公開日 2021/03/06 07:00
“使用禁止のネガ”に“失われたはずの予告フィルム”、『4Kゴジラ』制作秘話がゴジラ映画の考古学だった
「史上最“恐”画質」は伊達じゃない!
日本映画放送株式会社が運営する専門チャンネル「日本映画専門チャンネル」、および「日本映画+時代劇4K」にて、特集放送「『ゴジラ』シリーズ 4Kデジタルリマスター 最恐画質 8ヶ月連続放送」が3月6日(土)の『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>を皮切りに開始される。
本サイトでも放送決定の報を取り上げていたのだが、幸運にも『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>の試写会に参加する機会を得た。やはり常日頃から「この手のものが好き」と周りにアピールしておくものだ。
調布に所在する東京現像所の試写室スクリーンで観賞した本作だが、正直なところ「綺麗になった」のひと言で片付けてはならない高繊細な画の連続に、「信じられません。 全く信じられません!」と恐れ入った次第。試写会とはいえ観賞に金銭のやり取りが発生しなかったことに罪悪感すら覚える。良い物にはお金、払いたくなりますよね?
『初代ゴジラ』は、白黒映画だからこそ活きてくる演出、形容し難い不気味さを備えた作品であるため、この例えは不適当かもしれないが、まるで「色だけが抜け落ちた」かのような映像となっているのだ。この年代の映画に見られるフレームの揺れ等も一切無く、67年前に撮られたフィルムをここまで綺麗にするには、どのような工夫がされているのだろうか?
そこで試写から2週間以上を経て、東京現像所を再び訪れ、営業担当の清水俊文氏、技術コーディネーターの小森勇人氏にお話を伺った。
日本映画専門チャンネル編成担当の三瓶祐毅氏を交えながら、『初代ゴジラ』をはじめとするゴジラシリーズリマスター作業の実態や、「『ゴジラ』シリーズ 4Kデジタルリマスター 最恐画質 8ヶ月連続放送」について聞くうち、4K化ラインナップにある『東宝チャンピオンまつり』上映作品のレストア作業や、この特集放送にて初公開となる「復元されたオリジナル予告編」など、ゴジラファンなら目が離せない内容も飛び出した。
■7年前の作業があってこその今回の4K版
−−『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>では、これまで観たことのない鮮明な「初ゴジ」に感動しました。「初ゴジ」というと、2014年にも「60周年記念デジタルリマスター版」としてレストア作業が行われたかと思います。今回の「4Kデジタルリマスター版」は「60周年記念デジタルリマスター版」と比較して、どのような作業が新たに行われたのでしょうか?
小森 「60周年記念デジタルリマスター版」においても、素材となるフィルムのスキャニングは4Kサイズで行っていますが、スキャニング以降の作業は全て2Kで行っておりました。今回の「4Kデジタルリマスター版」では、スキャニング以降のレストア、グレーディング、マスター作成に至るまでの全てを、インからアウトまでフル4Kで実施しております。
清水 今回のマスターに関しては「60周年記念デジタルリマスター版」製作の際に行った4Kスキャンと同様のものを使用しているので、今回新たにフィルムをスキャンし直すということはしていません。ただ、そこからのお色直し的作業は全てイチからやり直しています。
小森 古い作品だけに、初代ゴジラは傷が多いし、劣化もひどいので大変な作業なのですが、各担当部署に「もう一回、ごめんね!」という感じで作業をお願いしました(笑)。
−−「60周年記念デジタルリマスター版」とスキャン素材が変わらないということは、前回の4Kスキャンの際に行った「初ゴジ」フィルム捜索のようなことはしていないのでしょうか?
