公開日 2026/05/04 12:00

『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#6 - “愛されサックス”の秘密とは?サキソフォニスト寺地美穂&エンジニア藤原暢之インタビュー!

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西野正和
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『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』第6回

寺地美穂&エンジニア藤原暢之 インタビュー
〜愛されサックスの秘密にハイレゾで迫る!

寺地美穂『URBAN MIRAGE』96kHz/24bit

 

「女性サックスの寺地美穂の新譜が凄いぞ!」

大学時代からの友人より耳寄りな情報が。早速調べてみると確かに凄い。まるでCDがミリオンヒットを連発していた時代のような、超豪華さです。全て列挙するとたいへんなことになるので、オーディオ好きにも分かるようビックネームどころをピックアップしてご紹介しましょう。

まず、サウンドプロデューサー。フラッシュ金子こと米米CLUBの金子隆博氏に、新生CASIOPEAのキーボードに緊急抜擢された安部 潤氏。

レコーディング&ミックスには、木村正和氏に、私もお会いしたことのある藤原暢之氏と、著名エンジニアが名を連ねています。

そして何と言っても超豪華ミュージシャンたち。新生CASIOPEAから今井義頼氏(Dr)に前述の安部 潤氏(Key)、F1のテーマで日本一有名なフュージョン曲「TRUTH」のころのT-SQUAREの元メンバー須藤 満氏(B)、もはや大御所フュージョンバンドDIMENSIONの増崎孝司氏(G)、本連載の前回でインタビューしたばかりのDEZOLVE北川翔也氏(G)などなど。もはや日本フュージョン界のオールスター・メンバーといった完璧の布陣です。

寺地美穂さんについても検索してみると、5大ドームを含む桑田佳祐全国ツアー(2022年)にサポートメンバーとして参加。更には日本の誇る本格派サックス専門誌『サックス・ワールド』の表紙を単独で飾るなど、驚きの経歴が続々。

ミュージシャンやエンジニア、楽器専門誌と、なんと業界に愛されている女性サックス・プレイヤーなのでしょう!

愛されサックスとでも呼ぶべき、寺地美穂さんの魅力を深堀りすべく、サックス・ワールド誌の全面協力のもと、ご本人インタビューを行いました。しかも嬉しいことに、エンジニアの藤原暢之氏にもインタビューにご参加いただけました。

藤原氏は、オーディオ好きにも分かりやすいよう、できるだけ専門用語を使わないように解説してくださっています。本記事は、最新音楽制作事情を学ぶことのできるオーディオ・セミナーとも言えるでしょう。

インタビューの最後には、本アルバムのハイレゾ試聴記も書き添えました。最後までお楽しみいただけると嬉しいです!

 

 ──── アルバム制作の曲作りやレコーディングについて教えてください。

寺地美穂さん(以下、寺地)「何をやりたいか」といったアルバム全体のプロデュースは自分ですけれども、音楽的プロデュースとしては起用したアレンジャーの3人という考え方です。

曲に関しては、ライブで育てた曲がアルバム1枚分くらいあったんです。前作『BEAUTIFUL MAGIC』(2016)の流れから、金子隆博さんにはアレンジを絶対お願いしたいと思っていました。ライブで育てた曲だけじゃなく、ちょっと新しい曲、新しいことにも挑戦したかったので、人気バンドYOASOBIのバンマスなども務める若手ベーシスト森光奏太くんと、安部 潤さんと、お二人それぞれの繋がりがあったのでアレンジをお願いしました。

どのアレンジャーの楽曲も、バンド・サウンドは一発で録りです。ボーカル曲の「300 Kisses」は打ち込み主体のバッキングですが、その他の曲はバンド全員が一緒に音を出せる環境でレコーディングしています。サックスも一緒に録っており、そのテイクを採用したものもあるし、やっぱり入れ直したいと思ってリテイクした曲もあります。

一発録りについては、できればそうしたいという希望がありました。そのほうがミュージシャン同士でコミュニケーションを取りながら演奏できるし、レコーディングも早いですし。ライブで育ててきた曲が多いですから、アルバム制作でもみんなで一緒に演奏できるのがいいなと思っていました。

森光奏太くんと安部 潤さんのプロジェクトのリズムセクションは、半日でレコーディングしました。2曲と3曲とはいえ、ものすごく早かったです。金子さんアレンジの曲は5曲あったので、半日を2日間くらいのレコーディングでした。

──── 寺地さんのサックスを録るにあたり、女性サックスと男性サックスで録音手法に違いが出てくるのでしょうか?

