ピアニスト・角野未来がデビュー!フランス音楽の煌めきを「最高の音」で紡ぐアルバム『Appels』
積極的な演奏活動ですでに高い人気を獲得している新進ピアニスト、角野未来。ピアニスト・角野隼斗の妹としても知られる彼女の、待望のデビュー・アルバム『Appels(アペール)』が2026年9月2日にリリースされる。価格は3,800円(税込)。
本作は、知られざるフランスの女流作曲家メル・ボニスの作品を中心に、ドビュッシー、ラヴェルの楽曲を収録している。フランス音楽の繊細で夢幻的な響きを届けるだけでなく、「最高の音」を求めて前代未聞のオーディオ的アプローチを多数盛り込んだ、オーディオファン必聴の1枚である。
なかでも、マスタリングで曲ごとにDACを使い分けるという手法は、まさにオーディオ的なアプローチ。本稿では、オーディオ評論家・麻倉怜士氏がアルバムのディレクター・渋谷ゆう子氏に制作の舞台裏を訊きながら、その音の魅力に迫る。
知られざる女流作曲家との出会い
積極的な演奏活動で、すでに高い人気を獲得している新進ピアニスト、角野未来のデビュー・アルバム『Appels』は、音楽的にも、オーディオ的にも大変注目される作品だ。東京藝術大学大学院を経て、現在はリヨン国立高等音楽院で学ぶ角野は、「ファーストアルバムなので、もっとも深く惹かれ、長く向き合ってきたフランス音楽で構成しました」とコメントしている。
知られざるフランスの女流作曲家・メル・ボニス(1858 - 1937)の、7人の伝説の女達をテーマにした7曲(メリザンド、オフィーリア、サロメ ……)と、同時代のドビュッシー、ラヴェルの5曲の計12曲を収録。
「メル・ボニスに出会ったとき、繊細で夢幻的な響き、歴史や文学、神話に登場する7人の女性を題材にするというユニークな世界観に強く魅了されました。リサイタルで演奏した際にも大きな反響をいただました」(角野)
オーディオ的観点でも注目に値するアルバム
録音制作の過程がオーディオ的に大変面白い。それを仕切った本作のディレクター・渋谷ゆう子に訊いた。
[1] 録音場所をホールでなく、ステジオにした
渋谷は言う。「初めての録音に臨む角野さんには、きちんと自身の演奏のプレイバックを良い音で聴き、次のテイクに活かして欲しいと思いました。ホールでは、どうしても再生環境が限られるので、しっかりと自身の演奏がディテールまでチェックできるスタジオを選びました」
都内のコンサート用ピアノを備えた録音スタジオを、角野と試し弾き行脚し、決めたのが乃木坂のソニースタジオ。「なんと、お兄さんの角野隼斗さんが、録音に使ったスタインウェイなんです。何か兄妹の血のようなものを感じました」(渋谷)
[2] マイクや録音機材の選択眼
「彼女のイメージを音で描きたい。そこで未来さんが好きな音で、制作しようと思いました」(渋谷)
角野に、70年代から現代までの古今のピアノの録音作品から好きな音源を4つ挙げてもらった。初アルバムは、好きな音で仕上げてあげたいとの “親心(?)”だ。
好みを探るため、選んだピアノアルバムの名盤のどこが気に入ったのかを言葉で語ってもらい、さらにその盤の録音で使った機材 ――マイク、プリアンプ、コンプレッサー/リミッター、ディレイ、リバーブなど ――についてもできる限り情報を集めた。実際に録音セッションでは、これらのうちいくつかを使用し、角野の好み情報は、のちのミックス、マスタリング過程で活かされた。
[3] ミックスで音を作るための贅沢なマイキング
ソニースタジオでの録音時、ピアノの周りの近接位置、ミドル位置、そして高く離したアンビエント……と、立てたマイクは11本(うち1本はステレオ)にものぼった。しかも、曲のコンセプトに即して、マイクの種類も変えている。
例えば1曲目の「メリザンド」と4曲目の「ヴィヴィアン」では、前者はブリリアント、後者はジェントルと、ミックスを調整して音色をも違えている。マイクを多くしたのは、「“伝説の女たち”がテーマなので、無邪気さと悪女みたいな対比が欲しいと思いました。そのニュアンスをミックスで作るためです」(渋谷)
