【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
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毎月連載のPhile-web特別企画「Sound Adventure(サウンド・アドベンチャー)」では、オーディオ・ビジュアルエンターテインメントの最前線で活躍される評論家の方々を「ナビゲーター」に迎え、いま最も注目を浴びるデジタルエンターテインメントのスタイルを徹底探求します。最新オーディオ・ビジュアル製品のレビューやハンドリングレポートも毎回紹介して行きます。
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム


ボーズからプロフェッショナルサウンドシステム“FreeSpace”シリーズの新製品が発表された。新しい“FreeSpace”シリーズの魅力とともに、プロフェッショナルサウンドシステムの選択基準と使い方を、レコーディングエンジニアとしても活躍する岩井喬氏が紹介する。



プロフェッショナルモデルであるスピーカーには大きく分けて2つの方向性が存在する。まず音楽をクリエイトする現場のものとしてコンサートやライブで用いられるPA/SR用の大出力対応スピーカーや、レコーディングスタジオなどで用いられるモニタースピーカーなどが挙げられる。そしてこの他に用いられているのが商業施設のBGM用などで用いられる全天候型や壁/天井埋め込み型を含めた業務用スピーカーである。このようなモデルは音質に対してはもちろんのこと、気象条件に左右されない屋外での使用や、大音量再生といった使用目的に即し、耐久力を高めた仕様となっており、各々その目的に応じシビアな設計がなされている。

ボーズのロングランヒット・モデル「101MM」。プロ用のモニタースピーカーとしてラインナップする同シリーズを、自宅のオーディオルームやホームシアターで活用されているユーザーも多いことだろう

プロフェッショナル用スピーカーの特徴は高い信頼性を持ち、設置される空間の中でいかに均一で、明瞭度が保たれた音質を隅々まで届けるか、という点を重視した音作りを行っているところである。特にPA/SR用スピーカーやモニタースピーカーはエンジニアの意図する音をしっかり届けるため、正確な表現力が必要とされる。そして業務用に関しては屋内はもとより屋外への設置も考えられるため、様々な条件への耐久力と音の遠達性が重要になってくる。

プロ/民生両方のモデルに共通である項目があるとすれば、設置される場所に適応できるデザイン性を持たせたものが存在するという点であろう。それがゆえに自分の好みにあったデザインのものが民生用でない場合、プロ用モデルにそれを求めてしまうという一面もあるのかもしれない。しかし注意していただきたいのは、例えば昨今のホームシアター需要に合わせ、設置もしやすいのでプロ用スピーカーを選択したい…というパターンも有り得ることだと思うが、そこは一旦機種選定を検討しなおしてもらう必要があると思われる。前述の理由から家庭環境ではオーバースペックとなってしまい、音が飽和して適切なサウンドを得られないケースも発生してしまうからだ。

PA/SR用やモニタースピーカーについてはプロフェッショナル用途として露出も多いところであるが、今回は商業施設への展開などを中心に見据えた業務用スピーカーとして、高い性能と明確な提案性を持ったボーズ“FreeSpace”シリーズに注目してみたいと思う。


ボーズのプロフェッショナルラインナップへ新たに4機種のスピーカーが追加される。屋内専用の「DS16S」、屋外・屋内どちらでも使用できる全天候型スピーカーの「DS16SE」と「DS100SE」、同一のコンセプトを持ちながら高さ10mもの天井への設置が可能な埋め込み型スピーカー「DS100F」だ。さらに3つの動作モードを自在に活用できるデジタルミキサー・アンプ「DXA2120」も加わり、“FreeSpace”シリーズとして送り出される。

ボーズ“FreeSpaceシリーズ”の新製品ラインナップ

屋内専用スピーカーシステム
DS16S ¥19,950(税込・1本)
屋外・屋内兼用スピーカーシステム
DS16SE 
¥24,150(税込・1本)


>>ボーズの製品紹介ページ
>>製品データベースで調べる(DS16S)
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全天候型スピーカーシステム
DS100SE
¥49,350
(税込・1本)

