デジタルファイルプレーヤーの雄、LUMIN(ルーミン)から今冬フラグシッププレーヤー「X2」が登場した。その紹介をかねて、製品開発マネージャーのリー・オン(Li On)さんとグローバル・セールス&マーケティング・マネージャーのアンガス・リュー(Angus Leung)さんが来日したので、新型機の進化ポイントについて尋ねると共に、渾身の作であるX2の音を聴いた。
初のディスクリートDAC搭載、エンジンや電源も強化
笑顔で挨拶するセールスマネージャーのアンガスさんに対し、エンジニアのリーさんはどこか緊張した面持ち。「この辺り日本も香港も同じだな」と初対面ながら彼らに親近感を抱きながら、和やかな雰囲気で製品概要について尋ねた。
アンガスさんは「X1は登場して約7年が経ちました。それまでの間にCPUは大幅に進化し、また新しいテクノロジーも誕生しています。ルーミンではファームウェアの無償アップデートで対応してきましたが、最新の仕様にアップデートしなければ対応できない部分が出始めたので、フラグシップ機を刷新する運びとなりました」とX2誕生の経緯を語る。
フラグシップといえど、時が経てば機能は陳腐化してしまうのは仕方のないところ。ネットワークプレーヤーのような製品ならなおさらだ。それでも約7年もの間、トップに君臨してきたことは驚くべきことである。では新しいテクノロジーというのは何だろうか。アンガスさんは言葉を続ける。
変更点は大きく3点あると前置きした上で、「ひとつ目がコントロール系を最新の仕様に刷新しました。これにより、Amazon Musicが再生できるようになります」。多くのユーザーが待ち望んでいたAmazonの豊富なライブラリが愉しめる。これは大きな進化ポイントだ。
次に電源まわりの刷新。ここでリーさんが口を開いた。「外付けの電源部そのものは、大きく変わりません。ですが本体内部のレギュレーター回路を大幅に改良しました。S/Nが良くなり、レゾリューションの向上に寄与しています」と自信をのぞかせる。コントロール系と電源部の改良、ここまではオーディオ機器のバージョンアップにおける常套手段だ。
だが、改良点はそれだけに留まらない。超低ジッターを誇る44.1kHz系と48kHz系のフェムトクロックを2基搭載するのは変わりないが、その後の処理が大幅にアップデート。「クロック信号を生成するFPGAをチャンネルあたり1基へとモノラル使いしています」とアンガスさんは語る。
そして「このモデルでは初めてディスクリートDACを採用しました」という言葉に、その場にいた一同は大きく目を見開いた。ルーミンは長らくESSのDAコンバーターを用いていた。だが遂にハイエンドプレーヤーのトレンドであるディスクリートDACの導入に踏み切ったのだ。
導入の経緯をリーさんに尋ねると「レゾリューションとよりパワフルなサウンドを得るために、ディスクリートDACの採用に踏み切りました」という。
リアパネルを見るとX1と同様。新たなフィーチャーはない。新製品のネットワークトランスポートのフラグシップモデル「U2X」に10MHzのマスタークロック入出力を設けたことから、何故X2では用意がないのか。
「ネットワークプレーヤーは、それだけで完結して使って頂きたいと考えています。ですのであえてつけませんでした」とリーさんは語る。どうやら今後、トランスポートとプレーヤーで機能面の使い分けをしていくのだろう。
新製品が出ると価格が上がるのが世の常だ。だがX2はX1と同じ価格で販売となっている点も嬉しい。
圧倒的なドライブ力で精緻で緻密な音世界を描く
フロントパネルのLUMINのバッジがゴールドに変わった以外、X1とX2を見分けることは難しい。ラック最上段にセットし、DELAのN1A(オーディオサーバー)に音源をインストール。プリアンプにアキュフェーズ「C-3900S」、パワーアンプに「P-7500」、スピーカーにB&W「802 D4」という布陣で試聴に臨んだ。
ルーミンの本拠地が香港ということもあり、タブレットから香港の映画音楽作曲家、エリオット・レオンによる現代の交響曲「メタバース・シンフォニー」をセレクト。この楽曲は弱音部から強奏部にかけて様々な楽器が折り重なり、スペクタクルなサウンドへと変貌する様が聴きどころであり、製品評価のチェックポイントだ。