藤原暢之氏(以下、藤原)寺地さんは、男性か女性で言うと男性っぽいサックスかもしれない。

寺地あ、嬉しい!(笑)

藤原うまく言えないんですけど、金子さんプロデュースの1枚目(『BEAUTIFUL MAGIC』)の時に、金子さんから寺地さんへサックスについての様々なレクチャーがあったと思うんです。

寺地はい、修行しました(笑)

藤原そもそも金子さんが、マイクやエフェクトで後から何とかするよりも、演奏側できちんとした音を出して録音したいというタイプのプロデューサーであり、ミュージシャンなんです。ですので、金子さんとやる時はサックスももちろんそうですけど、他の楽器もマイクのチョイスからセッティングまで、割とオーソドックスです。あとは演奏する側に頑張っていただくというスタイルが多いように思います。

今回の寺地さんの場合は、いま考えうる音質が一番良くて、一番高額なマイク(笑)を選んでおき、セッティングしておけばOKでした。サックスに加えて、今回はフルートと歌を録ったんですが、ある程度は録音ブース内で寺地さんが自由に動けるという想定から、ご自身でモニターを聴いて音や声が一番出しやすいところに自然と収まっていく。そんな基本の場所みたいなところにマイクを置きました。

そういった金子さんから受けたアドバイスを知っているからこそ、寺地さんのサックスを男性っぽい音に感じるのだと思います。

寺地私はそこまで意識していないのですが、盛り上がっているところでは、マイクから楽器が離れないようには気を付けています。せっかくエネルギッシュに吹いても、マイクから離れてしまっては、もったいないですから。

藤原金子さんのセッションは、中野にあるVolta Studioで録ったんですけど、割とビンテージの機材が結構たくさんあるような録音スタジオなんです。録音は「Pro Tools」(注:パソコン上で録音や編集など様々な音楽制作作業が行える、プロ業界定番のソフトウェア)ですが、ミキサーはVolta Studioのビンテージ・ミキサー卓(NEVE 5315 vintage console)を使用しています。録音は外部コンソールとアウトボードで、ミックスはPro Tools内部で行いました。

オーディオ的なこと言うと、同じレベルで録る場合、インプットを上げてアウトプットを下げた方が音は良くなる。そうしたいんですけど、ラックの外部マイクプリではアウトプット調整ができないものがほとんどなんです。そうすると、ミキサー卓でレベルを上げてフェーダーで下げてからPro Toolsに入力した方が、確実に柔らかいけどパンチのある音が録れます。

やっぱり良い外部ミキサー卓があった方が、絶対的に良いです。歪まないギリギリまで上げたほうが、インプットは一番音がいい。でもPro Toolsはレベルが決まっているので下げなきゃいけない。特に今回のようにバンドで一発録りするような場合は、ミキサー卓に立ち上げて録音することが音質的に有効です。

寺地今回はエンジニアさんも超豪華ですから、私からは音へのリクエストは何も言ってないです(笑)。「お願いします!」だけで、私はサックスを吹くほうに専念。ラフ・ミックスが上がってきた時点で、もう何も言う必要のない理想の音が既に出ていました。

──── 今回はミックスのエンジニアさんが3名。マスタリングしているとはいえ、3パターンの音質が興味深かったです。藤原さんのミックスは低音域がどっしりとしたピラミッドバランスが特長的に感じました。

藤原別にエンジニアという仕事に関係なく、好きだった音楽がそういうサウンドだったんです。日本特有のサウンドなのかもしれませんが、今すぐのPOPさが重要視される音楽なら、私も上から下までフラットという音作りを考えます。

寺地さんの音楽は、これから10年後や30年後にも同じように聴ける音のほうがいいんじゃないかなと思って、私の好きだった音楽と同じステージになるようなサウンドを目指しました。

寺地嬉しいですね〜。

──── レコーディングは、ハイレゾを意識して96kHz/24bitで行われたのでしょうか?