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天井埋め込み型スピーカーシステム
DS100F
¥29,925
(税込・1本)

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多機能デジタルミキサーアンプ
DXA2120
¥186,900(税込)


>>ボーズの製品紹介ページ
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まず「DS16S/SE」、「DS100SE」の共通する部分として上げられるのがローインピーダンス/ハイインピーダンス対応で、その切り替えが容易にできる点、そして設置に対しても3ステップで簡単にセッティングできるという手軽さをアピールしている点だ。

インピーダンスの切り換えはダイヤル式となっている。このダイヤルはスピーカーを設置したあとでも即座に対応できるよう、グリル側に設けられている。 普段家庭で楽しむオーディオ用途には8Ωや6Ωというローインピーダンスモデルが使われるが、業務用途においては一つの空間に10個以上のスピーカーを設置するといったケースも少なくない。この時に問題になるのが伝送時のロスである。ある一つの空間にまんべんなくスピーカーを設置するということは、それだけ長い距離の配線をしなければならない。ハイインピーダンス伝送は長距離伝送における損失が少なくできるので、このような設備向け配線に多く用いられるのだ。もう一つの特徴である設置のしやすさは工事時間の短縮に繋がる。大量のスピーカーを設置する場合、時間との勝負となる一方、配線時に極性を間違えたりするといったミスが起こらないとも限らない。こういった事態を招かないよう、本シリーズではワンタッチで取り付けブラケットに接続できる特殊な形状としているため、極性を間違えるようなこともない。

「DS16S」では本体グリル脇の右側面カバーを外した箇所に、簡単に出力が切り替えられるマルチ・タップトランスを設けている 「DS16S/SE」は専用のブラケットを付属しており、わずか3ステップでの簡単な壁設置を実現している

一つのスピーカーが奏でるサウンドが、どれだけ広いエリアをカバーできるかということも業務機では重要になる。室内専用の「DS16S」と屋外兼用の「DS16SE」は5.7cmフルレンジドライバー1本のみのシンプルな構成であるが、水平170度、垂直160度(水平設置時)という広い範囲をカバーできる。13cmウーファーと2本の5.7cmツィドラードライバーを搭載する「DS100SE」にしても、アーティキュレイテッド・アレイにより水平180度、垂直75度(アレイの付け替えにより、水平・垂直設置どちらにも対応)というエリアをカバーしており、一定の音質を保ったまま広い範囲に的確なサウンドを届けることができるという。埋め込み型のDS100Fでは13cmウーファーと5.7cmツィドラードライバー1本ずつの組み合わせになるが、真下に向け160度コニカルで均一な指向性を持たせるとともに、天井が高い吹き抜けに設置する場合でも十分なパワーによって、スピーカーの存在を目立たせず、グラウンドレベルまで的確なサウンドを届けることが可能となっている。


全天候型スピーカー「DS100SE」は、2本の中高域を担う5.7cm口径“ツィドラードライバー”と、13cm口径のウーファーを1本搭載。広いカバーエリアを実現する独自のアーティキュレイテッド・アレイ設計が採用されている 「DS100F」は中高域の再生を担う5.7cm口径“ツィドラードライバー”1本と、低音再生を担う13cm口径のウーファーを搭載。指向特性は160度のコーン状とし、効率の良い音響プランを実現する

そして今回「DS16S/SE」と「DS100SE」では、サウンド面において明確な位置付けを持たせているという。小型の「DS16S/SE」は“バックグラウンド”、大型の「DS100SE」は“フォアグラウンド”という分け方だ。“バックグラウンド”はその名の通り、商業施設内でBGM的に音量を落として使用するパターン。対しての“フォアグラウンド”はCDショップなど音楽をしっかり聴かせたいという商業施設向けに、音量も出せて音質にもこだわりたいといった用途に適したものである。ボーズには「101シリーズ」という11.5cmフルレンジドライバーを用いたロングランヒット・モデルが存在していることはご存知であろう。この101シリーズは知名度が高くオールマイティな存在であるがゆえに、一方ではその性能が正しく発揮されない使われ方がされているケースもしばしば見られる。しかし今回の「DS16S/SE」と「DS100SE」のように、その両翼方向を担う存在が登場したことで、より広い活用方法が提案できるといえよう。


