オーディオ評論家・山之内正氏が現地からレポート

<HIGH END>モニターオーディオ/DALI/エステロンなど多数!評論家が注目スピーカー群を聴いた

公開日 2022/05/23 16:31 山之内 正
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HighEndの開催が見送られたこの3年の間、B&Wの800D4シリーズやリンのKLIMAX DSM/3など、時代を画す重要な製品が多数登場した。いずれも大規模なイベントでの公開がなかったため、今回はそれら話題作目当ての来場者が詰めかけたが、もちろん初公開の製品や各ブランドを象徴するフラグシップモデルにも熱い視線が注がれている。さらに、日本市場には紹介されていない製品のなかにも興味を惹かれたものが少なからずある。注目機が豊富に揃ったスピーカーを中心にまとめて紹介していこう。

モニターオーディオ「Concept 50」


モニターオーディオは同社の創立50周年を記念し、コンセプトモデル「Concept 50」を公開した。2本の柱状キャビネットをメタルモジュールで連結したデザインは奇抜なもので、説明がなければこれがスピーカーと気付く人は少ないと思う。スーパーコンピューターかロボットと言われても納得してしまいそうな未来的な外観だ。

モニターオーディオ創立50周年記念のグリーンモデル「Concept 50」

もちろん奇をてらっているわけではなく、この不思議な形にはそれなりの理由がある。基本的なユニット構成は3ウェイだが、その中身が実にユニークで、特に注目したいのが連結部のバッフルに並んだ7個のユニット群だ。

6個の小口径ユニットを円周方向にアレイ状に並べたミッドレンジと、新世代のMPDトゥイーターを組み合わせ、中高域の幅広い帯域を受け持つ。アレイ状のミッドレンジは振動板面積を確保しながら広帯域をカバーし、曲面を描く独自形状のバッフルが回折と反射を劇的に改善。指向性も広い。


トゥイーターの位置を仮想の音響中心とみなし、その背後に2基ずつ計4基の20cmウーファーを向かい合わせて配置する手法も興味深い。背面のボルトでキャビネットに堅固に固定するのはモニターオーディオおなじみのアプローチだが、今回はウーファーのフレーム同士も連結している。ユニット配置の工夫で点音源再生を狙う手法はKEFのBLADEに近いが、ウーファーが内向きなので壁や床の影響を受けにくいメリットがある。

また、ミッドレンジをマルチユニットで構成したり、左右のウーファーごとにキャビネットを独立させる手法は目新しい。ウーファーキャビネットの素材は鉱物を含むコンポジット材で、石のように硬く、共振とは縁がなさそうにみえる。

コンセプトモデルながら再生音の次元は高く、特にアカペラのコーラスやヴォーカルはスピーカーの存在が消えるような自然な声のイメージが強い魅力を放つ。他の楽器の音像も3次元の立体的な造形が素晴らしく、サウンドステージの奥行きも深い。ミュンヘンのショウでは定番のEDMやテクノの音源を、音圧だけで勝負するのではなく、音が消えるときのレスポンスの良さでリズムの切れを際立たせる表現が秀逸だった。

ダリ「KORE」


デンマークのダリは例年以上に広大なスペースを確保してラインナップの充実ぶりをアピールしている。さらに、総力を投入したフラグシップモデル「KORE」を発表し、スピーカー専業メーカーとしての存在感をいっそう堅固なものとした。

DALIのフラグシップモデル「KORE」

低域の歪を劇的に改善するSMC技術を進化させてウーファーとミッドレンジに投入したほか、リボン型ユニットと35mmドーム型ユニットで構成するハイブリッド型トゥイーターも新世代に更新しており、ミッドレンジにつながる帯域と超高域それぞれの領域での歪特性を改善したという。ハイブリッドトゥイーターの進化は、磁気回路の構造を見直して低域から中低域にかけてSMCの効果をさらに引き出したことと対になるもので、低歪化の徹底という共通の役割を担っているのだ。

