【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
【毎月連載】 オーディオ・ビジュアルファンのためのエンターテインメントコラム
毎月連載のPhile-web特別企画「Sound Adventure(サウンド・アドベンチャー)」では、オーディオ・ビジュアルエンターテインメントの最前線で活躍される評論家の方々を「ナビゲーター」に迎え、いま最も注目を浴びるデジタルエンターテインメントのスタイルを徹底探求します。最新オーディオ・ビジュアル製品のレビューやハンドリングレポートも毎回紹介して行きます。
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「Micro Music Monitor」と名前付けられた、ボーズの小さなハイ・ファイ・スピーカーシステムを、レコーディングエンジニア・プロデューサーとして活躍する加納直喜氏が体験。ミュージック・モニタースピーカーとしてのM3が備える可能性を探ってみた。
インタビュー:Phile-web編集部

PW 加納さんがご活躍されるレコーディングエンジニア・プロデューサーとは、どのような職業なのでしょうか

加納直喜氏(以下、敬称略) レコーディングの仕事とは、様々なプロ用機材を使って録音作業を行うので、それを扱う者としての「エンジニア」という基本的な呼び方があります。レコーディングエンジニア・プロデューサーとは、単純に機械をいじって音をつくるというものではなく、音楽自体を創って行くところの要素がとても強く、そのような意志をもって活動するべき仕事だと考えています。

「音を創っていく」という作業には、音色から触発される要素が多くあると思います。アーティストたちの頭の中や譜面の中にある楽曲の魅力が、元々あった姿から違ったかたちに変化していくまでには、やはりレコーディングエンジニアが創り出していく音の世界によって決定的になる要素が強くあります。そこにプロデューサーとしての立場から、「こういう音で、こういう曲に表現したい」という意志を深く関わらせて行くことが僕の仕事の大きな特徴だと思います。

加納直喜氏
加納直喜氏
GO-GO KING RECORDERSリーダー
レコーディングエンジニア・プロデューサー

自らの耳と足で捜し求めたヴィンテージ機材をメインに据えて、GO-GO KING RECORDERS/studioを1995年設立。スタジオとレコーディングエンジニアのオリジナルコンピレーションタイトル『GO-GO KING RECORDERS original recording VOL.1』をはじめ、スタジオを拠点とした独特の音と音楽をかたちにし、発信し続けている。SHIBUYA-FMでは番組のナビゲーターも務めるなど、幅広く活躍している。
>>GO-GO KING RECORDERSホームページ
PW GO-GO KING RECORDERSのスタジオはいつごろ完成し、その後どんな活動を行っているのでしょうか

加納 スタジオが完成したのは1995年です。それ以前も、僕はフリーでレコーディングエンジニア・プロデュースというかたちの仕事をしていましたし、同時にミュージシャンとして、アレンジャーとしても活動をしていました。スタジオをつくってからは、僕が思い描く理想的なスタジオのコンセプトがより明確になってきて、GO-GO KING RECORDERSをベースにレコーディングエンジニア・プロデューサーとしての活動が軸になりつつあります。現在、スタジオには、東京スカパラダイスオーケストラやEl-Malo、レピッシュのメンバーをはじめとする何人かのプロデューサーたちも集まっていて、様々なアーティストをあらゆるかたちでプロデュースできる体制が出来あがっています。

PW 加納さんが求めている「良い音」、「良い録音環境」を教えてください

『GO-GO KING RECORDERS original recording VOL.1』は、加納氏とそのスタジオを信頼し、集まった豪華なアーティストたちによる楽曲を収録した、日本初のレコーディングスタジオによるコンピレーションアルバムだ

加納 録音環境として、スタジオと自宅でできることの一番大きな違いは「楽器がいかに良い音で鳴らせて、良い音で収録できるか」という点にあります。そのため、スタジオには広くて容積や高さがあるスペースが必要になってきます。僕のスタジオはそこに主眼に置いて、自ら造りこんで来ました。その成果として、音楽的な感性からはとても「アコースティック」な環境ができたと言えます。アコースティックとはつまり「響き」ということですが、楽器の音が非常に良い音で鳴らせて、録音ができるということです。人が動いている様とか、演奏している雰囲気までもがマイクを通して全て録音できる、とても個性的な場所をつくったという思いがあります。