藤原今回のアルバムは、48kHz/32bitでレコーディングしてミックスしています。

もちろんハイレゾでの提供があるアルバムだろうと想定して録っているんですけど、実は自分は48kHz録音の音が好きなんです。もしかしたら機材が変わったり、自分のやり方が変わったりすると違ってくるかもしれませんが、現時点だと特にフォーマットに指定のない場合は48kHzを選択します。

今回のアレンジャーの金子さんとは30年くらいずっと一緒にやってきて、フォーマットについてもすごくいろいろと試してきました。サックスの吹き心地や演奏しやすさは96kHzのほうが良さそうなんですけど、録音した音を聴くと無駄に聴こえすぎてしまう。48kHzだとやらないような、例えばレンジを狭くしちゃいたくなるという現象が起きるんです。

また、96kHzだとエディットしたくなるというか、別にズレてるとかではなく、見えすぎてしまう。例えばサックスだったら、口の形でのトーンなのか、ノイズなのか。その音がいるのか、いらないのか。96kHzになるだけで見えすぎるんです。でもそれがミュージシャンの人は演奏していて楽しいし、オーディオを趣味として聴く人が嬉しいのも分かります。

今回の寺地さんの音楽だと、あとからどんどんダビングしていくわけじゃないので、96kHzで録るかどうかすごく迷うところなんです。見えすぎるのが意外と邪魔になることがあるし、チャンネル数などの制限や、コンピュータに倍のマシン・パワーが必要だし。

Pro Toolsだと 音をDSPで処理しているので、DSPの負荷だけ考えても48kHzだと 256チャンネル再生できるのが 96kHzだと128チャンネルになります。いろんな要素が絡み合うので一概には言えないですけど、マシンパワーが必要になるにつれオーディオ・クオリティが下がるように感じます。

近年でプラグインのエフェクトは素晴らしく進化しています。でも寺地さんの今回のサックスに関しては、ミックスもアナログのEQとコンプを使っています。やっぱりサウンドが全然違うんですよ。

──── 48kHz/24bitではなく、32bitなんですね。

藤原もし96kHzで制作指定があっても、32bitはマストです。48kHzや96kHzといったサンプリングレートは関係なく、現在の音楽制作は32bitフロート録音(注:理論上では音声データに音割れが発生せず、録音後の編集で音量調整が自由にできる高解像度な記録方式)が一般的になりました。音源やエフェクトのプラグインも、もう全て32bitに対応しています。

今回は、最終的には48kHz/32bitでミックスダウンして、マスタリングで96kHz/24bitにしたものがハイレゾ音源として提供されています。

──── CD全盛時代から、今ではハイレゾでの音源提供や、サブスク音楽配信に移行して、音楽制作時の音圧についての考え方に変化はあったのでしょうか? CD時代の昔ほどガツガツに音圧を詰め込むのではない方向へ進んでいるとか?

藤原その考えは、ひとつ古いような気がします。いい音っていうのが何かという定義があると思うんですけど、CDの音質追求には紆余曲折あって、まず1980年初頭に、突っ込むと音が良くないという時期がありました。

アメリカは、実はデジタルテープで音楽制作した時期が異様に少なくて、アナログマルチからPro Toolsに一気に飛ぶんです。ソニーの「PCM-3348」や三菱の「X800」といったデジタルテープのマルチ録音に対し、結局はテープだからデジタルもアナログも労力が一緒ということで、アメリカ人はメリットをあまり感じなかったみたいです。

僕らは細かくパンチインができて、編集するという意味でデジタルテープ録音がすごく嬉しかったんですけど、アメリカには編集という概念が多分なくて。でもPro Toolsは流石に便利だということで、一気に普及したみたいです。

Pro Toolsが2000年くらいに一般的になって、その2000年初頭は音を模索していた時期だったのか、海外作品全体的に音質が良くなかったように私は感じました。

その後、2010年代ぐらいからアメリカの音がすごく良くなったんですよ。たまたまマスタリング前のアメリカの音源を仕事で聴く機会があったのですけど、めちゃくちゃ音がでかいんですよ。でもそのでかい音を潰れていないように聴かせる技術が、おそらく培われていったんだと思います。

アメリカの人たちには、「でかい音のほうが楽しいに決まってんじゃん」っていうのが、おそらくゴールとしてあるのでしょう。完成したときに「Yeah!」って言うために。でも、音をでかくするとグシャグシャになっちゃう。それを解決していた10年間だと思います。勝手な想像ですけど(笑)

現代になって特に今、更に音がでかいんですよ。でもスペアナで見ると、素晴らしく広いレンジ。低域も全く切れていなくて、高域はもちろん落ちてはいくんですけど、とはいえ落ち幅が無いくらいなファイルだったんですよね。いわゆる無駄と思われる帯域、下は30Hzから上は20kHzまでしっかりとある。それが、音がでかくても潰れていないように聴こえる理由なのかなと。そういうサウンドを、私は48kHz/32bitで目指してやっています。

今回の寺地さんは特にインストなので、オーディオが好きな人が聴いても、寺地さんファンじゃない人が聴いても、何か「おっ!」って思ってほしいなと。海外作品にも負けないサウンドになるように相当意識してやったんで、おっしゃっていただいたようなピラミッドバランスのサウンドに近くなっているのかもしれないです。

────藤原さんが聴いてみて、マスタリング後の寺地さん音源の印象はどうでしょうか?