KOREのために新設計されたというウーファーを搭載

KOREの背面端子部

KOREの再生音はデモンストレーション会場の空気を一瞬で大きく動かすほどの力強い瞬発力があり、外観から想像する通りの強靭な音圧感にまずは圧倒された。一方、大柄なキャビネットと複数のユニット群を配置した構成にも関わらず一体感のある楽器イメージを再現することも大きな特長で、ギターやヴォーカルの浸透力とフォーカスの良さは期待を大きく上回るものだった。要素技術のブラッシュアップを積み重ねるだけでなく、スピーカーシステム全体として統一感のある音響設計を貫いている。次世代に向けてダリが目指す進化の方向が浮かび上がってきた。

エステロン「EXTREME MK II」


エストニアのエステロンが発表した「EXTREME MK II」は、その威容と再生音の懐の深さに感服させられた。外観については、天井に届きそうな背の高さと、中高域用と低域用それぞれのエンクロージャーの関係を上下に連続的に変更したり、トゥイーターの位置を調整する電動の調整機構が来場者の目を釘付けにした。

エステロン「EXTREME MK II」

創立者のワシリコフ氏にその効用を尋ねると、リスニングルームごとに微調整を行うことで、空間表現を緻密に追い込むことができるという答えが返ってきた。リモコン操作なので試聴位置で音を確認しながら調整できる。エンクロージャーの仕上げの美しさは今回も抜きん出ている。

エステロンのブースはEXTREME MK IIのサイズに見合う広い空間だが、EXTREME MKIIの再生音はその広い部屋の空気感や温度感を一変させるような本質的な質感の高さがあり、音量をかなり上げても聴き手にストレスを与えることがない。FORZAの上位に相当するウルトラハイエンド機なので、いまの日本市場への導入は厳しいかもしれないが、もし機会が得られるのであれば、聴き逃がせないスピーカーの一つとして記憶しておきたい製品である。

Wolf von Langa


エアタイトとフェーズメーションのブースで鳴っていたドイツのWolf von Langaは透明度の高い音色と開放的な空間表現に強い印象を受けた。スピーカー自体には強い個性や色付けがなく、アンプやソースコンポーネントの特長を素直に引き出す良さがあるのだが、それと同時に他のスピーカーではなかなか表現できないような澄んだ空気感をたたえているのだ。

バウハウス風のデザインを意識したという、Wolf von Langaのスピーカー(左がWVL 12639、右がWVL Serendipity)

小型のブックシェルフ型スピーカーWVL Serendipityにもその良さは聴き取れるが、フロア型のWVL 12639の音調が特に好ましい。ウーファーとAMTドライバーだけのシンプルな2ウェイ構成で、ウーファーと同一口径のパッシブラジエーターを加えたエンクロージャーはオーソドックスなボックス型を採用する。

ユニークなのはAMTドライバーを固定したアクリル板をエンクロージャー上部に載せるだけというシンプルなアプローチだ。前後の位置を自由に調整できるだけでなく、AMTの取り付け位置が非対称なので左右を入れ替えてつなぐこともできる。

AMTドライバーを固定したアクリル板は位置調整も容易

Langa氏によると、リスニングポイントとの距離や部屋の音響特性に合わせて前後に動かしたり、左右を入れ替えるのもありだという。AMTドライバーは前後に音を放射するので、背後や横の壁の音響特性によって音色や遠近感が大きく左右される。そうしたAMTならではの特長を活かし、チューニングで音を追い込むことができるのだ。

開発者のLanga氏

外観はシンプルのきわみだが、音楽的な表現力には深みがあり、ヴォーカルや弦楽器の繊細かつエモーショナルな表情が耳を心地よく刺激する。空間描写の情報量が豊富で、透明な音場のなかに立体的な楽器イメージが浮かんで、スピカーの存在を意識させない。日本にはまだ輸入されていないと思うが、ドイツでは人気が高いブランドだというのもうなずける。



最近はAMT(エアモーショントランスフォーマー)ドライバーを採用するスピーカーが急速に増えてきた。特許や製造方法をクリアした結果だと思うが、採用モデルはミドルレンジからハイエンドまで広がっており、今回のショウでは特にそのトレンドが顕著だった。デバイスメーカーの展示を集めた一角ではムンドルフが同社のAMTを展示していたが、そのバリエーションは想像していたよりもずっと広いものだった。既存のドーム型トゥイーター以上に手軽に使える高域ドライバーとして今後さらに広範囲に浸透していくことになりそうだ。

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