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公開日 2025/11/06 10:42
ダイナミックオーディオ60周年記念

一期一会の音との出会い。10億円超のオーディオ機器と充実の音楽プログラム、「マラソン試聴会」徹底レポート

ファイルウェブオーディオ編集部・筑井真奈

ここでしか聴けない、ハイエンド製品が一堂に集結


ダイナミックオーディオが主催する「マラソン試聴会」が、11月1日(土)と2日(日)の2日間にわたり開催された。他のオーディオイベントとは一線を画す、個性あふれるオーディオたちの饗宴をレポートしよう。



KANDA SQUAREにて開催された「マラソン試聴会」。総額10億円を超えるオーディオシステムが集結した


ダイナミックオーディオは、今年60周年を迎える老舗オーディオショップ。マラソン試聴会はコロナ禍による中断を挟みながらも、今年で45回を重ねる長い歴史を持つ試聴イベントである。会場は昨年と同じKANDA SQUAREだが、昨年よりパワーアップした布陣で30近いプログラムを用意して来場者を出迎えた。


マラソン試聴会の特異な点、それはショップのスタッフが主体となり、スタッフが推薦する組み合わせや比較試聴を繰り広げていく点にある。メーカーや輸入商社の垣根を越えた体験ができることはもちろん、単なる新製品紹介にとどまらず、それぞれの興味・関心をベースにプログラムが組み立てられていることが、マラソン試聴会の一期一会とも言える個性を形作っている。


 


高級DAコンバーター4機種聴き比べに酔う


今回は2日目の日曜日に1日みっちり体験させてもらったので、順次紹介していこう。2日目のメインエリア、トップバッターは4F H.A.L.III担当の島 健悟さん。ネットワークオーディオにも造詣が深く、ハイエンドのデジタル再生市場の発展に働きかけを行うキーマンの一人である。


今回は「それぞれの時代 〜ワールドブランドの今〜」と題し、ソナス・ファベール、エステロン、ピエガと人気海外スピーカー3機種を活用して、それぞれの魅力を深掘りしていった。



4F H.A.L.III担当の島 健悟さん。「それぞれの時代 〜ワールドブランドの今〜」と題した3スピーカーの競演を味わえる


ソナス・ファベールは最新の「Amati Supreme」のレッド・ロッソ仕上げを使用。島さんも“アマティにしてアマティにあらず”と、フラグシップモデル「Suprema」の技術を多く盛り込んで作られたモデルと強調。「現在の開発を率いるリヴィオさんのやりたいことを形にできたものと思います」と推薦する。


ここではハイエンドDAコンバーター4機種という贅沢な聴き比べを実施。エソテリックの「Grandioso N1」(ディスクリートDAC搭載、本機のみ国産機)、英国dCSの「Rossini APEX DAC」、CHプレシジョンの「C1.2」、MSBテクノロジーの「Discrete DAC Plus&Premier Digital Director」となかなか味わえない4モデルが登場。


セリーヌ・ディオンの「All By Myself」では、広い会場をものともしない、ストレートに飛んでくるCHプレシジョンの魅惑に改めて感動。デジタルだからこそ追求できる、4社4様のサウンドの質感の練り上げを楽しませてくれた。


 


クラシックからプログレまで、充実の音楽プログラム


今回新設された3Fの「SQUARE ROOM」は、4人のスタッフのフェイバリットな音楽を、彼らの熱い語りとともに味わえる場所。朝イチを飾るトレードセンターのカリスマ店長・厚木繁伸さんが繰り出す古今東西の名盤たちは、聴き慣れた音楽にも関わらずどれも新鮮に耳を潤す。



3Fの「SQUARE ROOM」のトップバッターは厚木繁伸さん。メインスピーカーはアヴァロンとリン


白眉はムラヴィンスキー&レニングラード・フィルの「チャイコフスキー:交響曲第6番 悲愴」。過去に何度となく、レコードからCDからハイレゾからさまざまなフォーマットで聴いてきたアルバムだが、アヴァロン「Isis Signature」で聴くそのダイナミズムは驚愕のひとこと。全身を音で満たす、スピーカーで音楽を聴くという、その悦楽の全てが詰まっている。


2時半からは赤塚昭虎さんによる“プログレ”まっしぐら、スピーカーはクリプシュの1000万スピーカー「Jubilee」。まずはこの巨大サイズに圧倒されるが、音の立ち上がりのスピード感やブリブリと唸る低域表現は老舗ブランドの技が光る。



クリプシュ「Jubilee」でプログレ聴きまくり!


ピンク・フロイドの「吹けよ風、呼べよ嵐」では、まさにホーンからリアルになにかが飛び出してくるかのよう!全身で受け止めねば吹っ飛ばされそうなエネルギーの奔流。エマーソン・レイク&パーマーの「展覧会の絵」はまさかのフル再生。クリプシュホーンは「異次元への扉」。めくるめくEL&P世界で、長い長い異世界への旅に誘われる。


爆音のプログレでちょっと頭がトンでる状態から、気を取り直して最後は上遠野 健さんの「アナログで聴くショパン」。異世界放浪からやっと現世に帰ってきた。ピアノの清廉なる響きが、異世界の旅に疲れた心を優しく受け止めてくれる。



上遠野 健さんによる「アナログで聴くショパン」


上遠野さんの個人的なショパンの思い出とともに綴られるレコードたちは、聴き手の記憶とも自然と共鳴する。ピアノだけで描き出されるその色彩のカラフルさ、あるいはモノクロームの陰影の描き込みは、ブロッドマンの持つ表現力か。リン「LP12」が持つ唯一無二のサウンドにも改めて思いを馳せる。



