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<IFA>クアルコム、新ブランド「Qualcomm Dragonwing」で示すスマートホーム&スマートテレビの未来
ドイツ・ベルリンで開催されたIFA 2026のメインホールに、クアルコムが単独でブースを構えた。IoTとロボティクス向けの新ブランドである「Qualcomm Dragonwing」がスマートホームやロボティクスの方面に持つ様々な可能性を紹介するためだ。
印象的だったのはチップセットの性能をただ数値で説明するのではなく、クアルコムのパートナー企業がDragonwingを使って実現するプロダクトやサービスをより具体的に体験できる形で見せていたことだ。
ブースには開発用のリファレンスボードやSOM(System on Module)のほか、Dragonwingのチップを採用する家電やロボットもデモンストレーションを実施していた。
裾野を広げるDragonwingのチップセットを発表
クアルコムはIFAの開催に先駆けて、新しいチップセットの「Dragonwing Q-2390」と「Dragonwing IQ-2390」を発表した。それぞれにクアッドコアのQualcomm Kryo CPU、Adreno 704 GPU、そしてリアルタイム処理用のRISC-V MCUを統合し、LinuxとAndroid、Zephyr OSをサポートする。
型番に「I」が付く方のチップはインダストリアルグレードの耐久性能とコネクティビティを付与しているが、基本パフォーマンスはコンシューマデバイス向けのQ-2390と変わらない。
Q-2390とIQ-2390は、高性能なAIをより多くのコネクテッドデバイスに搭載しやすくする使命を帯びている。例えばコンシューマ向けの製品であればスタンダード級のモデルにもクラスを超えたパフォーマンスが提供できるという。
IFAの会場では各チップのSOMを展示した。Q-2390では、Fibocomがスマートモジュール「SC236」を開発。
IQ-2390ではSECOによる「Compact Vision 5」のほか、SBC、EngicamがSOMを用意する。
基板設計の負担を減らし、試作から量産へ移りやすくするパートナー連携が築かれていることも含めて、クアルコムはDragonwingの総合的な価値を提案している。なお、評価キットは2027年初頭に提供を予定している。
「AIと話す」テレビの新しい操作スタイル
Dragonwingシリーズは、スムーズな音声操作に対応するAIスマートテレビの普及を加速させる。
IFAの会場では、スマートテレビの画面上部に設置する、バータイプの「AIメディアステーション」のリファレンスモデルが体験展示を行っていた。
Dragonwing QCS8500シリーズのチップセットをベースとする試作機は、カメラなど各種センサーを搭載。デモではユーザーの顔をカメラで判定して、個人最適化されたメニューやコンテンツをテレビの画面に表示する使い方を見せた。
Dragonwingのチップを搭載するAIメディアステーションは、ハードリモコンでアプリを選択する従来の操作形式を、より自然な音声入力による「AIとの対話形式」に置き換える。
例えば最初に「面白そうな映画を探して」と、少し大づかみな質問を音声入力によって投げかけるだけで、ユーザーが利用する動画配信サービスに移動して、ユーザーの視聴履歴などデータも参照しながら候補を絞り込む。
さらにAIメディアステーションは家族のうち2人が画面の前に座っている状況も検知して、コンテンツ再生のリクエストを受けると、それぞれの好みを示す候補と、2人が一緒に楽しめそうな作品も探してユーザーにおすすめすることもできる。
顔画像や声といったデータは、ユーザーのプライバシーを守るためにも安全な取り扱いが求められる。もしデバイス上で音声コマンドに関わる処理を完結できれば、クラウドに常時データを送らなくてもサービスの個人最適化ができる。Dragonwingが持つパフォーマンスがこれを実現するという。
Dragonwingを主軸とするスマートデバイスの開発環境を充実させるため、クアルコムは2025年秋にArduino(アルデュイーノ)をグループの傘下に収めた。
「Arduino VENTUNO Q」はDragonwingの上位IQ8シリーズとSTM32H5マイコンを組み合わせた開発ボードで、最大40TOPSのAI処理性能を備える。
会場ではボードに接続したカメラからの映像をVLM(視覚言語モデル)による解析にかけて、ユーザーの服装に関するアドバイスを音声とテキストで返すフィッティング・ナビゲーターのようなアプリケーションを、体験できるコンセプトとして展示した。
