公開日 2016/12/22 14:08

オーディオテクニカの新VMカートリッジ、「針交換」できる魅力とその活用法を徹底解説

【特別企画】シリーズを超えた組み合わせテストも
■「VM760SLC」 ¥80,000(税抜)
  無垢特殊ラインコンタクト針「VMN60SLC」搭載/交換針単体価格:65,000円(税抜)

トップエンドの「VM760SLC」は無垢特殊ラインコンタクト針を搭載。ここで価格は3万円アップするが、違いはもちろん針先だけ。無垢特殊ラインコンタクト針とのことだが、同社MCカートリッジの上位モデル「AT-ART9」などへ装着されている針先に近いものと推察する。カンチレバーはマイクロリニア針やシバタ針と同様のアルミテーパーパイプだ

「VM760SLC」

クラシックは極めつけの静寂の中から森の潤いを思わせる妙なるエコーへ覆われた弦楽合奏が立ち現れる。アナログレコードなのだからS/Nがそう高いはずはないのだが、そこへ"静寂"を感じさせるのだからこのカートリッジ、まさにただものではない。あまりにも美しく、そして微に入り細にわたる超高解像度を聴かせる、大変な器の大きさと屹立した音楽性を持つカートリッジと聴くことができた。

ジャズも情報量が多く、磨き上げられたシンバルと吹っ飛んでくるバスドラムに彩られたビッグバンドの厚みと活気が素晴らしい。ジャズを聴くにはやや分析的かなとも思うところが若干あったが、おそらく、この前にシバタ針のVM750SHを聴いていなければそんな感想を抱くことはなかったはずだ。

しかし、これは見方を変えれば朗報ともいえるだろう。何といってもこの一群は、交換針を変えるだけですっかりそのキャラクターをまとうことができるのだ。VM750SHをそのまま買えば5万円だが、交換針のVMN50SHだけなら3万5,000円だからグッと手が届きやすい。

炭山氏は、針交換時の指標にするべく、カートリッジひとつひとつに対してじっくりと試聴を行っていた

カートリッジ全体ではなく、交換針のみを買えば「新しい個性が獲得できる」のだから、これを見逃す手はないだろう。ポップスはその見晴らしの良さ、各楽器の粒立ちの良さが他を圧している。アナログが本気を出したらここまですごい音を出すことができる、という一つのショーケースになりそうなサウンドだ。ジャズではやや分析的に響く側面が散見されたが、ポップスではほぼ気にならない。この強烈な表現は、できるだけ多くの人に一度は体験してもらいたいと切に願う。MM方式のカートリッジ全体の印象が変わってしまうことにもなるであろう。

針交換によるサウンドの変化を検証する

まずはVM500ボディに「VMN50SH」(無垢シバタ針)を組み合わせて聴く

冒頭で紹介した通り、今回のVMカートリッジは全てのボディと針先を相互に交換させることが可能だ。形状が合致しているのはもちろん、適正針圧やコンプライアンス、磁力の強さ、内部インピーダンスまでしっかりと全機そろえてあり、機械的・電気的には相性に問題が発生することがない。

500シリーズのボディ。素材には高剛性樹脂を使用している


そうなるとまず気になるのは、「安いボディに高級な交換針を取り付けたら高級カートリッジになるのか?」ということではないか。そこでこのたびは、いろいろな組み合わせを「スクランブルテスト」してみることにした。まずは500シリーズのボディに、無垢シバタ針「VMN50SH」を組み合わせる。クラシックはシバタ針特有の太さとコクを聴かせるが、少し緩さも加わるように聴こえる。純正のVM750SHでは濃厚ながらどこまでも見通せる音場が、500のボディへつけると濃さはそのままに、少しだけ透明度が下がる印象だ。

付け替えを行ったVMN60SLC(無垢特殊ラインコンタクト針・写真奧)とVMN50SH(無垢シバタ針・写真手前)

交換針の付け替えはいたって簡単だが、シェルを外した状態で行うのが良いだろう

しかしこの厚く深い音には、一聴の価値がある。ジャズは持ち前の厚みとコクに少し賑やかさが加わり、これは決して悪くない。「本当のハイファイ」というならVM750SHなのだが、このある種アトラクティブなサウンドもこれで捨て難い。それにしてもボディでここまで変わるのだな、というのは正直なところ。ポップスはどっしりとしたピラミッド型が、ローエンドにわずかな緩みが加わる。声のコクは結構高いレベルで再現できている。

次ページ700シリーズのボディにあえて500シリーズの交換針を使ったら?

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