物理メディアの魔法にかかる。YBAの“トランスポータブル”SACDプレーヤー「Design One」の魔力
バッテリーでSACDを聴くという贅沢。そんなことを可能にしてしまったのが、フランスのハイエンドオーディオブランドYBAの「Design One」である。そう、CDプレーヤーではなく、SACDプレーヤーだ。
いつでもどこでもSACDが再生できる
YBAによれば、ポータブルCDプレーヤーの復権やSACDコレクションへの関心の高まりを背景に、新たな層のリスナーに向けて開発したという。
しかし、いわゆるポータブルCDプレーヤーを想像すると少し違う。Design Oneはバッテリーを内蔵しているものの、重量は1.34kgもある。歩きながら音楽を聴くための製品ではない。YBA自身も「トランスポータブル」という表現を使っている。
メーカーは平らな場所に置いて使用するよう案内しているため、バッテリー駆動だからといって、昔のポータブルCDプレーヤーのように歩きながら使うことはできない。もちろん、一般的なポータブルCDプレーヤーにあったようなスキッププロテクションもない。
つまり、家の中でリビングから書斎へ持っていったり、オーディオシステムの上にちょこんと置いたりと、必要な場所へ持ち運んで使うためのSACDプレーヤーなのだ。それでも、バッテリーでSACDが再生できるというだけで、かなり心をくすぐられる製品だ。
心臓部となるSACDドライブには、HD850レーザーとMT1389EEシステムを組み合わせている。これは小型プレーヤーながら、SACD/CD再生用の本格的なドライブシステムを採用しているということだ。
ストリーミングならスマートフォンで曲名をタップするだけだが、Design Oneではトップカバーを開け、ディスクを置き、再生ボタンを押す。これはちょっとした儀式であり、こうしてディスクをセットする作業が、今となっては面白い。最近のポータブルCDプレーヤーの復刻ブームを見ても、こうした感覚が受け入れられていることが分かる。親父世代にはノスタルジーだが、若い世代には新鮮なのだろう。
SHANLINGとの技術提携でヘッドホンアンプ部も優秀
SACDとCDの切り替えも少し独特だ。両方のレイヤーを持つディスクでは、一度再生を停止してからボタンで切り替える。おそらく、SACDとCDそれぞれのTOCを読み直す操作として機能しているのだろう。
操作系のUIを眺めていると、どこかSHANLINGの製品を思わせるところもあるが、実際に SHANLINGとの技術提携があるようだ。
DACにはAKMのAK4497Sを採用している。ヘッドホンアンプはディスクリート構成で、4.4mmバランス出力では32Ω負荷時に最大1.65Wという高出力を実現している。ただし、この1.65Wは外部電源使用時の値で、バッテリー駆動時は最大850mWとなる。
背面には4.4mmバランス端子とRCA端子を装備し、アナログ出力はライン出力またはプリアウトとして使用できる。パワーアンプやアクティブスピーカーと組み合わせれば、Design Oneを中心にしたシンプルなスピーカーシステムを構築することもできる。
さらに、SACDプレーヤーとしてはちょっと面白い機能も備えている。デジタル出力が可能なのだ。同軸デジタル出力では、CD再生時は44.1kHz、SACD再生時は88.2kHzのPCMとして出力される。SACDのDSD信号をそのまま出力するわけではない。
清々しさや空気感にはSACDの優位性あり
今回はFitEar「Origin-1」を3.5mm変換アダプター経由で接続して試聴した。まず聴いたのは、Channel Classicsのレイチェル・ポッジャーとブレコン・バロックによるヴィヴァルディ「四季」のSACDだ。
一聴して音は極めて良いのが分かる。「春」の、あの清廉で清々しい雰囲気が非常によく伝わってくる。美しく、伸びやかな音に包まれるような感覚がある。音の一つひとつがとても細かく、空気感も豊か。華やかで滑らかだ。
特に音色の再現が素晴らしい。バロックアンサンブルの中にハープシコードが入っていることがよくわかり、そこにバイオリンが重なる。この組み合わせが非常に艶やかで清廉、聴いていて実に離れ難いほど気持ちがいい。
感覚的な表現になってしまうが、普段ストリーミングで聴いている音とは少し違う「アナログ感」のようなものを感じる。もちろん、SACDだからアナログ的な音になるという単純な話ではなく、AK4497Sを含むDACやアナログ回路、そしてYBAによる全体のチューニングが効いているのだろう。
次に同じ曲をCD層に切り替えて聴いてみた。CDでも、もちろん音は良い。ところが、先ほどSACDで聴いた「春」らしい清々しさや空気感が消えてしまう。バイオリンとハープシコードのアンサンブルも、まるで「魔法」が解けたかのように精彩を失ってしまう。この差は驚くほどだ。
もう1枚、アキュフェーズのプロモーション用CD『Special Sound Selection 5』(SACDハイブリッド盤)から、ジョン・ウィリアムズの「ロサンゼルス・オリンピック・ファンファーレ」のSACDを聴いてみた。冒頭のキャッチーなトランペットが、やはり清々しく気持ちいい。音には豊かな空気感があり、ファンファーレらしいスケール感も大きい。
本機の特徴でもあるデジタル出力を試すべく、同軸デジタル出力をエソテリックの「N-05XD」のデジタル入力に接続してみた。
再度ヴィヴァルディ「四季」で聴いてみたが、音は当然ながらエソテリックの音になる。精緻で、音の隅々まできっちり描き出す。いかにも国産ハイエンドらしいモニターライクなサウンドで、これはこれで非常に良い。
ただ、今度はDesign Oneのヘッドホン出力で聴いたときに感じた、海外ブランドらしい華やかさや艶やかさが恋しくなってきた。
「物理ディスクの魔法」を味わえる
Design Oneで聴くSACDには、単純な解像度が高いという言葉では説明しにくい魅力がある。まるで11.2MHzのDSD音源を聴いているような、きめ細かな音に感じる。もちろん実際のSACDは2.8MHzに過ぎない。
こうした良さが「物理ディスクの魔法」なのか、単なる思い込みなのか、それともYBAのチューニングの冴えによるものなのかは筆者には分からない。ただ、いずれにせよ、そこに魅力的な音があったことは確かだ。
もちろん、もう少し作り込んでほしいと感じる部分もある。ローディング時に動作音が気になったことや、設置場所に制約があることを考えると、バッテリー内蔵だからどこでも気軽に使えると考えると少し違う。
しかし、それを差し引いても、この製品の個性は面白い。「物理ディスクの魔法」が本当に存在するのかはわからない。ただ、Design Oneは、その魔法をもう一度試してみたくなる製品である。
YBA「Design One」はバッテリー内蔵の小型SACDプレーヤーという変わり種でありながら、海外ブランドらしい華やかで艶やかなサウンドを楽しめる機材だ。便利さとは別のところにある、音楽を聴く楽しさを思い出させてくれる、個性派の機材であると言えるだろう。
(提供:ブライトーン)

