オペレーティングシステムにはUbuntuを搭載し、近くDebianにも対応する予定だ。Arduino App LabからLLMやVLM、音声認識などを呼び出せるため、ローカルAIを活用するアプリケーションの試作も迅速にスタートできるという。
Dragonwingを搭載するスマートデバイスどうしが連携する
いわゆるスマートディスプレイのようなスマートホームのコントローラー製品も、クアルコムのDragonwingがより賢く使いやすいデバイスに高める可能性も示された。
IFAの会場で、Dragonwing Q-8750を搭載する最新の「Qualcomm AI Home Hub」のコンセプトを体験した。
筆者は同じコンセプトの試作機を今年のCES 2026に出展したクアルコムのブースでも見ているが、本体のデザインやユースケースもより洗練された印象を受けた。Q-8750は最大77TOPSのAI処理性能を持ち、最大110億パラメーターのLLMを端末上で動かせるコンシューマ機器向けのチップセットだ。
複数のカメラ映像や家電の情報を1カ所で処理し、家庭内のデータをローカル内で安全に処理できる点が強みになる。
デモでは屋外に設置したセキュリティカメラが野生のコヨーテを検知すると、ハブをコントロールセンターとして、ホームネットワークにつながっている四足歩行ロボットを起動して威嚇、危険な動物を追い払う一連の流れを見せた。
本体にカメラを内蔵する “スマート冷蔵庫” のようなデバイスとDragonwingの相性も良い。具体的な名前は伏せられていたが、同社のチップセットを採用する商品を欧州で展開するメーカーがあるようだ。
IFAのブースに展示したスマート冷蔵庫の試作機は、本体の内部に3つのカメラを載せて、Dragonwing Q-6690に統合されたUHF RFIDリーダーから購入日や消費期限の情報も取得する。食材を無駄にしないレシピを提案し、その内容を別室にあるAIホームハブのディスプレイにも表示できる。
ポイントはAIホームハブと冷蔵庫、ロボットがそれぞれ個別に賢くなるだけではないことだ。
エッジデバイスには必要十分な演算能力を持たせながら、より負荷の大きな推論や家庭全体の文脈理解をAIホームハブに集約する。各エッジ機器がユーザーの生活情報を共有し、検知から判断、行動までを連携させるところにクアルコムが描く、次世代のスマートホームのストーリーがある。
AnkerからDragonwing搭載のスマートホームハブが誕生
スマートホームにおけるDragonwingの展開が、今の時点で既にリファレンスだけにとどまらないことを証明する好例がある。AnkerがIFAで発表したスマートホームハブの「Anker MindBase」だ。
Ankerのブース担当者に聞くと、本機にはクアルコムのDragonwingのチップセットが採用されているという。従来のHomeBaseの役割を発展させ、Ankerのセキュリティカメラに加えてMatter対応の他社機器も束ねる、家庭用のローカルAIハブとして商品化されたとしている。
ボックス型のAI Coreは26TOPSの処理性能を備え、最大20台のカメラと34個のセンサーに対応する。
映像を横断的に解析しながら一つのイベントとして要約し、「玄関の前に見慣れない人がいた場面」といった自然言語で記録を検索できる。最大48TBまで拡張可能なローカルストレージも備え、映像や家庭内データをクラウドへ預けずにローカルで管理する。
まずはセキュリティを軸に始まり、将来はエネルギー管理や掃除、家電制御を担うAIエージェントにも用途を広げる計画だ。
クアルコムのIFAのブースには、ほかにもDragonwing Q4シリーズを搭載し、スチーム洗浄と水拭きを行うサムスン電子のロボット掃除機「Bespoke AI Jet Bot Steam Ultra」も並んだ。
ロボティクスでは高性能なIQ9シリーズのチップを載せた四足歩行ロボットや、サッカーボールを蹴ることができるBooster Roboticsの小型ヒューマノイドも実演された。
IFAはベルリン市内から遊びに来る一般来場者や、欧州を中心に世界各国から商談のため訪れるトレードビジターにより賑わうイベントだ。
視点をテクノロジーに偏らせることなく、コンシューマ目線からわかりやすく「Dragonwingがもたらす豊かな暮らし」を視覚化、あるいは体験化したクアルコムの展示は、筆者にとっても学ぶべきものがとても多かった。
クラスごとにベストパフォーマンスを提供するチップセットだけでなく、開発を身近にするリファレンスキットが同時に充実することで、今後Dragonwingを搭載するスマートデバイスは種類・数ともに充実しそうだ。
Dragonwingがもたらす変化は個別の家電によるAI性能を高めるだけでなく、スマートホームハブのようなデバイスを中心に、家庭の中だけで安全にデータを保持しながら、機器どうしが高度に協調して豊かな暮らしを実現する未来をリアルに実感させてくれた。

