鋭く尖らせた2Hの鉛筆を使い描いた写実画のような、精緻で緻密な音世界が眼前に姿を現わした。キャンパスは広大かつ立体的で、スピーカーが消えるという表現が相応しい。情に訴えることも、理性で抑えることもしない中庸の美学。リファレンスという言葉を安易に使いたくはないが、そのような言葉を思わず口にしてしまいそうになる。流石フラグシップというだけのことがある表現力に感心した。
驚いたのは、B&Wのウーファーを完全に手玉とったかのような圧倒的なドライブ力だ。ネットワークプレーヤーがスピーカーを直接ドライブできるハズはないのだが、そうとしか言いようのないほど支配下においている。それゆえ音楽が躍動する。しっかりとした下支えの上に音が乱舞するメタバース・シンフォニーに思わず笑みが漏れる。
スピーカーを手玉にとるかのような強い低域はポップスで活きてくる。キング・オブ・ポップことマイケル・ジャクソンが91年にリリースしたアルバム「デンジャラス」は、どの曲を聴いても、オーディオ的な凄みと音楽的な楽しみという2つの「あぶない」魅力に満ちていた。ストリングスに乗せてモナコの公女ステファニー・ド・モナコの囁きから始まる「In The Closet」は、その声と鋭いリズムの切れ味が逸品。「Heal The World」は、雄大なサウンドに乗るマイケルの優しい歌声に癒される。
リーさんとアンガスさんは、日本のサブカルチャーにも造詣が深く、試聴においてそれらの楽曲を使うこともあるという。そこでAmazon Musicから、Liaが歌う「鳥の詩」を一緒に聴いて頂くことにした。聴く前に「ジャパニーズ・アンセム(国歌)」と伝えると、2人とも笑顔に。どうやらこの楽曲の背景まで知っているようだ。
雄大に伸びた低域と緻密に作られたシンセサウンドが夏の眩しさ、爽やかさを想起させる。そこに切なさを覚えるLiaの歌声が綺麗に重なり説得力を与える。この楽曲の魅力をX2は見事に表現。思わず聴き惚れてしまった。
聴き終えて「日本のアニソンの中には、録音が悪いものがあります。ですがユーザーは録音が悪いからといって聴かないということはありませんよね。だから試聴で使って確認したりします」とのリーさんの言葉には、いかなる音楽にも対応していきたいという配慮を思わせた。
「ネットワークプレーヤーをもっと多くの人に知ってほしい」
試聴を終え、ルーミンの今について尋ねた。R&Dは約20名と少数精鋭で構成しているという。「我々は回路設計のみならず、ファームウェア、そして操作アプリまで、全て自社で開発しています。不具合が起きても全て内製ですので原因の特定と対策が、他社に比べて早いと思っています」とリーさんは自社の強みを語る。ネットワークプレーヤーで最も重要であることは、トラブルがないことだ。事実、ルーミンのアプリは操作性がよく、また試聴において、筆者はトラブルを経験した記憶がない。
続いてビジネス面についてアンガスさんに尋ねた。「私達は自社ブランドの製品のほか、他社にコントロール系のハードウェア(基板)やソフトウェアを提供するOEMビジネスも手掛けています」「OEM事業は、出来合いの物を提供するのではなく、先方の要望に対してハードウェアとソフトウェアをカスタマイズしています。コアとなる技術は同じですが、ルーミンブランドとA社、B社で同じハードやソフトを使うことはありません」。
他社への技術協力は、ルーミンブランドの製品に影響を与えないのだろうかと心配になる。「他社とはコラボレーションであると考えています。競合やライバルではないと思っています」という。そして「ネットワークプレーヤーを、もっと多くの方に認知して欲しいのです」とも。
2000年に入り、それまでCDの独壇場だったデジタルソースは、SACDやUSB-DACなどを経て、デジタルファイルプレーヤーへとたどり着いた。ルーミンはその急先鋒であり、エバンジェリストだ。「もっと多くの方に、ネットワークプレーヤーを使って欲しいと思っています」「そして今日、この場で出た音を若い人に知ってもらえたら、もっとオーディオの世界と未来は明るく拡がると思います」と2人は語る。その志の高さと真摯な姿勢に、同社とネットワークプレーヤーの明るい未来を見た気がした。






