藤原多分、マスタリングで私のミックスした曲はレベルが下げられていると思うんです。ミックスダウン音源のほうが音がでかい。それは別に嫌だという意味じゃなくて、おそらく僕がやっているのはCD規格にするとちょっと無理な音量までレベルを入れているので。自分の手応えとして、マスタリングでレベルを上げてもらうより、レベルを下げるほうが音は自然になるように感じます。

寺地マスタリングには、私が代表として立ち会いました(笑)。やっぱり3人のアレンジャーごとに3人のエンジニアさんの音があって、アルバムとして並べて聴いた時に音の特長が違っていたので。そこをマスタリングで調整してもらい、私も希望を出しました。単純に楽曲によって音のバランスが違いすぎると変な感じがするから、ちょっと流れで聴いた時に聴きやすいように。いきなりベースがガーッと大きくなっても、なんだかびっくりしちゃう(笑)。サックスのバランスでは、立ち位置がライブ会場に近いイメージになるようリクエストしました。

藤原多分、僕がやったのがベースが結構でかめだったんじゃないかな(笑)。それは周波数バランスというよりも、事前に金子さんから「今回はアレンジを全体的にシンプルにして、ベースの動きだけで引っ張っている曲が多いから」って言われていたんです。そこで、シンプルでベースがグイグイくるイメージでミックスしています。

──── アルバムで使用されたサックスについて教えてください。

寺地アルトサックスに関しては、このブラックニッケルの1本で吹き切りました。このウッドストーンのアルト・サックスは、石森管楽器さんが私のために作ってくださった特別モデルなんです。

もともと黒いサックスにすごい憧れがあって、音もウォームなサウンドで大好きだったんですけど、ブラックニッケルって吹き心地が重たいんですよね。鳴らすのに体力がいる楽器だから、体の大きな外国人男性がブーって吹くのと、私が力を込めて吹くのとでは、どうしても差がある。自分に鳴らせるまで、石森管楽器さんに作っていただいてから 2、3年は育てていました。

新品でも鳴るんですけど、まだ自分の体の一部にはなっていないなと。 2、3年はライブ本番でも使いながら慣らし運転をしていき、「あ、もういける」と感じてから今では本命のサックスになっております。

「HEART of C」という曲では4管のサックスセクションを自分一人で録っていて、そこでは違う楽器を混ぜようと思っていたんですけど、実は持っていったサックスを間違っちゃって(笑)。なので、アルト・サックスに関しては、結果的にブラックニッケルの1本だけです。楽曲によって、他にはソプラノ・サックスとフルートを吹いています。

サックスのマウスピースは、今回はメタルです(レトロ・リバイバルのエリック・マリエンサル・モデルを使用)。実は材質よりもマウスピースの形のほうが音に影響するんですよ。息がどういうスピードで入っていくかというのが大きいので、材質はメタルなんですけど、そこまで鋭すぎない音が出る設計になっているものを使用しました。

やっぱり楽器が鳴っているのと同時に体も一緒に鳴っているので、体重も関係があると思うし、骨格も顔の顎の形も、もちろん女性であることも全部影響していると私は思っています。2016年のファースト・アルバムのときにプロデューサーの金子さんからアドバイスをいただいたときから、自分のこの体を使って、どうやって無理なくいい音が出せるかってことを考えてきた10年間だったかもしれないです。

自分のサウンドがここ3年くらいで本当に変わってきたなということに、実は心当たりがあるんです。

ひとつはピラティスを本格的にやったこと。コロナ禍もあって、その時にメンタルもフィジカルもみんな辛かった時期だと思うんですけど、ピラティスで体を整えてきたことで、演奏する時のエネルギーというか、ライブが終わってももうワンステージできるなっていうぐらい元気になったんです。いつもソロ・ライブのあとは首が痛くて、本当に整骨院に駆け込むみたいな状況だったんですけど、そういう体のメンテナンスも自分でできるようになりました。体に不安がなくなったっていうのは、演奏にも大きく影響していると思います。

