公開日 2019/03/29 06:15
オーディオテクニカが開発した「A2DC端子」はリケーブルの課題をいかに解決したのか? キーマンに聞いた
高接続安定性と高音質を実現するオーディオ専用端子
■MMCX端子特有の懸念点を解決したA2DCの構造
A2DC端子はMMCX端子をベースとした同軸構造であり、外観も似てはいるが、様々な点でMMCX端子とは異なっている。
一般的にMMCX端子は、端子の中央にピンがあり、その周囲がリング状になっている。メス側の中央にはピンの受けが配置されている。中央のピン(内部導体)と周囲のリング(外部導体/グランド)がそれぞれメス側に接することで導通する。
その一方でA2DC端子は、オス側のリング部分(外部導体/グランド)にスリットが入っていて、バネのように常に外に向かって開く構造になっている。これにより、オス側のリング部が、メス側のリングの受けにより確実に密着するようになっているのだ。この構造により、「オス側とメス側が完全に接しない箇所が存在している」という問題も解決できたという。
こうした構造は、着脱の繰り返しに強いという特徴にもつながる。「A2DC端子は必ず接点が確保される形状になっているのです。外側に開くというのは、バネのようにたわむということです。ですから、繰り返し脱着してもへたりにくいという長所も備えています。脱着を繰り返しても、より長期的に安定した接続性を確保できるのです」(田久保氏)。
「リング部に柔軟性(遊び)があるため、MMCX端子に比べて、公差が大きくても接続性を確保できるという強みもあります」(京谷氏)。
■MMCX端子よりも大きなサイズは音質にも影響する
また、MMCX端子は中央のピンがオス側にあるが、A2DC端子ではピンがメス側にあり、オス側の中央はピンの受けになっている。さらにピン受けの周囲はプラスチックで補強され、ピン受け広がりやピンの折れを防ぐ構造となっている。
A2DC端子はMMCX端子に比べて大柄で、リング部もより径が大きく、長く設計されている。これによりMMCX端子にくらべて大きな接合面積を確保して安定した接続が可能になり、さらには抵抗値を下げることにも貢献する。音質の観点からコネクターの抵抗値も意識して、接合部の面積を広くする設計を行ったのだという。
「サイズがMMCX端子に比べて大きいのは、オーバーヘッド型のヘッドホンで用いることを想定しているというのもあります」と田久保氏。実際、ポータブル用途も想定した密閉型ヘッドホン「ATH-MSR7b」をはじめ、同社のフラグシップとなる解放型ヘッドホン「ATH-ADX5000」でもA2DC端子が採用されている。
■接続部が回転しにくいこともA2DC端子のメリット
A2DC端子の長所として「接続部が回転しにくい」ことも挙げられる。一般的なMMCX端子では回転抵抗が小さく、接続部がくるくると回転してしまう。これは接続の安定性という点ではマイナス要素で、さらには端子の摩耗にもつながる。摩耗によって端子に付着するゴミもノイズの原因になる。A2DC端子はリング部が外側に広がろうとする分、回転抵抗が大きくなる。よって回転しにくく、摩耗も起こりにくいという。回転抵抗が大きいことは装着時の安定感にも繋がるといえる。
どれほど優れた導体をケーブルに用いようと、端子の接続が安定していなければ意味がない。「音切れ」しやすさの解消は音質以前の問題であるが、このようにして確保された接続の安定性は、音質面でも有利に働く。
「MMCX端子採用のリケーブルが市場に多く登場した頃には、公差内とはいえMMCX端子の寸法の誤差が大きいものもあったようです。そのため、使うリケーブルによっては音切れなどが出てくるという問題をイヤホンのレビューでよく見かけました。その辺りをA2DC端子で改善できたらな、という思いがありました」(京谷氏)。
京谷氏によれば、A2DC端子を採用したことによって、同社イヤホンの端子にまつわる故障やトラブルの問い合わせは、それまでと比べて激減したのだという。
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