公開日 2014/02/28 11:00

ECLIPSE「TD-M1」はいかにして“正確な音”を追求したのか − 開発陣に訊く

【特別企画】NOS-DAC搭載のハイレゾ対応ワイヤレススピーカー
■オーバーサンプリングフィルターをパスする「NOS-DAC」

TD-M1を語る上でまず注目したいのは、「NOS-DAC」(Non Over Sampling DAC)の採用である。従来のECLIPSのスピーカーシステムはエレクトロニクス回路を持たないパッシブタイプであるので、当然DACも持たない。デジタル音声信号のアナログ変換は、外部のオーディオプレーヤーやD/Aコンバーターなどに頼ることになる。他人任せと言えば聞こえが悪いが、パートナー次第で音が変わる要素は当然入り込む。

TD-M1のメイン基板。アンプ部やDACなどがここに含まれる。右側に取り外してあるのがネットワーク系基板だ

ここで、オーディオDACの特性についておさらいしておこう。D/A変換では入力した音楽信号と相関性を持つ、折り返し歪みや相互変調歪といったノイズが高い周波数帯域に出現する。これらの歪み成分は周波数が高く、音量も非常に小さいため、人間の聴覚ではほとんど気にならないレベルなのだが、注意すべき現象なのだ。


赤枠で囲ったチップが、NOSモードに設定されたウォルフソンの最上級DAC「WM8742」だ。その右上に位置しているチップがclass Dアンプである
一般的なオーディオは、この歪みを除去すべく、「オーバーサンプリング」という手法で歪み成分を可聴帯域よりもはるかに高い帯域に追いやり、フィルターでカットするのが定石だ。

一方、「正確な音」の再現を追求するECLIPSが着目する「インパルス応答」の視点で考えると、オーバーサンプリングは波形を鈍らせる要因となるので好ましくない。測定データをグラフ化した波形を見るとその差は歴然で、TD-M1が採用するNOS-DAC適用時は、立ち上がりと立ち下がり(収束)のレスポンスが速く、原信号に忠実であることが分かる。

これをオーディオでは「過度特性が高い」と言い、特に弦楽器や打楽器など、一瞬で鋭く立ち上がる音色を忠実に再現できる指標となる。楽器が発した音の余韻を濁さず、また、ミュートした時にスパッと切れて生まれる静寂も、過度特性の優劣がものを言う。

今回、デジタル回路部の開発を担当した城戸敏弘氏によると、DACチップの選定に際しては、要求スペックを満たしつつNOSモードが利用できる約10製品をピックアップし、さらに測定でインパルス応答の優秀なチップを選抜したという。その後に、聴感評価も行い、ウォルフソン社の最上級DACチップである「WM8742」に最終的に決定された。

富士通テン(株) TDプロジェクト 城戸敏弘氏

ちなみに、TD-M1では、iOSアプリ操作で、NOSモードをオフ(オーバーサンプリングモード)にすることもできるので、ちがいを聴き分けるのも面白いだろう。

次ページ究極のインパルス応答を実現させるデジタルアンプ

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