清水 本当はオリジナルネガ(撮影用カメラに装着され、露光されたオリジナルのフィルム)があれば一番いいのですが、そのオリジナルネガは可燃性フィルム…ナイトレートフィルムと言うのですが、今では危険物扱いの素材なんです。火をつけてしまうと一瞬にして燃え上がって、水に入れても消えないような、爆発物みたいなものなんですよ。
今では危険物扱いの持っていてはいけない素材になっていまして、東宝は70年代にそれらを全て不燃フィルムに置き換えて、オリジナルを処分してしまっているのです。その置き換えられたフィルムが実は何種類もありまして、その中から選別するという作業を「60周年記念デジタルリマスター版」製作時に実施しました。その中で一番良い状態のものをスキャンして、足りない所を別の素材から持ってきて、という感じでマスターを作成しました。
小森 フィルム選定という作業では、私は7年前の当時は参加していませんでした。当時の先輩たちが非常に大変な作業を行い、それを私が引き継がせていただきました(笑)。結果、状態の良いものを見つけていただいてあったので、今回の『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>に関してはそのような作業を行っておりません。
清水 ちなみに小森は、「60周年記念デジタルリマスター版」のグレーディングを担当していまして、色調整や露出調整で作品を綺麗にした本人なんですよ。
小森 今日に至るまで、最高画質の「初ゴジ」としての使命を無事果たしてくれました(笑)。
−−なるほど! 「4Kデジタルリマスター版」製作に当たって、また素材とするフィルムの捜索を再度行っていたのかと思い込んでいました。厳密には「60周年記念デジタルリマスター版」における作業かと思いますが、マスター製作の話をもう少し伺ってもよろしいでしょうか?
清水 もちろんです。「初ゴジ」の4Kスキャン素材の元となったフィルム選定についてお話する前に、順を追ってその仕組みを説明します。まず、フィルムの性質として、ネガを複製するとポジに、ポジを複製するとネガにという関係性が前提にあります。
ポジ属性となる上映用のフィルムを作成するには、オリジナルネガからマスターポジという保存用のポジを作ります。その保存用ポジフィルムから、上映用フィルムの親になるネガフィルムを作成します。この複製用に作られるネガフィルムは、デュープ(dupe=「複製」の意)ネガと呼ばれます。これを複製することで各劇場に配られていた上映用のポジフィルム、俗にプリントと呼ばれるものが完成します。オリジナルネガで直接上映用プリントを焼く作品も多いですが、ポジとネガの関係性は上記のとおりです。
「60周年記念デジタルリマスター版」の作成に際して行った捜索で、「初ゴジ」のフィルムは「マスターポジ」「デュープネガ」、そして「『使用禁止』のデュープネガ」の3種類が、まるごと映画1本分残っていたことが判明しました。「可燃性故に破棄したオリジナルネガに一番近いものはそこから生まれたマスターポジだ!」となるのですが、フィルムに刻まれた情報を調べていく内に、この「マスターポジ」は一緒に発見された「デュープネガ」からさらに複製されたものだったことが分かりました。となると、世代的にオリジナルに近いものとして扱えないわけです。
そしてもう一つ、フィルム缶前面に大きく『使用禁止』とかかれた「『使用禁止』のデュープネガ」は、使用禁止された理由も分からずで、怖くて使えずにいたのですが、蓋を開けてみると中身は使用禁止とされているだけあって、非常に良い状態でした。そして、調べていくと世代的にはこちらの方がオリジナルに近いフィルムでした。
では、何故使用を禁止されているか、それを突き詰めていくと、どうやら幾つかのロールに傷が入っているからダメということなんです。裏を返せば「傷が無い部分に関しては使っていいんだな」ということになるので、上記の「『使用禁止』のデュープネガ」をベースとして、足りない部分をもう一つの「デュープネガ」と「マスターポジ」から取ってきて1本に編集しているという感じです。
小森 フィルムのエッジを見ますと、それが何年製のものになるのか、フィルムの世代がわかるわけです。そこから一番オリジナル、公開の1954年に近しいものを探していった形になります。
清水 エッジの情報によると「デュープネガ」は1955年か75年と書いてあるのですが、恐らく75年のものになると推定されます。55年となるとまだナイトレートの時代になりますので、該当しないかなといった次第です。「『使用禁止』のデュープネガ」は73年。そして当初は一番古いとしていた「マスターポジ」はなんと83年のものでした! こういうことが往々にしてありますので、どのタイトルでもデジタル化の作業の際には、現存する全てのフィルムを出して調べるところから始めています。
本サイトでも放送決定の報を取り上げていたのだが、幸運にも『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>の試写会に参加する機会を得た。やはり常日頃から「この手のものが好き」と周りにアピールしておくものだ。
調布に所在する東京現像所の試写室スクリーンで観賞した本作だが、正直なところ「綺麗になった」のひと言で片付けてはならない高繊細な画の連続に、「信じられません。 全く信じられません!」と恐れ入った次第。試写会とはいえ観賞に金銭のやり取りが発生しなかったことに罪悪感すら覚える。良い物にはお金、払いたくなりますよね?
