DALIの “プレミアム” なコンパクトスピーカー「KUPID」、音楽にいつまでも没頭できるサウンドに迫る
最もシンプルに音楽再生の本質を表す存在、そんな究極的な存在とも言えるスピーカー「KUPID(クーピッド)」が、デンマークの人気スピーカーブランドDALIから登場した。
片手に載せられるほどのコンパクトな筐体サイズに、様々な内装にもマッチングさせやすい豊富なカラーバリエーションを揃え、価格と併せて幅広いユーザー層に対する高い訴求力を持つ存在だ。
しかしながら、その真髄は、同社が2022年に発表した超弩級のフラグシップモデル「KORE」から受け継ぐ音質を与えられていることにある。実際に、DALIのCEO自らの理想を結実させたKOREと同じく、最エントリーモデルながらもCEOが積極的に関与して生み出されたのだという。
それだけに、KOREで辿り着いた高音質技術を単に継承するだけでなく、KUPID専用にブラッシュアップされた技術も細部に施されている。その実力は、エントリーらしからぬ達観のスケール感を持った表現力を獲得している。まさに、全ての音楽ファンとオーディオを結びつける “キューピッド” たる存在と言えるだろう。
デザインから音質性能まで、エントリーユーザーはもちろんのこと、Hi-Fiオーディオファンの注目を集めること間違いなしであろう本機のクオリティを、異なるシステムで徹底チェックしていく。
KORE同様に軽快で繊細なレスポンスを追求した専用トゥイーターを搭載
KUPIDは、シンプル&オーソドックスを極めた、2ウェイ・小型ブックシェルフスピーカーと言える。そもそもDALIは、シルクドーム・トゥイーターやウッドファイバーコーンなど、自然由来の有機素材を使用した振動板によるユニット構成を堅持することで独自のサウンドを築き上げてきた。
当然、今回のKUPIDもそれを踏襲したものだが、注目すべきは、KOREで掲げた理想を小型スピーカーの中で実現するために、KUPIDだけのために専用開発されたものとなっている点である。よって、KUPIDはシリーズ化されることなく、本機だけのラインナップになるという。
通常は、様々なニーズに対応するとともに、開発や量産効率を高めるためにも、ユニットやキャビネットなどを汎用化してシリーズを形成することが一般的だ。それらを考慮すると、KUPIDがいかに特別な存在であるかが理解できる。
高域を担当するトゥイーターだが、俊敏なレスポンスを追求して磁性流体を排したKOREのトゥイーターの設計思想と同じく、磁気回路のギャップ部分に充填する磁性流の粘性を可能な限り下げることで、KORE同様に軽快で繊細なレスポンスを追求。コストの関係で磁性流体を完全にゼロにすることは難しいが、それに近いレスポンスを実現したという。
ただ、ウーファーとのクロスオーバーが2.1kHzと低めの設定となっているため、低い周波数の大きな振幅をコントロールする磁性流体に代わる存在が必要となるが、それを解決するために、強力な磁力を持つネオジウムマグネットを採用する。
このクラスのスピーカーでは、通常はコストの関係からフェライトマグネットを使うのが一般的だ。実際に同社の “OBERONシリーズ” でもフェライトマグネットが使われており、このトゥイーター部分だけ見ても、既にOBERONとは異なる思想で作られていることが分かる。
伝統のウッドファイバーコーンにスフェリカル型とアルミ製カプラーを導入
次にウーファーだが、振動板には、ペーパーにウッドファイバーを混ぜた、DALI伝統のウッドファイバーコーンを使用。形状は、パラボラアンテナのような深さの薄いお椀のような形をした、115mm径のスフェリカル型(球型)が採用されている。
このスフェリカル型は、ウーファーが振幅した際に高域特性が減衰しやすい形状で、クロスオーバーネットワークをシンプル化できる強みがある。とりわけKUPIDのような小口径なウーファーユニットの場合は、フルレンジユニットに近い高域特性を持ちやすいため、このような形状が有効だ。同様に、底の浅い形状は、深いカーブを持ったウーファーに比べて、音色のカラーレーションへの影響も少ないのではと推察する。