多彩な音響レイアウトと簡易な操作性を実現した、多機能デジタルミキサー・アンプ「DXA2120」。本体正面にチャンネルごとのボリュームノブを搭載するほか、パネル内インターフェースではより詳細な操作が可能になる 「DXA2120」のオプションとして販売される、専用ボリュームコントローラー「DXA VC」。本体から離れた場所でも「DXA2120」の操作が可能になる。「DXA VC-AB」はゾーンごとの独立したボリューム調整と2系統までのソースの切り替えにも対応する

このスピーカーの幅広い活用方法を具現化する強力なツールが「DXA2120」である。一つのゾーンに向けて、4つの入力からの音声をミックスして届ける“ミキサーモード”、音質優先指向で一般的なステレオアンプとして活用する“ステレオセレクトモード”、そして2つのゾーンに向けて各々違う内容のソースを送る“デュアルモノセレクトモード”という、3つのモードを設け、システムプランの構築が可能だ。コントロールは本体の操作に加えて、オプションとして専用のボリュームコントローラー「DXA VC/VC-AB」が用意され、機器の操作に詳しくないユーザーでも、単純な切り替えでオペレートできるようにした手軽さも製品の魅力である。これまでのラインナップには“ControlSpace”「ESP-88」という、大規模な施設に向けて詳細な入出力設定ができるコントローラーも存在しているが、システムが複雑で専門知識を持ったユーザーでもない限り操作が難しいという課題があった。しかし「DXA2120」はこの「ESP-88」の機能性を縮小・簡略化しながら、アンプも内蔵したイージーオペレーションモデルであり、小規模な店舗でも手軽に扱えるところが最大のメリットとなっている。


こうしたボーズの業務用モデルは“Business Music System(商業空間用サウンドシステム)”としてカテゴライズされ、製品化が進められている。開発に当たっては基準として設けられている“ボーズ・ターゲットカーブ”といわれる、同社独自の周波数特性モデルといえるものが存在するとのこと。これは民生モデルの開発時にも共通に採用されており、小型のものであれば低音域が出るように、大型のモデルであれば明瞭度を保ちながらバランス良く鳴るようにといった、スピーカーづくりのひとつの基準であるという。使用条件の厳しい全天候型のスピーカーについては、屋外であっても決してうるさくならず、複数のスピーカーのサービスエリアでカバーリングし、明瞭度を保つようにされている。コーンには温度や湿度による音質の変化が少ない、コーティングした紙素材にこだわるなど、これまでに積み重ねたノウハウがそこかしこに活かされている。総じて業務用開発に当たっては技術的なハードルが高く、明確にどういう方向性のモデルとしたいかが見える状態で開発が行われる点が、民生モデルの開発と異なっているといえる。

ボーズのホームページにて提供されているBGMシステムの設計サポートプログラム「BGMシステムデザインサポート」からは、一般店舗レベルの音響デザインをブラウザ上で簡単にシミュレーションすることが可能。BGMシステムの基礎知識も公開されている
http://www.bose.co.jp/pro/design_guide/

商業施設へのシステム設置に当たって、特にボーズ製品の場合はネームバリューが先行して採用されるケースも少なくない。しかし実際の運用ではサイズに適切な音量以上で鳴らされており、歪む一歩手前であったりするケースも見かけることがある。プロ用の強みはその耐久力であるが、音質を犠牲にしてまで過負荷をかけることは適切ではないだろう。導入に当たっては空間サイズに適切な数とサウンドの明確なビジョンを持って選定を行うようにしたい。そのためにも業者に任せっきりではなく、積極的に専門家へ相談し、サウンドを試聴する機会を設けることが先決であるように感じる。この的確な選択によって施設空間のサウンドが向上し、訪れる客人への最高のおもてなしに繋がり、商業施設にとってはより良い収益効果に結びつくことになるだろう。

(レポート:岩井喬

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