そう、音色や設置場所の違うマイクのバランスを調整することで、曲のコンセプトに最適なミックスを追求したのであった。
「具体的には、まず私とエンジニアさんでラフミックスをとりあえず作り、次に角野さんにビクタースタジオに来ていただき、ご自身のイメージに合うかどうかを聴き、その後、立ち会っていたただき、じっくりミックスし、ファイナルを作りました」(渋谷)
なんというこだわり!曲によってDACを使い分ける
さらに最後のマスタリングが、驚きだ。
[4] DACを取り替えるマスタリング
クラシックの録音ではマスタリングまで同じエンジニアが行うことが多いが、今回はあえて違うエンジニアが行った。「シェフが作った料理を、お皿の上にもう一度魅力的に盛り付けてくれる」(渋谷)のがマスタリング工程だ。ここで、マスタリングエンジニア(TEMASスタジオの柴 晃浩氏)から驚くべき提案があった。「曲によってDACを換えたらどうか」だ。
ファイナルミックスされたデジタルファイルをアナログ信号に変換し、卓で音を調整するわけだが、ここで使うDACを換えてみようとの提案。現代的な楽曲用、クラシック用 ……など、タイプの違うDACを3つ用意し、ブラインドで、1曲ずつ試聴し、その曲に最適なDACを選んだ。なんというこだわり!
「アーティストの中には録音物に対する感度が低い方もおられますが、未来さんは別格、たいへん耳が良いのです。ピアノの選択、ミックスの工夫、そしてマスタリング時の最適DAC ……と多くの人の協力で、素晴らしい作品に仕上がりました」(渋谷)
音の質感と、輝きぶりに感動のしっぱなしだ
その音が実に良い。私は自宅システムで試聴しながら、その音の質感と、輝きぶりに感動のしっぱなしであった。
『メリザンド 作品109』のゴージャスな煌めき、『デズデモーナ 作品101』の低域と高域の華やぐ対比感、『オフィーリア 作品165』のファンタジー、『ヴィヴィアン 作品80』の響きのラブリーな美しさ、『ベルガマスク組曲「月の光」』の静謐な光彩 ……それはまさに制作過程でのこだわりが、見事に結実した音だった。
【作品情報】
- タイトル:Appels
- アーティスト:角野未来(Mirai Sumino)
- 発売日:2026年9月2日
- 価格:3,800円(税込)
- 品番:TPCM-00001 (CD 全12曲)
- レーベル:Appels
- 録音場所:Sony Music Studios, Studio 2, Tokyo
【収録曲】
メル・ボニス《伝説の女たち》
- メリザンド 作品 109
- デズデモーナ 作品101
- オフィーリア 作品165
- ヴィヴィアン 作品80
- ポイベー 作品30
- サロメ 作品100
- オンファレ 作品86
クロード・ドビュッシー
8.喜びの島
モーリス・ラヴェル
- 夜のガスパール 第1曲「オンディーヌ」★
- 夜のガスパール 第2曲「絞首台」
- 夜のガスパール 第3曲「スカルボ」★
- クロード・ドビュッシー
- ベルガマスク組曲「月の光」
※上記★印の楽曲(オンディーヌ、スカルボ)と、それ以外の楽曲で、マスタリング時に2種のDACを使い分けている。
【アーティスト・プロフィール】
角野未来(Mirai Sumino)
1998年生まれ。東京藝術大学を経て同大学院音楽研究科を修了した。2023年秋よりフランスに拠点を移し、2026年7月現在リヨン国立高等音楽院マスター課程に在学中である。アンリ・コワルスキ国際ピアノコンクール第1位のほか、国内外のコンクールで多数入賞を果たしている。オーケストラとの共演を含め、多くの演奏活動を行っている。
(※本記事は、『季刊・オーディオアクセサリー202号』所収記事を再編集/転載したものです)
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