アキュフェーズのプリメインアンプ「E-3000」でQobuzを聴こう!
シンプルなプリメインアンプの進化が著しい
この近年、オーディオ技術のさらなる進化が遂げられ、特にアンプ技術においては、セパレートアンプに迫るプリメインアンプが登場しています。これは、プリアンプの高精度なボリュームとドライブ力に、高出力かつダンピングファクターなどの諸特性に優れたパワーアンプが直結していることが特徴と言えるでしょう。
また音楽再生にも変化がありました。CD/SACD、LP、ハイレゾダウンロード音源に加えて、高音質なストリーミングサービス、Qobuzの登場です。シンプルでスタイリッシュなシステムを楽しみたいという愛好家も増えており、まさにこれに応えているのが、現代のプリメインアンプと言えるでしょう。「One Speaker, One Amp」の本格的な時代を迎えているように実感するところです。
この中で、私が注目するモデルのひとつは、今年発売されたアキュフェーズのプリメインアンプ「E-3000」です。シャンパン・ゴールドのフロントパネルとスクエア・メーターが伝統の顔で、精密感のあるスイッチが配置されています。
本機は「E-380」と「E-280」が統合されたモデルです。高さは161mmとなり、セレクターとボリューム周りに金メッキのリングが加わり、アナログ式パワーメーターが搭載されたデザインとなっています。堅牢な筐体構成で、重量は23.1kgです。
トーンコントロールも装備し機能豊富ですが、デジタル入力ボード「DAC-60」を搭載すれば、最近注目のQobuzを楽しむこともできます。パソコンやネットワークトランスポート、オーディオサーバー等からUSBもしくは同軸デジタルなどで入力することで使用できます。
ダンピングファクターを高め制動力をさらに向上
プリメインアンプとしての魅力をさらに解説しましょう。本機はAB級アンプですが、E-380の出力が120W/8Ω、E-280が90W/8Ωであったのに対し、100W/8Ωとなっています。その技術を出力段から説明します。E-380がバイポーラ・トランジスタ、2パラレル構成であったのに対し、本機では、さらに高電圧、大電流特性を求め、サンケン製バイポーラ・トランジスタ(2SC3263、2SA1294:230V、15A)を選び、3パラレル・プッシュプル、3段ダーリントン接続による出力段となっています。
この出力段は、高精度なバランスアンプ構成(インスツルメンテーション・アンプ構成)であり、電圧増幅段(ドライバー段)と電力増幅段(パワーアンプ部)の+側と−側のインピーダンスが等しく、外来ノイズ除去能力も高いことが特徴です。スピーカー制動力の指標となるダンピングファクター特性も高くなり、E-380では500でしたが、本機では600を達成しました。
これを実現するために、出力段の帰還回路と基板パターンを改善し、超低ON抵抗のMOSスイッチ(東芝製)による保護回路、大型コイル、基板直結スピーカー端子を採用しています。スピーカー端子の直近から信号線と同時にグランドからも電流帰還をかけるバランスド・リモートセンシングも貢献しています。これだけ見ても、独立したパワーアンプとして成立します。
次にプリアンプ部を解説します。まず注目されることは、初段アンプを入力端子の直近に配置し、ノイズの混入を防止したことです。具体的には、入力端子の直近にオペアンプを使用し、5回路並列動作(5-MCS)させ、S/Nを向上させています。MCSとは、同じ回路、同じ素子を並列動作させ、歪み率など諸特性を向上させる、同社が大切にしている代表技術です。
もう一つの特徴は、同社独自の高精度、低雑音、低歪み特性のAAVA音量調整器です。これは、複数の抵抗を切り替える方式のことで、これを半導体化した素子ではありません。簡単に説明するなら、音量調整可能なアンプ(可変利得アンプ)です。具体的には、1/2〜1/65,536までの16種類のV/I(電圧/電流)変換アンプ全体で、一旦、音楽信号を受け、ボリューム操作に応じて、エンコーダーが動作し、CPUがこれら16種類のアンプを組み合わせ、音量を増減する仕組みです。増減された電流信号は、AAVA出力部のI/V(電流/電圧)変換アンプにより、電圧信号となり、出力段に伝送されます。このI/V変換アンプはプリアンプ出力部の役割を果たしています。
さらに歪み率向上と低雑音化を実現するために、独自のANCCを採用し、ボリュームの実使用時のノイズを約20%低減させています(E-380比)。実に高精度で規模の大きなプリアンプ部で、フロントパネルの背後に縦に装着されています。
全体の性能を活かし、音質にも影響する電源部も充実しています。E-380と同じサイズの大出力トランスを採用し、フィルターには、ニチコン製の同社仕様のフィルターコンデンサ(33,000μF/71V)を2式搭載しました。そのほかの細かな配慮として、高剛性で操作感にこだわったオリジナルインプットセレクターも新規に採用しています。このように、本機には同社の最新技術が凝縮されていることが、大きな特徴と魅力です。
ECMの透明なピアノの響きが美しい
その本機の音質をQobuzで聴いてみました。印象深かったことは、まさに冒頭で記したように「One Speaker, One Amp」の時代を迎えるのではないか、と思うほどのスピーカー駆動力の高さが体験できたことです。
それは、ECMレーベルのトルド・グスタフセン・トリオのアルバム『OPENING』で実感できました。まず、2曲目のドラムスやシンバルの一音一音に高い音圧を感じました。しかも微細な響きも伴っているからリアルです。これは、S/Nの良さと低歪みの効果です。シンバルの打音にもシャープな輝きがあり、細かな響きも重畳され、生音のような鮮烈さがあります。楽曲の静けさも引き出し、高解像度で再生することも特徴です。ベースの音も木質感を伴い、弾力感を憶えます。ウーファーが高速レスポンスしている印象を受けます。
ピアノの響きには透明感があり、立ち上がりも強調されず、余韻が美しいです。音色としてはわずかに暖色系で、長く聴いていたくなる浸透力のある音が特徴です。DACとパワーアンプが直結されたような音の鮮度の高さも感じさせ、ダイナミックレンジが広いです。これは、カスタムメイドのフィルターコンデンサーを使った電源部の効果だと推察されます。
次に同じトルド・グスタフセンのヴォーカル曲『What Was Said』を再生しました。ゾクゾクするほど絶妙な声使いが再生されます。デリカシーに富んだピアノタッチ。そのピアノとヴォーカルを引き立てる、弱音極めるドラムス。そして静寂な音楽の「間」。照明を消すと、これぞイマーシブオーディオと言いたくなる立体空間を体験させてくれます。その周囲で演奏する空間描写性の高さも魅力的で、クラシック音楽の名盤から生々しい臨場感を引き出してくれます。
Qobuzを使うと、新しいジャンルや、昔愛聴したアルバムに遭遇することもあります。私にとって懐かしく、斬新に進化したのは、タンジェリン・ドリームの『Raum』でした。亡くなったエドガー・フローゼの後を引き継ぎ、エレクトリック・サウンドをさらに進化させ、アヴァギャルドでノリの良いハウス・ミュージックを展開してくれます。
シンプルなシステム構成ですが、歪み率などの諸特性に優れているだけに音に敏感です。ですから、お好みのラインケーブルやスピーカーケーブル、USBケーブルなどで、ご自身の音作りを実現する魅力があります。
こうした特徴を備えるE-3000の魅力を、ぜひ専門店で体験して欲しいと思うところです。































