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【特別企画】シリーズを超えた組み合わせテストも

オーディオテクニカの新VMカートリッジ、「針交換」できる魅力とその活用法を徹底解説

公開日 2016/12/22 14:08 炭山アキラ
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■「VM520EB」 ¥16,000(税抜)
  接合楕円針「VMN20EB」搭載/交換針単体価格:¥11,000(税抜)

「VM520EB」は接合楕円針を搭載したモデル。VM510CBと同じ接合針だが、針先形状が楕円であることが異なる。クラシックはやや低域が軽めだが高域方向の伸びが良く、音場感も丸針より明らかに広い。全体的にやや明るめで、テクニカらしさというとVM510CBよりこちらではないか。ジャズはシンバルに魂が吹き込まれたように鳴る。低域はハイスピードだがやや量感が不足すると感じるかもしれない。そこで前述のノウハウを活用して、アームを少し尻上がりにしてみたらバランスがジャストマッチ、低域のパワーが増して高域と上手く釣り合うようになった。非常に汎用性の高いサウンドが獲得できたと思う。

「VM520EB」

ポップスもこのバランスで聴いたが、明らかに演奏が活気づいて勢いに乗り、抜けが良くコクたっぷりのボーカルが朗々と歌い上げていく。これはかなり高級なカートリッジだといって人に聴かせても、十分に通用するのではないか。現代接合針の実力を思い知らされた。

■「VM530EN」 ¥23,000(税抜)
  無垢楕円針「VMN30EN」搭載/交換針単体価格:¥18,000(税抜)

VM530ENは無垢楕円針を搭載。VM520EBと同じ楕円の針先形状だが、こちらは無垢針である。接合と無垢で価格が7,000円違うのだが、音にも価格だけのちがいが確かにあった。接合楕円針は高域がややキツめで、アームを尻上がりにして聴くことによってバランスを得たが、無垢針のVM530ENにはそんな小細工はまったく必要なかった。クラシックはバランス良くすっきりと伸びて細かな情報をよく描き出し、録音現場に涼やかな空気まで味わわせるような表現能力に痺れた。

「VM530EN」

ジャズもすっきりとした表現の方向で、管楽器の伸びやドラムの抜けの良さはかなり高度なもの。もう少しだけコクがあった方がいいかなという向きには、ほんのわずかにアームを尻上がりにすることを薦めたい。ただし、この対策によって音はかなり大きく変わるので、くれぐれもやりすぎないこと。ひっくり返していえば、このカートリッジがそれだけの違いを敏感に描き分けるということでもある。

炭山氏は各カートリッジに交換する際には、入念な調整を行った上で試聴を行っていた

ポップスは各楽器がくっきりと立ち、その林立する音場へすっくと歌い手が立って歌い出す表現が実に良い。伴奏とボーカルのバランスも申し分なし。接合の2モデルも上手く使ってやれば結構なレベルの再生を引き出すことは可能だが、この無垢楕円針はそういう小細工をほぼ必要としない。いいカートリッジだ。

■「VM540ML」 ¥32,000(税抜)
  無垢マイクロリニア針「VMN40ML」搭載/交換針単体価格:¥26,500(税抜)

「VM540ML」ではいよいよ、オーディオテクニカが誇るラインコンタクト「無垢マイクロリニア針」のお出ましだ。心なしかパチパチノイズが増えたような気がするが、これはレファレンス盤が古いのと、ラインコンタクト形状により音溝との接触面積が増えたせいであろう。音楽が始まってしまえばそんなノイズなどまるで気にならず、楽音へスッと入っていけるのは優れたサウンドのアナログを聴いている時に特有の現象といってよい。

「VM540ML」

クラシックはさわやかでみずみずしく、潤いたっぷりの音場へ思わず引き込まれてしまう。弦の艶は、生のコンサートでもここまで美しく聴けることは珍しいほどの深みを聴かせる。優秀録音のレコードなのだが、その旨味をかなり高いレベルまで引き出しているのは間違いない。ジャズはVM530ENまで少し尻上がりにしてやりたくなるバランスだったが、VM540MLになると違和感は微塵もない。ソロ楽器の生々しさ、輝かしく爆発して散乱するトゥッティの厚み、ドラムのパワーとスピード感、どれもがかなり高度な領域だ。

ポップスも明らかに厚みとパワーを増し、両端へ非常によく伸びていながら帯域バランスに一切の破綻を見せないのが素晴らしい。ドスッとパワフルでしかし余分な重量感を持たないドラムをはじめとする伴奏に、ささやくようなボーカルが色気たっぷりに乗っていく。そのささやくような声の質感を耳へストレートに届けるのがすごい。本質的にダイナミックレンジが広く、弱音部の表現能力が高いのだ。

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