【インタビュー】ピアニスト・鵜塚一子さん「クラシック音楽で明日も元気に!」

公開日 2008/04/02 11:39
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ピアニスト・鵜塚一子さん
今月10日にリサイタルを開くピアニストの鵜塚一子さんに、直接お話を聞く機会を得た。ここにそのレポートをお届けしたい。

■逆境をもプラスに転換するエネルギー

鵜塚さんのCDを聴くと、その意志を感じさせる打鍵の強さ、確実さに驚かされる。どんな情熱家なのだろう、と思ってお会いしてみると、素顔の鵜塚さんは、第一声で周りを笑顔にさせてくれるような明るさを持つ女性であった。


「あと3mm指が長ければ・・・・。とよく思います(本人談)」
手は小さい、でも厚みがある。この厚みがあるから、強いタッチで弾くことができるのだろう。

鵜塚さんは桐朋学園を卒業後、ピアノの大家、ゲオハルト・オピッツに才能を見出だされ、ミュンヘン大学へ3年間留学していた。その間に、おとなしかった性格から脱皮し、今に至るという。

「海外にいると、自分からどんどんアプローチしていかないと、何もできません。ドイツにアパートを借りて通学していたのですが、その間、フランスにいる先生にも学びたくて、自分で電話で打診しパリまで通いました。アポをとると『じゃあ、明日』などと言われることが多く、飛行機の早割りチケットをとるのに間に合わなくて、夜行列車を使って通ったんです。最初は、見知らぬ人が手の届く距離に寝ている列車の中は怖かったんですが、3年間、月に2回は通っているうちすっかり慣れ、熟睡できるようになりました(笑)。」

「ピアノを弾くのは長時間同じ姿勢をとるのでギックリ腰になることもあります。ですからお風呂は欠かせません。しかしドイツのアパートはシャワーがあるのみのところばかり。やっと見つけたバス付きのアパートは代わりにピアノを借りられない環境でした。でも、私はお風呂をとったんです(笑)。その代わりに、大学にあるピアノの練習室をみっちり借りて集中して猛練習。結果、いろいろなピアノを弾くことになって実に多様なピアノと対話ができるようになりました。ピアノは一台一台調律が違います。コンサートでは調律で4割が決まるといわれるほどです。コンサート前には対話に2時間はかけるのが普通です。いろいろなピアノと対話したおかげで、1年後には私のピアノの成績は高い評価をいただけました。その時『アパートにピアノを置かなかったからだ』と話したら、2年目から自宅にピアノを置かない学生が続出したんですよ(笑)!」

■クラシック音楽を身近なものにしたい

逆境をもプラスに転換し、見事、そのドイツで国家演奏家資格ディプロム(マイスター称号)を得て卒業してきた鵜塚さん。現在は国内外の交響楽団との共演や芸術祭への参加などで忙しいが、ご自身のリサイタルも2000年から毎年行っている。

その運営は「とても大変なんです」というが、毎年続けているのは、ピアニストとして発信したいことが溢れているのにほかならない。

「以前は、リサイタルには自分が勉強してきた成果を聴いてほしい、という気持ちで挑んでいました。選曲も、クラシックを演奏している人ならば分かるというものばかりでした。ところが、回を重ねるうちに、客席ともっと距離を近くしたい、と思うようになりました。毎年、私のリサイタルに足を運んでくださる方がいらっしゃいます。もし私が逆の立場、つまりお客様だったら、と考えた時、大きな感謝と、もっとこの一期一会を大事にしなければ、と思いがこみ上げてきました。そこで、皆さんの耳によく覚えられている曲を弾くことにしたのです。」

「今回のリサイタル(2008年4月10日)の曲目は、映画でよく使われているショパンの『ノクターン』、フィギュアの浅田真央ちゃんが使っていた『幻想即興曲』など。その他にも、ジャズナンバーであるガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』も演奏します。シューマンの『クライスレリアーナ』も演奏します。シューマンは手を痛めてから作曲家・音楽評論家の道を歩みましたが、作曲の師であった人の娘、クララとの恋愛をし、その父親である師匠の激しい怒りを買います。クララとは280通もの文通をしたといわれています。そのようなつらい日々の中で『クライスレリアーナ』は生まれたのです。ですから『クライスレリアーナ』はシューマンからクララへのラブレターのような音楽なのです。私にとっても、楽譜は作曲家の思いがこめられたラブレターだと思って、それを表現していきたいと思っています。」

「ドイツでは学生のミニコンサートでも300〜400人集まるんですよ。クラシック音楽がとても身近なんです。私は(日本でも)クラシックをもっと身近なものにしたい。自分もクラシックを演奏していて、喜びでいっぱいになったり、悲しみを癒してもらっています。明日も元気に生きてみよう、と思ったりします。一人でも多くの人にこうした音楽の楽しい一時を感じてもらえたらうれしい。私がこんなに楽しいんだから……。」

鵜塚さんの言葉はまっすぐだ。楽曲に対峙し、作曲家の思いを汲み取る姿勢、喜びをもたらし悲しみを癒すという音楽の原点を常に忘れない姿勢、これらが演奏の時に形になる。まさに一期一会としてのぞむ、彼女の演奏をぜひ、聴きに行ってみよう。

(取材・文/季刊オーディオアクセサリー編集部)


鵜塚一子リサイタル
・日時:2008年4月10日(木) 19:00開演(18:30開場)
・場所:東京文化会館 小ホール(JR上野駅公園口前)
・協賛:BOSE
・マネジメント:ミリオンコンサート教会 TEL 03-3501-5638
・チケット問い合わせ先:CNプレイガイド TEL 0570-08-9990、東京文化会館チケットサービス TEL 03-5815-5452


鵜塚一子 略歴
桐朋学園大学及び同研究科卒業。ミュンヘン国立音楽大学大学院を国家演奏家資格ディプロム(マイスター称号)を得て卒業。イヴォンヌ・ロリオ=メシアン、ゲルハルト・オピッツ、ジャック・ルヴィエ、園田高弘、大島正泰、三善晃、中村紘子、井口愛子、菊地麗子の各氏に師事。全日本学生音楽コンクール第2位。園田高弘賞国際コンクール日本人最優秀賞。ブゾーニ国際コンクール、サンノンラブルテッシュ国際コンクール入賞。バイエルン国営放送、NHK教育テレビ出演他。平成17年には文化庁芸術祭、音楽部門で参加、平成19年にはチェリーブロッサムボールにて常陸宮両殿下、各国大使の前で演奏。定期的なリサイタルの他、ガルヒング交響楽団、東京交響楽団、九州交響楽団、新日本フィルハーモニー管弦楽団と共演など、国内外で活躍中。

平成20年4月5日にはNHK・FM「名曲リサイタル」にて放送予定。

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