公開日 2015/08/28 14:28

【第132回】高橋敦の“オーディオ金属”大全 − 音と密接に関わる「金属」を知る

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

●純アルミニウム

純アルミは強度が弱いのでフィジカルな部分にはあまり利用されない。ではどこに?という話だが、純アルミは銀や銅や金ほどではないが導電性は高い部類で、そして銀や銅や金よりも軽い。それを生かしてスピーカーやヘッドホンのボイスコイルに利用されている例は少なくない。ドライバーを軽量化することでその反応、動作をより鋭敏で正確なものとする狙いだ。

ただ配線材として考える際には導電性で銅等に劣る他、アルミ系全般で「はんだ付けとの相性が悪い」というのが弱点だったりする。

古河電工の「銅クラッドアルミ線(CCAW)」はアルミ/アルミ合金を銅の薄層で覆うことではんだ付け性などを高めている。例えばオーテクのヘッドホン「ATH-M50x」のボイスコイルはこれ

ノイズシールド(外来ノイズの遮断部品)としての利用例も。こちらの写真左がマランツのプリメインアンプの電源トランスのシールドケースの例

●アルミニウム合金(ジェラルミン等)

純アルミニウムは軽量である一方で強度に難点がある。他の金属成分と合わせることで主にその点を解消、強化したのが各種のアルミ合金だ。銅、マグネシウム、亜鉛、マンガン等を合計5〜10%程度混ぜたアルミ合金「ジェラルミン」が代表で、航空機の材料としても利用されるほどに軽くて高強度。「航空機グレードのアルミ」みたいに表現されている素材はおそらく、このジェラルミン類のことだろう。代わりに耐食性や溶接性の低下が起きるが、配合の割合によってそれらの特性もトレードオフで調整できる。程度の差異はあるが基本的には加工性も良好だ。

オーディオでも軽量さと頑強さの両方が求められるところに使われる。例えばポータブルオーディオプレイヤーの筐体など。またスピーカーやヘッドホン等の振動板にもそれに適する特性のアルミ合金がよく利用される。なおアルミ系の素材はその表面の美しさを保つために「アルマイト加工」等(後述)が施されることも多い。

ジェラルミン筐体といえばこちらAstell&Kern「AK240」。こういった不思議な形状への加工性も高いのがアルミ合金の特長

アルミ系素材はいまやありふれているので、OPPO「HA-2」のように異素材である本革と組み合わせるなど、デザイン上の工夫も求められてくる

●鉄

鉄は鉄だよ!で済ませてしまいたくもなる「The 金属」だ。とはいえ説明しておくと、比較的安価で加工性が実に高いので古来から人にとって身近な金属。ただし耐食性が低く錆びる、重いといった弱点もある(純度を高めるとほとんど錆なくなるらしいが)。しかし鉄のすごさはその先、「鋼」と総称される「鉄合金」の幅広い特性にあると言えるだろう。

●鋼

鉄をベースにその特性を高めた鉄合金全般を指して「鋼」と呼ぶ。特に2%程度以下の炭素を合わせるだけでその頑強さが大きく増すというのは鉄(合金)の大きな特長だ。強く硬くなる分だけ加工性は多少落ちるが、多くの場面で利点の方が大きい。この鋼はオーディオに限らず頑強さが必要でアルミ合金等ほどの軽量さは必要がない部分には実に普通に使われまくっている。

例えば鉄にクロムとモリブデンをごく少量ずつ配合した「クロームモリブデン鋼」は、オーディオの世界でその名前が出ることはないが、一般的な鋼と言えるだろう。自転車のフレームにおいては鋼ならではのしなやかさで「古臭いけれど他に代え難い素材」として好まれていたりする、クラシカルな名材だ。…のだがオーディオにおいては、特に目立つような箇所での使用例やそれが売りになっている例はあまりないかも。普通に使われる素材なので特に目立つことは少ないのだろう。

頑強さが特に求められるディスクプレイヤーのシャーシは鋼活躍の場面。Pioneer「BDP-LX88」

鉄のプロ、TAOCのインシュレーター「TITE-25AD」はアドバンストハイカーボン鋳鉄製

次ページそして続く主な金属ラインナップ。銀やステンレス鋼など

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