PW スタジオの器材選びでこだわったポイントはありますか

加納 最も音楽に触発されてバンドを始めた、10代の半ばから後半に聴いていた音楽が、僕の心の奥底にあって、体に染みついているんです。誰でも自分が一番多感だった時期に刺激を受けたものを、大人になっても大切に持ち続けていると思います。僕も自分が音楽に多感だった頃、アメリカやイギリスのレコーディングで主流・一流だったような器材に触れると、どこか聴き覚えがあり、自分が好きな「あの音」をそこに感じるわけです。器材選びのポイントと言えば、その時代のものを中心に揃えているということが間違いなく言えるでしょう。

PW 特にモニタースピーカーへのこだわりを聞かせてください

加納 重低音や高域の音の再生能力は、スピーカーの構成や口径などにも依存してくるものだと思います。しかし一方では、アンプとの相性やスピーカー自体の性能に関わらず、再生されていなくてもその音域を感じることのできるスピーカーというものがあります。これこそが「空気感」というものなのかもしれませんが、その意味あいで、音域の特性がとても「広い」こと、同時に音に「奥行き」がきちんと表現できていることが、スピーカーとアンプとのベストな組み合わせだと思います。

PW 加納さんがパーソナリティを勤めるSHIBUYA-FMの番組について教えてください

加納 毎月第2・第4木曜日の、夜21時から22時までの1時間にオンエアされるレギュラー番組「GO-GO KING RECORDERS ROCK'N ROLL RADIO」でナビゲーターを担当しています。毎回様々なゲストの方々と一緒に、GO-GO KING RECORDERSが考える「パンクロック、或いはパンクスピリットを感じるもの」を紹介しています。僕たちが考えるパンクなものとは、「自由であること」というふうに捉えています。僕自身の作品も含め、ものの考え方や常識、人間関係やしがらみなどに捕らわれずに、自分の感じたことに素直に行動して、そこから表現されているモノや人、作品などを紹介する番組です。

SHIBUYA-FM 78.4MHz

1996年4月28日、東京都渋谷区のコミュニティFMステーションとして開局。世界的な音楽都市である“SHIBUYA”のカルチャー、サブカルチャー、ストリートカルチャー、人々を軸としたプログラムを発信中。シーンの報道ではなく、シーンな中に身をおいてキャッチするサウンド・エッセンスは、どこのモノマネでもなく、チャートを意識することなく、ワールドスタンダードな選曲でHIPSTARたちを中心に支持を集める。
>>SHIBUYA-FMのホームページ

PW このようなかたちで加納さんがラジオ番組に関わるようになったのはいつ頃からですか

加納 この番組を持たせてもらってから、今年の9月で約1年半になります。元々は番組プロデューサーの方と音楽を通じて親しくなり、彼らと話をして行く中で発想が膨らんできて、それじゃあGO-GO KING RECORDERSがやろうとしていることを音楽というメディアだけでなく、放送というかたちでも発展的に展開したいと考えたことがきっかけでした。録音の現場では、スタジオで起こった興奮や面白い出来事が、全てCDというかたちになります。同じようにラジオだからできる面白いことを見つけて、僕が大好きなSHIBUYA-FMをキーステーションに発信できるんじゃないかと思っています。ラジオ局のスタジオは、僕にとって音楽でいう所のライブ会場のようなものであり、トークも一つのライブだと考えて楽しんでいます。

SHIBUYA-FMの収録スタジオ。モニタースピーカーには、デザイナーズブランドとのコラボレートを実現した、ボーズの「101MM “ Candy”」(クリームイエロー&キャンディオレンジ)を採用する 編集部が取材に訪れた日は、加納氏の番組「GO-GO KING RECORDERS ROCK'N ROLL RADIO」が行われた。この日も沖縄出身の6人組バンド、スカイメイツをゲストに招き、パワフルに収録が行われた

