analog定期購読者限定の5%オフはお電話で!

ヴィーナスレコード×analog誌のコラボ「10枚組LP BOX」のヒミツにせまる

2022/07/27 ジャズ評論家 岡崎正通/構成:編集部
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

ヴィーナスレコードの30周年を記念して、季刊analog誌と特別コラボレーション




日本が誇るジャズレーベル、ヴィーナスレコードの30周年を記念した、10枚組のスペシャルLP BOX『30TH ANNIVERSARY VENUS JAZZ HIGH QUALITY SOUND VINYL AUDIOPHILE-GRADE』が、PHILE WEBのお買い物サイト「PHILE WEB.shop」にて本日7月27日発売です。

ヴィーナスレコードは1992年に原 哲夫氏が設立、日本にジャズのパラダイスを作り続けてきたジャズレーベルです。今年30周年を迎えたことを記念して、『季刊・analog誌』とコラボレーションした豪華ボックスセットを作成いたしました。販売価格50,000円(消費税・送料込み)です。

本企画に選曲者として参加した、ジャズ評論家・岡崎正通氏にインタビューしました(本誌76号より抜粋)。

聴きやすいジャズだけど、根っこは “硬派”。選曲は、とても楽しかった



━━━ 今回選者のひとりとなった岡崎さんですが、そもそもヴィーナスレコードの魅力はどういうところにあると思われますか。

岡崎 ヴィーナスレコードのジャズは聴きやすく、リズムはスイングし、旋律はメロディアス。でも実は、根っこは、かなり硬派。ドラムがバシーン、太いベースがズンズン、熱量が伝わってくる。バランス良く整っているだけではジャズではない!というオーナー、プロデューサー、原 哲夫さんの思いが溢れているんです。

ジャズの良き時代と言っても、その捉え方は人によってさまざまですが、1950〜60年代は実に実り豊かな時代だったと思います。ハードバップからモードへと進んでいったこの時代、豊かだっただけでなく、混乱もあった。黒人の地位向上のための運動も盛んで、いろんな意味で燃えていた時代。ブルーノートやリバーサイドなど名門レーベルが生まれたのもこの頃です。もちろん原さんも50〜60年代のジャズが大好きでしょう。

ジャズは70年代からビッグ・ビジネスになっていった面もあるけれど、売れたものだけが良い音楽だとは限らない。原さんはそこもしっかりおさえて、90年代に自分のセンスでレーベルを作り上げた。成功するジャズレーベルは、プロデューサーにしっかりとした信念があります。原さんは現代のアルフレッド・ライオンと言ってもいいかもしれません。

今回の選曲にあたっては、LP片面20分まで、と言われました。普通LPは片面に20数分以上を入れられるところを、原さんは、溝を太く切りたいのです。溝を太くするということは、ダイナミックレンジ、音圧をなるべく広く、大きく取りたいということでしょう。そしてマスタリングも原さん自身が行っています。そんなヴィーナスLPを選曲するのは、とても楽しかった。

━━━ では今回お選びになった曲を、ここで一緒に聴かせてください。

岡崎 では、参りましょう。1曲目はチャールズ・マクファーソンのアルバム『バット・ビューティフル』より、「ビー・マイ・ラブ」。小さい頃にマリオ・ランツァのレコードで聴いて以来、ずっと心に残っていた曲。エリック・アレキサンダーもデビュー・アルバムで演っていた。山下達郎の『シーズンズ・グリーティングス』というアルバムに入っているのもいい。

2曲目。ブライアン・リンチ・アフロ・キューバン・ジャズ・オーケストラの『ボレロの夜』から「ファイアー・ワルツ」。マル・ウォルドロンというピアニストの書いた曲で、ワルツだから優雅かと思うと、楽しいラテン・ジャズ。楽器の分離が良く、音色が生々しくてパーカッションも歯切れ良い。ヴィーナスってラテンも好きなんだよね。

3曲目。エディ・ヒギンズ『アモール』より「ムーン・ワズ・イエロー」。フランク・シナトラが3回も吹き込んでいます。甘いメロディで、下手をするとカクテルピアノになってしまうところを、エディはしっかりしたジャズに仕上げている。タッチが美しいピアニストですね。メロディを温かく響かせるというのもヴィーナスの特徴かもしれない。

4曲目。スティーブ・キューンの『誘惑』から「ジャンゴ」。MJQのジョン・ルイスが書いた名曲だけど、このテイクは、オリジナルと同じくらいにいいね。実に詩的です。シンバルの音も立っているし、バスター・ウィリアムスのベースの存在感も素晴らしい。

5曲目にいきましょう。これは少し変わった趣向。3人のトップ・テナー、ハリー・アレン、ケン・ペプロフスキー、スコット・ハミルトンが競演しています。アルバム『ライク・ア・ブライテスト・スター』から「ザット・オールド・ブラック・マジック」。真ん中、左、右と、はっきり3人の音像が分かれているのが見えますね。テナーの音色も三人三様。

6曲目。ヴィーナスの女性ヴォーカルを。ニッキ・パロット『パパはマンボがお好き』より「くちなしの花」。ヴィーナスの声のリアリティがよく録れていますね。

7曲目。有名無名にかかわらず、原さんはこれだと思い込んだら、すぐにアルバムを作るんです。これもテナーサックスのジョエル・フラームの『愛の十字路』からの「サンシャワー」。選曲とかいう前に、ヴィーナスがこういう曲を採りあげていることが嬉しいですね。個人的にはヴィーナスで、いちばん音的にリアルさを感じる楽器はサックスなんです。特にテナーの太い、揺るぎない音。

今回、僕の盤には選ばなかったけれど、スコット・ハミルトンとエディ・ヒギンズの『マイ・フーリッシュ・ハート』の表題曲は、最高だよね。それからアーチー・シェップ・カルテットの『トゥルー・バラード』より「ザ・スリル・イズ・ゴーン」。図太いテナーの音がガツンと来ます。

━━━ 一緒に聴いていて、本当に魅力的な演奏ばかり。音的にも聴きどころたっぷり。こうしたお宝だけを集めた盤が10枚ボックスになるとは、とても楽しみです。岡崎さん、今日はディスクジョッキーをありがとうございました!


<ジャズ評論家 岡崎正通> 早稲田大学モダンジャズ研究会に所属していた学生時代から音楽誌等に寄稿。CD、LPのライナー解説をはじめジャズ誌、オーディオ誌、ネットメディア等にレギュラー執筆。ビッグバンド“Shiny Stockings”にサックス奏者として参加。ミュージック・ペンクラブ・ジャパン会員。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE