アジアのハイエンド関係者からも熱い視線。世界に開かれる『東京インターナショナルオーディオショウ』注目トピックを総まとめ!
編集部:筑井真奈世界各国の優れたオーディオ機器が一堂に集結
日本最大級のハイエンドオーディオの祭典、東京インターナショナルオーディオショウが無事に閉幕した。今年も昨年と同じ33社が出展、“2億円”クラスのスーパーハイエンドスピーカーを筆頭に、世界各国の優れたオーディオ機器が一堂に会し、ここでしか聴けない特別な音を奏でていた。
グローバルなオーディオショウの文脈の中で見ると、同一の日程でポーランド・ワルシャワのオーディオショウやパリのオーディオ・ビデオショウも開催されていた。特にワルシャワのショウは、ドイツ/オーストリアで開催される“ハイエンド”に次ぐ、ヨーロッパ第二の規模を誇るショウと聞く。
ヨーロッパで大規模なショウが開催される中でも、Wilson AudioのCEOであるダリル・ウィルソン氏や、DALIのCEOラース・ウォーレ氏、MSB technologyのCEOであるジョナサン・グルマン氏も会場で見かけた。MARTENブラザーズのセールス担当者、AUDIOQUESTやINNUOSのアジアセールスも会場入りしていた。
目まぐるしく変わる世界のハイエンドマーケットの中でも、日本市場はまだまだ重視される存在のひとつではあるのだろう。
今年はJBLの「Summit EVEREST」初披露、Bowers & Wilkinsの「D5シリーズ」披露、Wilson Audioの「autobiography」に、Sonus Faberからは「Olympica G3」と、スピーカーの話題に事欠かない年であった。ショウの制約のある環境下とはいえ、それぞれにそのポテンシャルを引き出す工夫を凝らしたセッティングがなされていた。
アジアの関係者からの視線も熱い
事務局に確認すると、来場者数は昨年に対して微増だという。基本的に年配の男性がほとんどであることはどこのオーディオショウにも共通する特徴だが、若いマニアのグループや、家族連れなどもぽつぽつと見かけた。とはいえ、若い世代のオーディオファンの育成が大きな課題として残されていることは変わりない。
あくまで体感でしかないが、中国からの来場者が今年は大きく減り、東南アジアからの来場者が増えた印象があった。
タイ、ベトナム、シンガポールなどの東南アジア諸国のハイエンド市場はいま非常に熱いと聞く。東京ショウをベンチマークとして、さらに市場を拡大しようという視察の目的があるのだろう。
また、日本メーカーが海外の代理店を招聘し、新製品を披露したり、ビジネスミーティングを行ったりという事例も広がっている。香港・中国でアキュフェーズを取り扱っているHMGの担当者も昨年に引き続き来日し、「E-6000」などの新製品に高い期待を寄せていた。
エソテリックは昨年より、海外向けの英語でのプレゼンテーションの時間を設けている。歴史的に国内ユーザー向けへのお披露目といった色彩の強かった東京ショウだが、ここ数年は文字通り“インターナショナル”なショウへと進化しているのが感じられる。
海外からのビジターといつも話題になる、日本のショウの素晴らしい点のひとつが、日本では来場者が「静かに」音楽に集中している、ということだ。
海外のオーディオショウを訪れたことがある方はご存知だろうが、大抵の場合ブースは「ぺちゃくちゃお喋り」で賑やかで、プレゼンテーションを聞きながら動画を回したり、あるいは友人との歓談に夢中になる人々も多い。
日本のショウだけに参加しているとこの静かな環境が“当たり前”と考えてしまうが、この美点は決してグローバル標準ではない。海外メーカーの担当者からは、「日本のお客さんは静かに説明を聞いてくれるので、大変嬉しい(なのでついつい喋りすぎてしまう)」とこぼされることも多い。
静かにオーディオに向き合う、あるいは音楽に身を浸す、それは誇るべき日本のオーディオカルチャーの豊かさであると、改めて問い直す契機にもなってほしい。
Qobuz上陸に伴うネットワークオーディオの広がり
今年の注目のトピックをいくつか紹介しよう。個別ブースの模様については速報レポートや動画をみていただくとして、ひとつは「Qobuz」などストリーミングサービスの使用ブースが増えたこと、そしてアクティブスピーカーの提案例も少しずつ広がりを見せていることがある。