PW 加納さんにとっての理想のスピーカーを教えてください

加納 一番大切な要素としては、ボーカリストの息使いだとか、マイクとの距離感、小さく叩いていたドラムの音がブワッと大きく広がっていくようなプレーヤーの繊細な表現など、これらを僕がマイクで逃さず録ったものが、的確に表現されて欲しいということです。僕が表現として創り、リスナーに届けたいことを、できる限り余すところなく伝えてくれるスピーカーを求めています。

実は、僕はパワードスピーカーがとても好きなんです。僕は生活の3分の2近くを、GO-GO KING RECORDSのスタジオでの音楽制作に費やしていますが、一方で海外も含めて様々なスタジオに移動する機会も多くあります。様々に環境の異なるスタジオで作品を作る場合、良い音を判断する際に自分の感性に頼る以外にも、自分でもう一歩「間違いないと」確信できる理由が欲しいわけです。

それを決定付けられるのが再生装置であると考えています。最低限、スピーカーとアンプ、ケーブルの差によって環境を整え、不確定要素を少なくすることができます。そこでスピーカーがパワードならば、アンプとスピーカーの差をコンパクトに減らすことができるようになります。一時期はアンプとケーブル、スピーカーのセットを移動の際に持ち歩いていたんですが、これだとやはり毎回セッティングするだけで疲れきってしまい、音楽を始める前に休憩が欲しくなってしまうんです。M3はコンパクトな上、パワードなので移動の際にも便利なシステムとして使えるように思います。

PW 録音時に、特にマイクのセッティングで気を使っているポイントは何ですか

加納 録音はアーティストによって、弾き方や弾く位置などの条件が様々です。楽器によって鳴りも違います。最初は例えば「アコースティックギターだったら、このマイクを使うと良い音で録れる」といったような、自分にとってのスタンダードを決めます。次にセッティングの問題です。僕は「マイクというのは非常にシビアな耳だ」と思っています。人間の耳で聴く場合は、個人の感覚や感情によって左右される部分がありますが、マイクは人間が聴くよりもよりシビアに、雰囲気などを一切省いた本当の音だけが拾い取っています。そこから基本的に僕は自分の感性を信じて、自分が間違いなく良いと思えたポイントを探し出してマイクを置きます。ここの音がとても良いと感じたらそこにマイクを置き、コントロールルームのスピーカーから聴いても、マイクの位置で聴いた音に非常に近く、良い音がしていると感じられれば「正解」ということになります。

ここでもモニタースピーカーの役割は重要になってきます。自分がそこに空気感があるとわかっているはずなのに、それが表現できていないスピーカーであれば、現場の空気感を想像で測らなければならなくなるわけです。だから、自分が聴こえていたのと同じも音が再現できるスピーカーこそが、僕にとって間違いのない選択ということになります。

PW M3の音を聴いた印象はいかがでしたか

加納 スタジオでマイクを使って録音した時の「空気感」「ライブ感」を実にうまく表現していますね。これは楽器に近い音が鳴っていると思います。

PW 「楽器の音をいかに良い音で鳴らすことができるか」についても、モニタースピーカーの実力を測る上で重要な要素なんですね

加納 僕の場合は音楽を創る立場にいるので、リスナーの方々に聴いて楽しんでもらうことを常に意識しています。自分が録音する環境では、確かで間違いのない環境で聴いていないと自信を持って音楽をリスナーに届けることができなくなります。そこでコントロールルームのスピーカー環境については、スピーカーの性能をはじめ、鳴らす部屋の環境、スピーカーとの距離などにとても繊細になります。

普段何気なく聴いてしまうアコースティックギターの音には、実はものすごい重低音が含まれています。いわゆる「ハコ鳴り」と呼ばれるものです。人間の耳には聴こえていないようなすごい低音が、ギターのサウンドホールからあふれ出ています。これはマイクを立ててみるとはっきりわかりますが、あまり楽器にマイクを近づけ過ぎると吹かれてしまいます。このハコ鳴りがあからこそ、中高音の鳴りがしっかり土台に支えられて伝わってきて、全体として僕らがアコースティックギターの音だと思って聴く音になるわけです。アコースティックギターは録音するのに非常に難しい楽器だとも言えるわけですが、M3はハコ鳴りの空気感を的確に、ステレオ感とともに非常にうまく表現していますね。

