公開日 2023/01/12 06:35

LINNの理念が込められた中核ネットワークプレーヤー「SELEKT DSM」。ORGANIK DAC搭載モデルのオーディオ的進化をチェック

【特別企画】モジュール次第で多種多様な組み合わせを実現

演奏家の息遣いや高揚感がダイレクトに伝わってくる



(1)SELEKT DSM-EMOをリンのステレオパワーアンプKLIMAX TWINにつなぎ、B&Wの「803 D4」を鳴らす。試聴環境に最適化して定在波の影響を抑えるスペース・オプティマイゼーションをオンにして試聴を進めた。

トップパネルのボリュームコントロールの質感を確認する山之内氏

リンのDS/DSMはKATALYSTの導入後に質感表現と空間描写に余裕が生まれ、同じ音源とは思えないほど表情が豊かに感じられるようになった。ORGANIKの再生音はそこからさらにステージが一つ上がったような印象を受ける。

パワーアンプには「KLIMAX TWIN」を用意。B&Wの「803 D4」で試聴を行った

最初に気付く変化は、アーティストと聴き手の距離の近さである。物理的な距離の近さというより、これまで取り切れていなかった余分な要素がすべて取り払われることで、演奏家の息遣いや高揚感がダイレクトに伝わるようになったと感じる。

「SELEKT DSM:Edition Hub」の内部も確認。こちらは「SELEKT DSM-EMO」で、ORGANIK DACモジュールが2基挿入されている(この組み合わせの場合3基目の挿入ドックは不使用となる)

セリア・ネルゴールのヴォーカル「My Crowded House」(FLAC96kHz/24bit)は同じ部屋のなかで歌っているような現実感があって、めまぐるしく動き回るパーカッションは手を伸ばせば楽器に届きそうな近さを実感。それだけ近づいてもうるさく感じないどころか、良い意味でオーディオ装置の再生音らしさがなく、空間全体が振動するライヴ体験に近い感覚に浸ることができるのだ。

ルネサンス期のマドリガーレ(FLAC96kHz/24bit)も同じような雰囲気を味わうことができた。音域も音色も異なる声の連なりのなかから刻々と変化する和声の色彩変化が浮かび上がり、コレギウム・ヴォカーレ・ヘントのメンバーが音色と強弱を精妙に歌い分けていることがわかる。そのなかにはこれまで気付きにくかった不協和のハーモニーも含まれているので、心地よさと同時に未体験の緊張感が生まれ、その刺激がまた別の心地よさにつながる。

気付きにくい音が伝わるのは、距離感の近さだけでない。たとえばじわじわと盛り上がる息の長いクレッシェンド。演奏する側は意識して少しずつ音量を上げるが、聴き手に伝わるまでしばらく時間がかかるのが普通だ。ところが、ORGANIK仕様のSELEKT DSMで聴いていると、その微妙な強弱の変化が演奏者とほぼ同じタイミングで聴き手にも伝わる。演奏の現場に居合わせていれば視覚情報もあるので気付きやすいのだが、音だけだとそう簡単には伝わらない。そして、クレッシェンドが長いほど、最後に到達する高揚感が高まり、演奏の温度感が上がる。

A.カントロフが独奏を弾くサン=サーンスのピアノ協奏曲(FLAC 96kHz/24bit)やデ・ブルゴス指揮ニュー・フィルハーモニア管弦楽団のアルベニスの演奏(DSD11.2MHz)でその高揚感の高まりを強く実感することができた。

パワーアンプモジュールの駆動力や瞬発力にも注目



DACとその後段のアナログオーディオ回路を完全なデュアルモノ構成で設計するメリットはかなり大きいようで、ステレオ仕様のORGANIKを積む(3)SELEKT DSM-EOAだと距離感や高揚感を引き出す力がデュアルモノ仕様に比べると半歩ほど後退する。

プリメインアンプまで一体型となる「SELEKT DSM-EOA」の背面端子。ここでは「アンプ出力モジュール」が装着されている

ただし、サウンドステージの現実感やダイナミックレンジの余裕は標準DACやKATALYSTとは別次元にあり、DACの違いがもたらす変化の大きさをあらためて意識させられた。ドゥヴィエルが歌うバッハのアリアはステレオ再生なのに余韻が聴き手のすぐとなりにまで迫って包まれる感覚が心地よく、上野耕平が教会で録音した無伴奏のサックス『BREATH』(FLAC192kHz/24bit)も空間を共有する感覚に浸りながら間近で演奏に共鳴し、没入感のレベルが一気に上る。

スピーカー出力モジュール内蔵のパワーアンプは数値上だけでなく実際の駆動力と瞬発力にも余裕があり、803 D4を苦もなく鳴らし切る実力が備わる。スペースの制約を意識させずにここまでの駆動力を引き出すのがクラスDの長所なのだが、それだけではない。従来のSELEKT DSMをはじめとする製品群でリンが蓄積してきたノウハウと、新しいSELEKT DSMシリーズから導入された新開発の電源回路「UTOPIK」が重要な役割を演じているに違いない。



60万円台のMAJIK DSMから500万円を超えるフラッグシップのKLIMAX DSMまで、DSMのラインナップは従来からレンジの広さが際立っていたが、SELEKT DSMとKLIMAX DSMの間には大きな開きがあった。今回のClassic HubとEdition Hubは、100万円から300万円に及ぶ幅広い価格帯に複数の製品を投入することでラインナップ拡充を果たす意味が大きく、リンのネットワークプレーヤーの選択肢が広がることはユーザーメリットにつながる。

AKURATEは生産完了となり、今後はMAJIK、SELEKT、KLIMAXという3カテゴリーでの展開が続くことになりそうだ。SELEKT DSMはその屋台骨と呼ぶにふさわしい存在に成長を遂げている。

(提供:リンジャパン)

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