もうひとつは、今まで体をリラックスさせすぎてサックスを吹いていることに気付いたんです。リラックスすることが良いことではあるけれども、本当はもっと息を入れた方がいい音が鳴るのに、サックスはトランペットほど息を入れなくても鳴る楽器だから、どこかで「このくらいでいいかな」という気持ちで吹いていたんだなと。もっと息を真っ直ぐ入れるということが、まだ全然できてなかった。実際に息を入れることで、自分が思った通りのサウンドに近づいてきたと思います。

最後のひとつは、普段の食生活の改善ですね。適当な食生活だったのを止め、ご飯をしっかり食べるようになりました。結果的に、体重もずっと安定していられる。体重もパフォーマンスにすごく影響すると私は思っているので、痩せすぎてはいけないし、太りすぎも良くない。体を作る中で、ご飯って大事だなって改めて気づかされました。

──── ご自身では、愛されサックスの秘密はどこにあると思いますか?

寺地自分では良くわからないです(笑)。でも、テクニック的な演奏パフォーマンスという意味では、今の自分が吹いたときに理想の形でそういうスタイルの演奏ができないんだったら、今はまだやらないほうがいいと思っています。

それこそ何十年、これから先も聴いてほしいからこそ、何回も聴きたいと思えるようなソロやテイクにしたいんです。例えばアドリブのソロならば、自分のアドリブを採譜して改めて吹き直すこともやるんです。その瞬間に何をアドリブでやりたかったのかを自分で整理し直して、ちゃんと綺麗に言い直すみたいな。勢いはいいけれど、どうしても何回も聴くにはちょっと雑だなというテイクを残すのは嫌なので。自分なり納得できる形、あとから何回も聴きたいと思ってもらえる形にしたいです。

そういった私の演奏への向き合いかたでもいいし、サックスの音色や楽曲など、何かひとつでも皆さんに愛していただけているのなら、そんな嬉しいことはありません。

いろんなことにすごく時間がかかったファースト・アルバムの時よりも、今回のアルバムでは少し成長した音を残せたのかと思います。ぜひハイレゾで聴いてほしいです。

 

『URBAN MIRAGE/寺地美穂』ハイレゾ試聴レビュー

本アルバムをサブスクで聴いたときの印象は、“軽やかなサックス”でした。しかし、インタビュー後に寺地さんの生音を聴き、それは大きな間違いと気付いたのです。

試奏ブースで吹いていただいたので、手の届きそうな至近距離。もちろん仕事柄、サックスの生音を聴く機会はあるので、生演奏サックスの経験不足からくる驚きではありません。寺地さんのサックスは、軽やかというよりマッシブ。試奏ブースに入る寺地さんの後ろ姿は、アルト・サックスがテナーに見えるくらい小柄で細身だったのですが…。

サックスがブワッと鳴る感触、圧を感じるというのでしょうか。エンジニア藤原さんが「男性的」と評されたのに納得です。サブスク試聴では、この “ブワッ!” という手触りが到底再現できていません。

オーディオを伝言ゲームに例えるなら、どこかでサックスの音色が上手く伝言できていないことになります。もしかすると、制作段階で軽やかなサックス・サウンドという意図があった可能性はあります。しかしオーディオが真の上位互換を実現できているのなら、その深層に隠された “ブワッ!” をも手に入れたいと願うのは私だけではないはず。

ちょうど新しいケーブルの開発に成功したので、その完成試聴も兼ねてハイレゾで『URBAN MIRAGE』に再挑戦。そうすると感じるではないですか、あの “ブワッ!” の片鱗を!

エンジニア藤原さん曰く「96kHzは見えすぎる」というサウンドが、音楽制作現場とは異なり、リスニングのオーディオではプラスでしかありません。サックスの音色の産毛までが見えるような感触は、ハイレゾならでは。見えすぎる音の快感が素晴らしい。

気軽に楽しめる音楽サブスクは、もちろん楽しい。でも、愛する音楽を深く味わうには、まだまだハイレゾはサブスクとは別の土俵にいる横綱だと感じた試聴でした。

 

筆者プロフィール

西野正和(にしの まさかず)
オーディオ・メーカー株式会社レクスト代表。YouTubeの “レクスト/REQST” チャンネルでは、オーディオセミナーやライブ比較試聴イベントを配信中。3冊のオーディオ関連書籍『ミュージシャンも納得!リスニングオーディオ攻略本』、『音の名匠が愛する とっておきの名盤たち』、『すぐできる!新・最高音質セッティング術』(リットーミュージック刊)の著者。世界トップ・ベーシストたちのケーブルを手掛けるなど、オーディオだけでなく音楽制作現場にも深く関わり、制作側と再生側の両面より最高の音楽再現を追及する。


 

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