JBL「Summit EVEREST」の真髄を山之内 正氏が聴く。「エモーショナルな表現力は未踏の高みに到達」
超弩級フラグシップがついに日本デビュー
東京恵比寿のブルーノート・プレイスで開催されたJBL創業80周年記念イベントで、新しいEVEREST「Summit EVEREST」を聴いた。
このフラグシップを聴くのはウィーンのハイエンドショウ以来3ヶ月ぶりだが、今回の試聴でその真髄に初めて触れたように思う。コンベンションセンターの環境は制約が多く、実力が伝わり切らないもどかしさがあったが、今回の会場は、ライブの舞台として日々活用されている空間だ。超弩級フラグシップのデビューにこれほど相応しい場所はない。
そしてなによりマイルス・デイビス、ジョン・コルトレーン、フランク・シナトラらの名録音をレコードで再生した菅原正二氏の選曲が良かった。集められた聴き手たちは、音には人一倍ウルサい顔ぶれだったが、日本のジャズファンを半世紀以上にわたって魅了してきたマイスターの短くも的確なコメントに異を唱える者はいない。
特に、何度も聴いてきた名曲が新鮮な音で鳴るという感想には納得がいった。「クレッセント」のコルトレーンのテナーはもっと太い音に聴き馴染みがあるが、新しいEVERESTはソリッドで明るめの音を引き出し、距離感の近さが際立っていた。エルヴィン・ジョーンズが叩くシンバルがにぎやかすぎず、それでいて一音一音が確実に立ち上がるのも爽快だ。
新たに開発された3イン1構造の高域ドライバーは、数を増やすことで各振動板の負荷を減らし、歪を抑える狙いがあるという。高域の抜けの良さにその効果を実感した。
2階席からも伝わる「エモーショナルな表現力」
ライブ盤『We Want Miles』の「ファスト・トラック」は、JBLのフラグシップでなければ聴けない熱量と浸透力の強さがあふれていた。20年前に発売されたDD66000よりもトランペットの最高音域は鮮鋭だが、音色に雑味がなく、それゆえに音が真っ直ぐ飛んでくる。
温度感を温泉の湯の温度にたとえると45度ぐらい。湯に浸かったのはいいが、熱すぎて1ミリたりとも動けない。そんな感覚のシビアな音だ。もちろん良い意味で。
この曲の途中で会場の2階席に移動してみた。EVERESTを設置したステージを上から俯瞰する位置で、ホーンの指向特性がカバーする角度からは明らかに外れている。それにもかかわらず、トランペットの音圧はそこまで確実に到達し、演奏の熱量を維持している。
低音も切れの良さが半端ではない。マーカス・ミラーのベースがはじけるように動き回り、リズムを力強くリードする。ウィーンで聴いた音源では低音の動きが重く感じられることがあったが、ブルーノート・プレイスではその気配はなく、芯のあるタイトなベースを堪能した。鳴らす空間のエアボリュームに余裕があることは、このスピーカーの真価を引き出すうえで重要な条件になりそうだ。
それにしても、小ホールと呼べるほど大きな空間をこれほどの音圧とエネルギーで満たす家庭用スピーカーはほかに思い当たらない。
通常のスピーカーの試聴では、低音の立ち上がりや声や旋律楽器の音像定位など、オーディオ目線で音の振る舞いを判断することが多いのだが、今回のEVERESTは、そこに耳がいく前に演奏そのものに引き込まれ、音楽に身を委ねざるを得ない状況に聴き手を導くところがある。
イベントの冒頭、Summitシリーズのもう一つのフラグシップ「K2」がリファレンス的な正確さを追求したのに対し、EVERESTは感性に訴えるスピーカーを目指したという説明があったのを思い出す。少なくともこの日聴いたジャズの音源については、エモーショナルな表現力において、未踏の高みに到達したスピーカーと言っていいと思う。
EVERESTの音がライブの記憶を呼び覚ます
ここからは余談。2階席からEVERESTの音を聴いたとき、この音は前に聴いたことがあるというデジャヴ感覚が突然やってきた。
記憶をたどると、それはオーディオ機器で聴いた音ではなかった。約40年前に田園コロシアムで聴いた「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」の記憶が本当に久しぶりに蘇ってきたのだ。
1980年代前半、何度か足を運んだ公演のなかではウェザー・リポートやチック・コリアの記憶が鮮烈だが、マイルス・デイビスのステージもそのなかに含まれる。スタジアム客席の高い位置からステージを観ていたのだが、トランペットの音はそこまでまっすぐ届き、むしろステージが近く感じられたことを思い出す。
もちろん今回聴いたライブと同じ音源ではなく、メンバーも違うのだが、高い位置からステージを臨む関係とサウンドの一体感には共通点がある。EVERESTの浸透力の強い音がトリガーになって、遠い記憶が鮮やかに蘇ったのだろう。
スピーカーの音を聴いてライブの感覚が蘇ることはそう多くはない。今回の経験は数少ない例外のひとつだ。





