『初代ゴジラ』は、白黒映画だからこそ活きてくる演出、形容し難い不気味さを備えた作品であるため、この例えは不適当かもしれないが、まるで「色だけが抜け落ちた」かのような映像となっているのだ。この年代の映画に見られるフレームの揺れ等も一切無く、67年前に撮られたフィルムをここまで綺麗にするには、どのような工夫がされているのだろうか?
そこで試写から2週間以上を経て、東京現像所を再び訪れ、営業担当の清水俊文氏、技術コーディネーターの小森勇人氏にお話を伺った。
日本映画専門チャンネル編成担当の三瓶祐毅氏を交えながら、『初代ゴジラ』をはじめとするゴジラシリーズリマスター作業の実態や、「『ゴジラ』シリーズ 4Kデジタルリマスター 最恐画質 8ヶ月連続放送」について聞くうち、4K化ラインナップにある『東宝チャンピオンまつり』上映作品のレストア作業や、この特集放送にて初公開となる「復元されたオリジナル予告編」など、ゴジラファンなら目が離せない内容も飛び出した。
■7年前の作業があってこその今回の4K版
−−『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>では、これまで観たことのない鮮明な「初ゴジ」に感動しました。「初ゴジ」というと、2014年にも「60周年記念デジタルリマスター版」としてレストア作業が行われたかと思います。今回の「4Kデジタルリマスター版」は「60周年記念デジタルリマスター版」と比較して、どのような作業が新たに行われたのでしょうか?
小森 「60周年記念デジタルリマスター版」においても、素材となるフィルムのスキャニングは4Kサイズで行っていますが、スキャニング以降の作業は全て2Kで行っておりました。今回の「4Kデジタルリマスター版」では、スキャニング以降のレストア、グレーディング、マスター作成に至るまでの全てを、インからアウトまでフル4Kで実施しております。
清水 今回のマスターに関しては「60周年記念デジタルリマスター版」製作の際に行った4Kスキャンと同様のものを使用しているので、今回新たにフィルムをスキャンし直すということはしていません。ただ、そこからのお色直し的作業は全てイチからやり直しています。
小森 古い作品だけに、初代ゴジラは傷が多いし、劣化もひどいので大変な作業なのですが、各担当部署に「もう一回、ごめんね!」という感じで作業をお願いしました(笑)。
−−「60周年記念デジタルリマスター版」とスキャン素材が変わらないということは、前回の4Kスキャンの際に行った「初ゴジ」フィルム捜索のようなことはしていないのでしょうか?