中国の伝統楽器「古箏」の生演奏というお楽しみも用意された



デノンのDL-103解説や“300万プラン”提案


3Fの小部屋「CONFERENCE ROOM」で特に印象に残ったのは、デノンのロングセラー・MCカートリッジ「DL-103」。DL-103が誕生したのは1960年代中盤。60年を超え、21世紀に至ってなお機構を変えずに作り続けられる、まさにオーディオの歴史を語る銘機である。その魅力を、アナログプレーヤー「DP-3000NE」の開発にも関わったデノンの生き字引・岡芹 亮さんの語りとともに体験する。



岡芹さんと聴くデノンの「DL-103」。1960年台製造の貴重なカートリッジも登場


岡芹さん所有の貴重な1960年代製造の「DL-103」も聴かせてもらう。「ダンパー等はどうしてもへたってくるものですが…」と岡芹さんは前置きするが、今聴いても新鮮で瑞々しいサウンドに胸が高鳴る。放送局用途として、耐久性と信頼性を要求されて作られたDL-103の力強さを深く納得。


ほかにも、 ネットワーク再生機能付きプリメインアンプ比較試聴では、オーレンダー、エレクトロコンパニエ、リン、デビアレと、なかなかお目にかかれない貴重な4機種が登場。多彩な機能をワンボディにまとめ上げる“インテグレーテッド”アンプは世界的なトレンドにもなっており、各社の「コンパクト化」への理念の違いも感じられて面白い。



オーレンダー、エレクトロコンパニエ、リン、デビアレの聴き比べ。スピーカーはYGアコースティクス


CONFERENCE ROOM Dのテーマは「300万円の予算内で組むオーディオシステム」。アナログからネットワークまで、オールリンによる提案や、トライオードの真空管&JBLのホーンというパワー感ある組み合わせまで種々楽しめる。オーディオが高額化する中で、実現可能な価格帯でのシステム提案、自宅でのイメージも広がりやすい。



JBL&トライオードの真空管アンプという組み合わせも熱い




ソウルノート&スフォルツァートの合同イベントも大盛況


 


川又マジックと共に味わうB&Wのアビーロード特別モデル


そろそろ2Fのメインルームに戻ろうか。柴田さんの時間では、マーテンの「Coltrane Quintet SE」に、リンの「KLIMAX DSM/3」とモノラルパワーアンプ「KLIMAX SOLO 800」のピュアネスに心を奪われる。バッハの音楽は、懺悔の調べ。己の中にある醜さや弱さをそのまま受け止め昇華してくれる、音楽だけが持つ特別な許しの時間を受け止めた。



マーテンの「Coltrane Quintet SE」をリン&ブルメスターのアンプで聴き比べ


真打は川又利明さん、「川又ワールド」全開でリスナーを究極のハイエンド世界に誘う、というよりは連行されると言った方が正しいか。日本の国産スピーカーブランド、HIRO Acousticを聴ける貴重な機会ということもあり、会場は満員状態。川又さんの語り、ハイエンドオーディオへの飽くなき情熱に耳を傾ける。



なかなか聴く機会の少ないHIROAcoustic「MODEL-C4CS」


HIRO Acousticの精緻な造形力、マーテン「Coltrane Quintet SE」のハーモニーの美しさにも聴き惚れるが、最後に登場したBowers&Wilkins「801 Abbey Road Limited Edition」はまた格別な時間を響かせてくれた。


B&Wは、イギリスの名門・アビーロードスタジオで長年モニタースピーカーとして活用されていることで知られており、今作は「801 D4 Signature」をベースに特別な仕上げを施したもの。ネック部の淡いローズカラーも目を惹く。日本国内15台限定と、ほとんど試聴会には出てこない特別なモデルである。



試聴会には初登場と思われるB&Wの「801 Abbey Road Limited Edition」


それこそ「聴き慣れた」B&Wから、新鮮で豊穣な響きを引き出すのは、これぞ川又マジックか。仕上げによるわずかな音質の違いもあるのだろうか。アンプにはデビアレの超薄型プリメインアンプ「ASTRA」を2台モノラル使用、というのも驚きだ。



B&Wの駆動には、デビアレのプリメインアンプ「ASTRA」を2台モノラルで使用


デビアレは川又さんが長年研究してきたフランスのテック・ブランド。会場ではSAM機能のオンオフのテストも実施、SAMはデビアレの特許技術で、強力なDSPを通じてウーファーの低域再生限界を引き下げ、最適な信号をアンプ側が送り出すというものだ。確かにSAMを通すことで、音の切れ味やエネルギー感が増す印象。


ぐっと心に迫ってきたのは1946年に発表され、さまざまに歌い継がれてきた「ラ・ヴィアン・ローズ」、邦題バラ色の日々。メロディ・ガルドーによるその優雅なメロディは、音楽と共に生きる人生の輝きを思い起こさせてくれる。


総額10億円を超えるシステムが集結するマラソン試聴会。だが、オーディオは金額で選ぶものではない。自分の心に一番響いた音が、あるいは音楽が、人生のかけがえのないパートナーになってくれる。


今の時代では、オーディオ機器はいくらでもインターネットで買うことができる。海外の製品を越境ECを介して買うことだって不可能ではない。だが、ダイナミックオーディオがこれほどまでの手間と時間をかけて伝えたいのは、「共に音楽を楽しみたい」という、シンプルなその思いではないだろうか。


ショップならではのアイデアとクリエイティビティ。個々のスタッフの個性を重んじる社風とミュージシャンが生み出したあらゆるジャンルの音楽へのリスペクト。価格だけでは決して語れない、オーディオに触れる深い喜びを、マラソン試聴会はあらためて教えてくれた。

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