると(aplay -lを実行)、無事HiFiBerry DAC+ Proとして認識されている。SB32+PRO DoPに目をやると、マスターモードで動作中なことを示すオレンジ色のLEDが点灯している。繰り返しになるが、config.txtなど設定はDAC 01の時のままだ。

試聴は開放型ヘッドホンのSHURE「SRH1840」で行った。3.5mmジャックにつなぎ、いつものようにNASの音源を再生すると、出音の鮮烈さに驚く。シンバルのアタックはキレよく収束し、付帯感がない。

アコースティックギターの胴鳴りもヌケよく、速いストロークで強弱の加減が瞭然とする。過渡特性を突き詰めたとでも言おうか、研ぎ澄まされた音の際が印象的なESSらしいサウンドだ。ES9218PというDACチップは、スマートフォンなどモバイル機器向けという位置付けだが、SB32+PRO DoPでの堂々たる鳴りっぷりは明らかに“クラス超え”である。

DSD 5.6MHzをネイティブ再生しているときの様子。352.8kHz/32bitで出力されていることがわかる(OSは開発中の「1bc」)

DSDネイティブ再生(DoP)も特筆もの。MPDの設定ファイル(/etc/mpd.conf)におけるDACカード定義部分に「dop "yes"」の1行を追加すれば準備OK!これだけでDSD 5.6MHzまでの再生が可能になる。その滑らかさ、微細なディテールまでありありと描く再現力は、PCM変換とは明らかに次元を異にする。PICマイコンは、DSDを検出するとDoPマーカーを付加する処理を行うのみだが、ES9218Pの底力を引き出すことに成功している。

Takazine氏によれば、PICマイコンを利用したPCM5122のエミュレートは、ES9218P以外のDACチップとの組み合わせでも可能とのこと。となれば他の魅力的なDACチップを積むDACカードへの期待が高まるところだが、まずはSB32+PRO DoPの発売を楽しみに待とう。

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