ただ、その形状ゆえに強度が保ちにくいという欠点も出てくるため、それを補うためにアルミ製のカプラーを取り付けることで強度を保つとともに、磁気回路内での正確なセンタリングを実現しているという。
これによって、ウーファー側のネットワークは、コイルが1発のみのシンプルな1次フィルターを実現している。ちなみにトゥイーター側のハイパスフィルターも2次フィルターを採用し、総じてシンプルなネットワークとなっている。
加えて、ハイパス側のコンデンサーも、上位のOBERON含めこのクラスは一般的に電解コンデンサーが使われるところ、KUPIDではフィルムコンデンサーが奢られていることも注目のポイントだ。
OBERON以上の厚みをもったエンクロージャー。ネジ止めが見えないデザインも秀逸
エンクロージャーも手抜かりがない。まず、上下の四隅が奥行き方向に向かってラウンド形状になっていることがデザインの大きな特徴だろう。OBERON含め、この価格帯では通常ここまでの加工を見かけることは少ない。
板材のMDFもOBERON以上の厚みを与えられており、塩ビ素材の化粧シート仕上げもラッピング工程を採るために厚めのものとなっているため、強度アップにつながっているのだという。バスレフポートの両端は、風切り音や共鳴感を抑えるダブルフレア形状になっており、細部にもしっかりと音質への配慮がなされていることが嬉しい。
そして何より、内側からのネジ留めにより、外観からは後方を含めて一切ネジが見えないことも秀逸だ。ウーファーの振動板の色と仕上げの色が統一されていることと併せて、洗練されたルックスを実現。実に気の利いた設計となっており、愛情を持ってデザインされていると筆者は強く実感した次第だ。
「CD 50n」+「MODEL 60n」で、KUPIDの実力を徹底チェック
早速その実力をチェックしていこう。まず、リファレンスとして、マランツのネットワークCDプレーヤー「CD 50n」とプリメインアンプ「MODEL 60n」を組み合わせてみる。両者はいずれも20万円台であり価格的には格上となるが、それだけにKUPIDの実力は十分に引き出せることだろう。
「軽快で伸びやかなサウンドで、弦楽器の音が目に浮かぶような勢いで満ちる」
はじめに「MODEL 60n」単体でロスレスストリーミング・サービス「Qobuz」の音源を再生してみた。ボーカルソースでは、小型スピーカーならではのピンポイントなフォーカスで、歌声がスピーカー間センターに明快に定位した。周波数帯域を上下ともに無理に伸ばすような設計ではないため、心地よいスケール感の音楽再生を楽しめる。
低域も、小型であるが故に無理をして響かせるようなブーミーで重たい音が繰り広げられるのではなく、軽快で伸びやかなサウンドが展開する様が爽快だ。このような音楽本位な再生傾向は、KOREから引き継がれた、RUBIKORE、そしてEPIKOREにも通ずる、最新のDALIの音質傾向そのものと感じる。
ジャズのピアノトリオも軽快で抜けがよく、重たくならない音楽再生が快い。クセのない音色表現で強調がなく、ピアノのタッチが見えてくる。ウーファーが小型なので低音自体は深くはないものの、軽やかな押し出しが爽快だ。
ドラムスも、スネアドラムのヘッド(打面)が叩かれた際の、パンっと張ったボトムの乾いた鳴りが張り出し良く迫ってくる。ウッドベースも、弦を指で弾いた勢いが反応よく現れ、実際の演奏を目の前にしているかのような軽やかさだ。
オーケストラも押し寄せるエネルギーが生き生きと発露される。特に、弦楽器の音が目に浮かぶかのような勢いに満ちていて、発音が素早い。音色はニュートラルながらもドライにならず、軽快ながらも腰高にならない。全体的に、音楽が湧き出るかのような、音が空間を舞うかのような、風通しの良い表現が実に快い。
