2019TIAS会場で先行販売も

井筒香奈江“ダイレクトカッティング”の新作レコード発売。貴重な一発録り盤の魅力とは

公開日 2019/11/07 18:38 季刊オーディオアクセサリー編集部
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オーディオクイーン・井筒香奈江の新たな挑戦
その憂いを帯びた深みのある歌声で、日本中のオーディオマニアの心を鷲掴みにしてきた井筒香奈江。日本の歌謡曲からスタンダードナンバーまで、独自のカバーセンスで人生の苦味を、痛みを、孤独を歌声に乗せ、人々に癒しと潤いを届けてきた。なによりその音質的なクオリティへの評価も高く、『時のまにまに』シリーズを筆頭に、『リンデンバウムより』『Laidback2018』とオーディオファンのレファレンスとして長く愛されるアルバムを生み出し続けてきた。そんな彼女がついに、究極のアナログレコーディング「ダイレクトカッティング」に挑戦した。

歌手・井筒香奈江

「キング関口台スタジオ」が蘇らせたダイレクトカッティング
ダイレクトカッティングとは、演奏されたその現場の音を、そのままカッティングマシンに通し、リアルタイムにラッカー盤を刻んでいく録音手法のことである。いまのようにデジタルのレコーディング技術が発達する以前にもわずかながら行われていた手法であるが、ひとつでもミスがあればすべてやり直し。ミュージシャンはもとよりエンジニアにも非常に高いスキルが要求されるため、主流の録音方式となることはなかった。

しかし、一切の編集を加えない、アーティストの生の姿がむき出しになるダイレクトカッティングは、オーディオファンの憧れでもあった。それを現代に蘇らせたのが、「キング関口台スタジオ」である。日本の大衆音楽産業の黎明期から、さまざまなレコーディングの先駆的実験を繰り返してきたキングレコード傘下として、数々のヒット作を生み出してきた名門スタジオ。Pyramixなど最新鋭のレコーディング設備をも備え、ハイレゾからアナログまで、日々あらゆる高音質レコーディングの要求に応えている。

キング関口台スタジオ第一スタジオ。メインコンソールはSSLのSL-9072J

高さ10m、広さ174uを誇る第一スタジオのメインルーム。ピアノはスタインウェイ

今年に入りキング関口台スタジオは、昨今のアナログブームの追い風を受け、カッティングマシンVMS70をスタジオに再導入。合わせて、スタジオ内でダイレクトカッティングができる仕組みを再構築したのだ。そしてその第一弾アーティストとして選ばれたのが、他ならぬ井筒香奈江であった。彼女自身の高音質への深い求道心もさることながら、歌い手としての確かなセンスと実力が、名誉あるこの第一弾アーティストに選ばれた所以であろう。

キング関口台スタジオで再稼働したカッティングマシン「ノイマンVMS70」

ダイレクトカッティングを担った実力派エンジニア
レコーディングエンジニアは、前作『Laidback2018』を手がけた高田英男が引き続き担当。カッティングエンジニアは、本作がカッティングデビューとなるキング関口台スタジオの上田佳子が務める。ダイレクトカッティングは今回が初めての経験となる上田は、マスタリングエンジニアとしての長いキャリアを生かし、高めてきたカッティングの技術を披露している。プレスは東洋化成で行なっているが、ラッカー盤から直接スタンパーを作る「ダイレクトマスタースタンパープレス」を採用しているところからも、音質への飽くなき追求が見て取れる。

ダイレクトカッティングならではの生々しいサウンドは必聴!

レコーディングエンジニア高田英男

カッティングエンジニア上田佳子
今回のアルバムには、A面2曲、B面2曲の計4曲が収録されている。それぞれメドレーとなっており、ピアニスト藤澤由二のアレンジにより、あたかも1つの曲のような作品に仕上がっている。A面はピアノとヴィブラフォンによる高音のきらめきを重視した音作りが、B面にはコントラバスとエレキベースというWベースで、低音の深みある世界観が演出されている。

A面の2曲は、「スパルタカス 愛のテーマ」からカーペンターズ「Superstar」へと繋がる。冒頭からヴィブラフォンによる静かな打鍵に始まり、藤澤由二のピアノ、そして井筒の歌声が導かれてゆく。ヴィブラフォンの深くしかし高域に伸びやかなサウンドは、まさにオーディオマインドを掻き立てる。カッティングの大敵となる逆相成分を高田のエンジニアリングによってうまく抑え込むことで、現場の音をそのまま刻むことに成功。ゆったりとした井筒のヴォーカルはもちろん、藤澤由二のソロパートも必聴だ。