数年前まで、ストリーミングサービスを全面に押し出した展開をしていたのは、事実上LINNだけだった。
2024年末のQobuzの正式上陸が潮目を変えたことは間違いなく、今回は初めてB1のフロアでQobuzの特設ブースを展開していた。日本のネットワークオーディオ市場は“遅れている”と言われ続けてきたが、ここへきて急速なキャッチアップが行われていることは嬉しい限り。
日本メーカーとしてはエソテリックが2016年にリリースした「N-05」以来、ネットワーク再生を牽引してきたし、ラックスマンも「NT-07」を2023年にリリースしその流れを加速する。日本の某老舗オーディオメーカーもネットワークプレーヤーの開発を密かに進めているという噂もあり、期待が高まる。
輸入商社に目を向ければ、これまであまりネットワーク再生に積極的ではなかった会社が立て続けに参入を表明している。
太陽インターナショナルが取り扱う“1000万円オーバー”のRoon Server、TAIKO AUDIOは日本で望外の(?)大ヒットとなった。またdCSのフラグシップDAコンバーター「Varese」は、限定50名と絞った形でデモを実施、毎度満席の来場者を集めていた。
タイムロードがポルトガルの黒船・INNUOSとの契約にこぎつけたことも大きな話題で、すでにフラグシップ・トランスポート「NAZARE」についても数台の実売があったと聞く。トライオードやTADの部屋でもINNUOSのネットワークプレーヤーが活用されており、リファレンスとしての信用の高さも感じる。
またナスペックは新たに中国MATRIX AUDIOとの代理店契約を締結。高校の同級生グループが2013年に立ち上げたという新興ブランドで、ヨーロッパやアジアのオーディオショウでも大型ブースをよく見かけていた。日本市場での発展に期待したい。
驚いたのはノアのブースでROCKNAのネットワークトランスポート「WAVEDREAM REFERENCE SIGNATURE」を見かけたこと。ルーマニアの新興ブランドで、こちらも参考出品となるが今後の展開に期待したい。
Burmesterのフラグシップ・プリアンプ「249」のフロントディスプレイには「Qobuz」の文字も表示されていたので、こちらもなんらかのネットワーク対応機器ということだろう。
また今井商事のブースでは、VITAVOXの「CN-191」を活用し、LINNのネットワークプレーヤーでストリーミング再生をしていたのも印象的で、透明感の高い音質に思わず時間を忘れて聴き惚れてしまった。ヴィンテージスピーカーと最新ストリーミングの融合というのも、オーディオショウならではの新鮮な発見だ。
そう言えば今年はソウルノートがRoon Server「R-3」を発表し話題を集めていた。 ソウルノートの開発を一手に担うカリスマエンジニア・加藤秀樹氏も、「Roon Readyは世界中の多くのメーカーから発売されていますが、Roon Serverはあまり多くありません」と、新しいブルーオーシャンにソウルノートの未来を賭ける。
アクティブスピーカーの新たな可能性
アクティブスピーカーに関していえば、エソテリックのブースにてドイツ・Avantgardeの「OPUS 1」を大きくフィーチャー。プリアンプ機能まで搭載したネットワークプレーヤーと組み合わせた、ミニマムなハイエンドシステムを提案する。
ヤマハはアクティブスピーカー「NX-70A」にて、スピーカー、アンプ、DSP、ネットワークソリューションという“オーディオブランドとしての総合力”をいかんなく発揮。
Fyne AudioからもコンパクトなDAC内蔵アクティブスピーカー「CUBITT 5」が初披露されるなど、老舗オーディオブランドもアクティブスピーカーに新しい風を見ている。
プレーヤーとアンプとスピーカーを別々に選び、自分だけの音を組み上げる創造性は、HiFiオーディオの変わらぬ楽しみとして今後も残るだろう。だが、アクティブスピーカーには新しいHiFiリスナーの参入という大きな可能性がある。
某デンマークのスピーカーメーカーのCEOとも、「ヘッドホンファンをHiFi市場に取り込む」役割として、未来のアクティブスピーカー談義に花が咲いた。
安価で良質な製品にも期待!
最後に、スーパーハイエンドばかりが話題になる昨今のオーディオ市場だが、安価で良質な製品も数多くリリースされていることにも目を向けたい。同業のメディア関係者とも、「安くていい製品をしっかり紹介していきたいよね」と会場で誓い合ったところだ。
ヤマハは5万円台のBluetooth対応プリメインアンプ「R200」でHiFiエントリーの扉を用意する。本機とDALIの「KUPID」を組み合わせれば、10万円以下で本格的なオーディオを実現できる。
最初はソースはスマートフォンからのBluetooth再生で良いのだ。この組み合わせは近日ファイルウェブでもレポートを予定している。
ハーマンインターナショナルのブースではARCAMのプリメインアンプ「A5+」が展示されていた。こちらも税込11万円という価格に驚く、上質なサウンドを奏でるプリメインだ。
創業50年を迎えるイギリスの老舗ブランドだが、イエローのラインをアクセントにしたモダンなデザインもオシャレ。取材に同行してくれたミュージシャン女子も、後からこっそり「ARCAMいいかも!」と耳打ちしてくれた。
MONITOR AUDIOはキューブ型でペア9万円程度の小型スピーカー「RADIUS 1 4G」を展示。フューレンコーディネートの部屋ではフランスのelipsonブランドから「Horus B」という、こちらもペア8万円程度のスピーカーが展示されていた。以前の取材でも、elipsonはピアノの音の艶やかさが大変印象的なスピーカーであった。
海外ブランドのなかにも、きちんとエントリークラスの製品をリリースし続けている会社があることは、声を大にして訴えて行きたい。
10万円を超えるが、マランツの「MCR 60n」もCDとネットワーク再生に対応するミニコンポとして大ヒット中。サウンドマネージャー尾形氏が練り上げた、マランツのサウンドエッセンスがギュッと凝縮された期待のプロダクトだ。
オーディオ趣味は自分自身を深く知るための旅
Qobuzの日本正式スタートやハイエンド・アクティブスピーカーの市場の立ち上がりにより、日本のオーディオ市場もグローバルな動向へのキャッチアップを急速に進めている。
その一方で、日本で育て上げられてきた、“心を鎮めて音楽と向き合う”オーディオの価値が、世界市場で新たに再評価されてきている。
海外からの来訪者としばしば話題になるのが日本の「ジャズ喫茶」の文化。「ナショナル・ジオグラフィック誌」で大々的に取り上げられたことで世界的に認知が進んだようだが、店主がレコードやCDを再生し、コーヒーやアルコールと共にただ座って静かにスピーカーから流れる音楽に身を浸す、というスタイルは、どうも日本から発祥し世界に広がっていたもののようだ。海外の文脈では、「禅」や「瞑想(メディテーション)」と接続されることも多い。
またアジア諸国にとっては、日本は「オーディオ先進国」であり、自国のオーディオ文化を育むための参考事例として大いに注目されている側面もある。
オーディオ趣味は、最終的には、自分自身を深く知るための旅である。さまざまな音楽とともに世界を旅し、さまざまな音とともに己の内面を旅する。プライスタグを見ているだけでは辿り着けない、音による悦楽が、オーディオにはある。
グローバルなハイエンドオーディオの文脈を積極的に取り込みながら、日本ならではの新しいオーディオの価値を提供する。東京インターナショナルオーディオショウが、そういった場であり続けることを願ってやまない。