PR 公開日 2023/04/26 06:30

DAPだけで満足していたのに…Astell&Kernのポタアン「AK PA10」で愛機の隠れた魅力に気づかされた

オーディオ沼が広がる、今こそ使いたい一台

DAP単体でも十分と思えたサウンドがさらに進化する



試聴ではまずデスクトップユースを意識し、オーバーヘッド型ヘッドホンを使ったケースを試してみる。ここで用意したのはCHORDのポータブルDAC「Mojo 2」と密閉型ヘッドホンの高級モデルであるウルトラゾーン「Signature MASTER」。「Macbook Pro」とMojo 2をUSB接続し、そのままSignature MASTERを使う場合と、Mojo 2の後段にAK PA10を挿入した場合を比較してみた。

CHORDのポータブルDAC「Mojo 2」とウルトラゾーン「Signature Master」を用いて、デスクトップ用途での利用イメージをチェック

Mojo 2とSignature MASTERだけの場合でも、駆動力は十分に確保されている印象。音ヌケの良さと音像フォーカスの高いSignature MASTERのモニターならではの表現性と、Mojo 2由来の潤い感の伴った華やかな高域表現が融合したサウンドである。低域は密度良く締まり、ディストーションギターのリフも太く安定。ボーカルも自然な際立ちで、口元の輪郭もスムーズでしっとりとしたニュアンスを克明に描き出している。

AK PA10を挿入してみるとより音像の存在感が増し、元々密度の高かった中低域は芯が厚くなって低重心なサウンドに進化。安定感のある、きめ細やかな表現を獲得している。ボーカルの動きを艶良くウェットにトレース。肉付きも適度に持たせているが、輪郭も明瞭で音離れ良く、リヴァーブのニュアンスも緻密である。

飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート2013『プロコフィエフ:古典交響曲』では管弦楽器のコントロールに優れ、抑揚の良いハーモニーのヌケ感と収束の早い余韻が生み出す、見通しの良い爽やかな音場感が印象的。ローエンドは伸び良く厚みを持たせているが、太鼓のアタックなど、ダンピングも十分。ハキハキとした旋律の際立ちは潤いがあり、勢いがある。実に芳醇な響きだ。

ジャズのホーンセクションはコシがあり、ハリの鮮やかさだけでなく、耳当たり良いナチュラルな音調となる。シンバルワークは緻密でピアノのアタックは朗らか。開放的でありながら細部まで丁寧に質感を拾い上げる、リアルで流麗なサウンドだ。ロック音源の『MENIKETTI』ではエレキギターはガッチリとしたピッキングのキレを見せ、リズム隊も密度良く引き締めている。コシのある音像の存在感と余韻の爽やかさとの対比も良い。

ちなみにAK PA10側での設定はハイゲインを選択。Signature MASTERはインピーダンスが32Ωと低いものの、出力音圧レベルは98dBとさほど大きくはないことから、高い駆動力を引き出せるモードを選んだ次第だ。

カレントコントロールもHighにすると余韻のわずかな滲み感が消え、リヴァーブの質感もクリアに見えてくる。音像の輪郭についてもより正確さが増し、分離良く表現。シンバルなどの高域側についてもアタックの質が高く、響きが崩れることなく丁寧に描いている。

Midに切り替えた段階で抑揚感や分離の点で優位性も実感できるが、駆動力を必要とするヘッドホン再生ではハイカレントでのメリットもより大きくなるようだ。

クロスフィードも試してみたが、Signature MASTERにはウルトラゾーン独自の頭外定位技術の最新版S-Logic 3を装備しており、その元々の効果の高さがあるためか、AK PA10側でのハードウェア・クロスフィードによる効果はわずかであるように感じられた。劇的な変化とならない分、違和感なくナチュラルな音場感を得られることが優位となるだろう。

続いてはポータブル環境でのユースケース、AK PA10を使う場面としてはこちらが本命だろう。DAPは同じAstell&Kernの「KANN MAX」、イヤホンも同ブランドで揃え「AK ZERO1」を選択した。