1日目の収録に挑む井筒香奈江

B面の2曲は、A面とは打って変わって日本語ナンバー。井上陽水の「カナリア」から、忌野清志郎が日本語詞を手がけたピーター・ポール&マリーの「500マイル」へ。人間の内面をえぐり取るような「カナリア」の世界観から、遠くはるかな世界への想いを込める「500マイル」へと、藤澤由二の冴え渡るピアノアレンジとともに誘われてゆく。コントラバスのアルコ奏法は、かなたへのイマジネーションを想起させる。このB面には、「鉄板」と呼ばれるアナログリヴァーブのEMT140が採用されている。こちらもキング関口台スタジオの「財産」と呼べる貴重なリヴァーブであり、今回のレコーディングにはデジタルよりもアナログの方がずっとふさわしいと考えた高田のアイデアだという。Wベースそれぞれの音色の違いもオーディオ的な聴きどころだ。

1日目のヴィブラフォン収録、大久保貴之

ラッカー盤にきちんと音源が収められているか確認する制作陣。一番右はテクニカルアドバイザーとして参加した日本コロムビア 冬木真吾



2日目のエレキベース収録、小川浩

2日目のコントラバス収録、磯部英貴
この4曲に至るまでには、さまざまな試行錯誤があったようだが、改めて完成したアルバムを通して聴いた井筒は「これ以外の選曲はありえなかった」と胸を張る。収録時間も片面11分程度と決して長いものではないが、聴き終えた時には、壮大な長編小説を読み終えた時のような、めくるめく感情の世界に飲み込まれる。まさに、音楽だけがなし得る時空を超えた究極のエンターテイメントである。

2日目のピアノ収録、藤澤由二

最新鋭のレコーディングスタジオで行われた、文字通り究極「一発録り」のアルバム。音楽に真摯に向き合うとはどういうことか、オーディオ再生を極めるとはどういうことか、このアルバムの再生を通じて自分なりの答えに辿り着けそうになる……と思ったその先から、その想いは空中へと逃げていく。その想いをもう一度捕まえたくて、再びA面に立ち返り、何度でも繰り返し再生してしまう。音楽とオーディオの持つ無限の可能性を感じさせてくれるこのアルバムの世界を、ぜひ一人でも多くの方に感じてもらいたい。


「Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio」
井筒香奈江

JellyfishLB LBLP-051(LPレコード)
2019.11.27発売 税抜価格 5,800円 ※送料別途500円です (現在在庫切れ)

以下のイベント内容は2019年に開催されたものです。


「2019東京インターナショナルオーディオショウ」特別先行販売! 通常販売予約も受付中!

11月27日(水)正式発売となるこのアルバム、11月22日(金)~24日(日)に東京国際フォーラムにて開催される「2019東京インターナショナルオーディオショウ」ガラス棟 B1の<音元出版ブース>にて特別先行販売を実施する。


なお、「2019東京インターナショナルオーディオショウ」ではテクニクスブース、トライオードブースで、井筒香奈江ならびにエンジニア高田英男らが出演し、このアルバムについて解説、さらにアルバムのデモンストレーションを行う。いち早くこの音を聴きたいという方は、ぜひ足を運んでほしい。

「2019東京インターナショナルオーディオショウ」
開催地:東京国際フォーラム(東京都千代田区丸の内3丁目5番1号)
開催日時:2019年11月22日(金)10:00-19:00/23日(土)10:00-19:00/24日(日)10:00-17:00

<「Direct Cutting at King Sekiguchidai Studio」レコード販売>
音元出版ブース(ガラス棟 B1)

<井筒香奈江出演イベント>
●11月22日(金)
12:00-13:00 トライオードブース(ガラス棟5F G507)
出演: 井筒香奈江、評論家・土方久明氏
16:00-17:00 テクニクスブース(D棟 D1)
出演:井筒香奈江、高田英男、高橋邦明、上田佳子

●11月23日(土)
15:00-16:00 テクニクスブース(D棟 D1)
出演:井筒香奈江、高田英男、高橋邦明、上田佳子

●11月24日(日)
15:00-16:00 テクニクスブース(D棟 D1)
出演:井筒香奈江、高田英男、上田佳子

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