PW ボーカルの再生能力についてはどうですか

加納 ボーカルを聴く際には、マイクとの距離感が表現できているかがとても大切だと思っています。2つのスピーカーの間にある、真中の定位感がとても良いと感じます。センターに来る音が非常に立体的に聴こえますね。僕は作品を創るにあたって、録音現場のスペース感に思い入れを込めているので、それがM3ではしっかりと再生されていると感じました。

PW GO-GO KING RECORDSのスタジオでは今、どんなモニタースピーカーを使っていますか

加納 現在はあるブランドの小さなパワードスピーカーをモニターとして使っています。その他にも、アメリカで活動していた頃からずっと使っている、ボーズの「Wave Radio/CD」使っています。このシステムは、ほぼミックスが出来上がった段階で活躍しています。これで聴く時点で、僕は「自分が何かをしながら聴いている時に、どういう風に聴こえているか」を確認しています。全体的にこのスピーカーから出ているところでの音像感で、自分がこだわったところが間違いなく創られているか、再生されているかを最終的に確認しています。つまり、自分が創った音楽が小さいスピーカーで聴いてもワクワクするかどうかということを確認しています。ただし、このような使い方をする際には、やはり再生能力が低いスピーカーだと自分の意図したものがとてもわかりにくくなってしまい、ものづくりの時点とのギャップが大きく開いてしまいます。WaveRadio/CDを愛用している理由は、良い意味で「指向性が甘い」再生装置でありながら、高い再生能力を持っているからと言えます。

PW GO-GO KING RECORDSのスタジオで、M3はどんなふうに活用できそうですか

非常に指向性がはっきりとあるスピーカーなので、できれば適当な場所に置いて使うというよりは、ステレオ感が良い雰囲気で出せているかどうかを確かめるモニターとして使えるといいなと思います。

PW 録音に携わる方々は、ラージモニターにどっしりと正対して音を決めているものだと思っていましたが、加納さんのようにユーザーの可能性、リスニング環境の可能性を広く捉えて、音づくりをされている方がいることに失礼ながらすごく驚きを感じました

加納 もちろんラージスピーカーでじっくりとモニタリングすることも大切だと考えています。でも一方で、ミュージシャンやアーティストの演奏に、一番最初の段階で触れるリスニングポイントにレコーディングエンジニアがいるわけですから、僕にとってすごく良い音楽だと感じられないものは、自信をもって送り出せないような感覚があります。自分が家でいざ、どんな環境で音楽を聴いているかを考えてみたら、ビールなどを片手にリラックスして聴いていることが多いんです。最終的にはそういう環境で聴いてもらう場合でも、僕が今回や作品の中でやりたかったことが出せているかどうかはすごく重要だと思います。

音楽自体には歌詞のメッセージ性など色々な表現の要素があると思いますが、やはり、音楽が聴く人たちの心を掻き立て、ワクワクさせる感情的なコミュニケーションができるのも大きな魅力です。創り手がぶつけた感情を、リスナーの人が受け止めてくれて、同じように心が動き、同調することができれば素晴らしいですね。確かにスペックや機械的な要素だけで音を語ることもできるとは思いますが、僕の場合は作品を媒介に、リスナーとのつながりを大事に考えるところが、技術者としてのレコーディングエンジニアだけでなく「プロデューサー」でありたいとこだわり続ける、一つの理由かもしれませんね。

GO-GO KING RECORDERS original recording VOL.1
【試聴したCD】

GO-GO KING RECORDERS original recording VOL.1
COCP-50884
\3,150(税込)

>>作品の詳しい内容はこちら
BOSE Micro Music Monitor (M3)
【試聴したスピーカーシステム】

BOSE
Micro Music Monitor (M3)
\49,980(税込)

>>ボーズの製品紹介ページ
>>ボーズ・エクスポート・インク
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