清水 本当はオリジナルネガ(撮影用カメラに装着され、露光されたオリジナルのフィルム)があれば一番いいのですが、そのオリジナルネガは可燃性フィルム…ナイトレートフィルムと言うのですが、今では危険物扱いの素材なんです。火をつけてしまうと一瞬にして燃え上がって、水に入れても消えないような、爆発物みたいなものなんですよ。
今では危険物扱いの持っていてはいけない素材になっていまして、東宝は70年代にそれらを全て不燃フィルムに置き換えて、オリジナルを処分してしまっているのです。その置き換えられたフィルムが実は何種類もありまして、その中から選別するという作業を「60周年記念デジタルリマスター版」製作時に実施しました。その中で一番良い状態のものをスキャンして、足りない所を別の素材から持ってきて、という感じでマスターを作成しました。
小森 フィルム選定という作業では、私は7年前の当時は参加していませんでした。当時の先輩たちが非常に大変な作業を行い、それを私が引き継がせていただきました(笑)。結果、状態の良いものを見つけていただいてあったので、今回の『ゴジラ(1954年)』<4Kデジタルリマスター版>に関してはそのような作業を行っておりません。
清水 ちなみに小森は、「60周年記念デジタルリマスター版」のグレーディングを担当していまして、色調整や露出調整で作品を綺麗にした本人なんですよ。
小森 今日に至るまで、最高画質の「初ゴジ」としての使命を無事果たしてくれました(笑)。
−−なるほど! 「4Kデジタルリマスター版」製作に当たって、また素材とするフィルムの捜索を再度行っていたのかと思い込んでいました。厳密には「60周年記念デジタルリマスター版」における作業かと思いますが、マスター製作の話をもう少し伺ってもよろしいでしょうか?
清水 もちろんです。「初ゴジ」の4Kスキャン素材の元となったフィルム選定についてお話する前に、順を追ってその仕組みを説明します。まず、フィルムの性質として、ネガを複製するとポジに、ポジを複製するとネガにという関係性が前提にあります。
ポジ属性となる上映用のフィルムを作成するには、オリジナルネガからマスターポジという保存用のポジを作ります。その保存用ポジフィルムから、上映用フィルムの親になるネガフィルムを作成します。この複製用に作られるネガフィルムは、デュープ(dupe=「複製」の意)ネガと呼ばれます。これを複製することで各劇場に配られていた上映用のポジフィルム、俗にプリントと呼ばれるものが完成します。オリジナルネガで直接上映用プリントを焼く作品も多いですが、ポジとネガの関係性は上記のとおりです。
「60周年記念デジタルリマスター版」の作成に際して行った捜索で、「初ゴジ」のフィルムは「マスターポジ」「デュープネガ」、そして「『使用禁止』のデュープネガ」の3種類が、まるごと映画1本分残っていたことが判明しました。「可燃性故に破棄したオリジナルネガに一番近いものはそこから生まれたマスターポジだ!」となるのですが、フィルムに刻まれた情報を調べていく内に、この「マスターポジ」は一緒に発見された「デュープネガ」からさらに複製されたものだったことが分かりました。となると、世代的にオリジナルに近いものとして扱えないわけです。
そしてもう一つ、フィルム缶前面に大きく『使用禁止』とかかれた「『使用禁止』のデュープネガ」は、使用禁止された理由も分からずで、怖くて使えずにいたのですが、蓋を開けてみると中身は使用禁止とされているだけあって、非常に良い状態でした。そして、調べていくと世代的にはこちらの方がオリジナルに近いフィルムでした。
では、何故使用を禁止されているか、それを突き詰めていくと、どうやら幾つかのロールに傷が入っているからダメということなんです。裏を返せば「傷が無い部分に関しては使っていいんだな」ということになるので、上記の「『使用禁止』のデュープネガ」をベースとして、足りない部分をもう一つの「デュープネガ」と「マスターポジ」から取ってきて1本に編集しているという感じです。
小森 フィルムのエッジを見ますと、それが何年製のものになるのか、フィルムの世代がわかるわけです。そこから一番オリジナル、公開の1954年に近しいものを探していった形になります。
清水 エッジの情報によると「デュープネガ」は1955年か75年と書いてあるのですが、恐らく75年のものになると推定されます。55年となるとまだナイトレートの時代になりますので、該当しないかなといった次第です。「『使用禁止』のデュープネガ」は73年。そして当初は一番古いとしていた「マスターポジ」はなんと83年のものでした! こういうことが往々にしてありますので、どのタイトルでもデジタル化の作業の際には、現存する全てのフィルムを出して調べるところから始めています。
次ページ「オリジナルネガ、初号試写の画と音」を目指すという至上命題
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