Astell&Kernの「KANN MAX」と接続して、本命といえるポータブル環境でのサウンドチェック

KANN MAX自体は直接ヘッドホンを駆動できるようなパワフルなアンプを内蔵していることが特徴でもあり、3形式のユニットをまとめ上げたハイブリッド型ドライバーを積むとはいえ、AK ZERO1の鳴らし込みに不安要素はない。

実際にこの2製品だけで聴いてみると、メリハリ良くシャープなサウンドで、高域にかけてハリの強い煌びやかな傾向であるが、音場の透明度は高く、中低域はタイトにまとめた解像感のある描写としている。

11.2MHz音源のSuara『キミガタメ』はピアノのアタックを付帯感なく上品に際立たせ、ボーカルはクールで息継ぎのニュアンスも克明に引き出す。この高域の硬質さは好みが分かれるかもしれないが、そこにAK PA10の持つA級ならではの持ち味を加えることでサウンドバランスにも良い変化が訪れる。

AK PA10のセッティングはローゲイン、カレントコントロールはHighに設定。ハードウェア・クロスフィードを有効にするとセンター定位のボーカルがやや前方へ推移して、広がり良く見通しの深い音場が展開。AK PA10の音色による効果も含め、リラックスして音に浸れるサウンドとなっている。試聴ではハードウェア・クロスフィードを切ったデフォルト状態で進めることとした。

AK PA10をセットに加えると、サウンドの深みとより自然な音像の厚み、滑らかさが増す印象で、A級駆動らしい伸び良くしなやかな音調となる。ハイカレントによって低域の制動性も高まっており、解像度の高さとボディ表現の豊かさを両立した、ゆとりのあるサウンドとなった。

11.2MHz音源のボーカルも、艶良く柔らかな質感を引き上げてくれ、ボディの自然な肉付きも素直に描写。ピアノの響きも豊潤で、ペダルの音も克明に拾い上げる。オーケストラは管弦楽器の旋律を精緻に捉え、潤い良く丁寧に表現。ローエンドは弾力良く響き、余韻の収束も素早い。

ジャズのホーンセクションもキレ良く鮮やかで、奥に定位するピアノの距離感、ニュアンスもリアルに引き出す。リズム隊の抑揚感もナチュラルで躍動的。スタジオの残響感も捉えた分離の良いサウンドだ。

ロック音源のフォーカスも良く、スネアドラムのアタックは立ち上がりが非常に速い。シンバルの響きも金属の質感を正確に掴んでいるようで、ライドの粒立ち良いアタックも品がある。エレキギターやボーカルの密度も高く、コシのある安定感ある描写が得られた。

せっかくなので、別売りの両端5極4.4mmのラインケーブルを用意し、バランス駆動でも試してみる。AK PA10を使わないバランス駆動でも分離良く、クールでキレのあるサウンドを聴かせてくれるが、AK PA10を用いたバランス駆動では解像感に加えて音像の密度の高まりも同時に得られ、音像そのものの存在感、立体感も見えてくる、高S/Nで生々しいサウンドとなった。

TOTO「I Will Remember」では男性ボーカルの素直なレンジ感、低音域の充実さが印象的で、大口径キックドラムのエアー感、アタックで感じる皮のニュアンスも克明に描き切る。オーケストラの空間性も高く、ローエンドの制動性の良さ、個々のパートの付帯感ない描写力も相まって、静寂感の伴ったハーモニーを味わえた。11.2MHz音源の女性ボーカルも瑞々しく艶やかな表現となり、口元の動きや息継ぎも緻密に描く。非常に表情が豊かで、倍音の音伸びも有機的な質感表現の助けへと繋がっているようだ。



AK PA10によって、接続している機器が本来持つサウンドの伸び、有機的な表現力を効果的に引き出してくれているように感じられた。より音像の芯に厚みが生まれ、低重心で落ち着きあるものとなり、非常に耳馴染みの良いものとなっている。また、A級駆動であっても本体の発熱は抑えられている。独自の高効率な回路設計が生かされているのだろう。

DAP単体での取り回しの良さは魅力である一方、音質面でもう少し変化が欲しいと感じているのであれば、ぜひAK PA10を追加していただきたい。流麗で艶やかサウンドを楽しめるだけでなく、これまで使っていたイヤホン/ヘッドホンで聴き取ることができていなかった表現、能力にも気づくことができるはずだ。

(協力:アユート)

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