公開日 2015/03/06 14:06

【第117回】DSDとは何か? 原理や音の特徴、おすすめソフトまでまるごと紹介

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

■DSDが活躍している場面

しかしDSDはPCMと根本的に記録原理が異なることもあり、独特の音調を持っている。よく言われるのは「アナログ感」「質感」「空気感」といったような「〜感」という曖昧なものだが、音楽制作は感覚的なものであっても問題ないだろう。その「〜感」がそのミュージシャンやエンジニア、その曲の「感覚」にフィットするのであれば、そこはDSDの出番だ。

とはいえ前述の「編集性の低さ」はどうにもならないので、使いどころや使い方は限られる。つまり編集性の低さが問題にならない場面でしか使えないということだ。しかし逆に言えば「使える場面もある」ということ。その代表例を挙げてみよう。

▼一発同時録音

バンドの全パートが同時に曲を最初から最後まで通して演奏し、それをそのまま録音する「一発同時録音」のみでその曲がほぼ完成し、その後の編集が必要ないならDSD録音で問題ない。

▼マスタリング

録音から編集、ミックスといった工程まではPCMで進めて、音を最終的に仕上げるマスタリングの際に、PCMからアナログに戻して出力し、DSDに録音する。編集はPCM領域ですでに終えておりDSD領域では不要。最終的な調整のためのイコライザーやコンプレッサーによる処理はDSDの手前でアナログ機器で行えばよい。それを最終的にDSD録音することでDSDらしい「〜感」を得ることができる。

この手法は「せっかくのPCMハイレゾ録音素材をアナログに戻してから他の形式にするなんてもうハイレゾじゃない!」「録音の最初からDSDじゃないなんてDSD音源として認められない!」というような批判も受けがちだ。たしかに、これを「ハイレゾ音源」「DSD音源」と認めるかどうかは、その人の定義次第だろう。

しかし音楽を作る側や聴く側として、「望んだ音にできるなら、好い音で聴けるなら、それでよい」というのは誰の根本にもあると思う。定義の問題はさておき、音が気に入ったのであれば、「それはそれ!これはこれ!」ということにしておけばよいだろう。

なお、PCMハイレゾ録音でPCMハイレゾマスターでPCMハイレゾで配信されている音源でも、ミックスやマスタリングは普通に一度アナログに出してアナログのミキサーやアウトボード(エフェクター)で処理されている場合も少なからずある。例えばテッド・ジェンセン氏らを擁するトップクラスのマスタリングスタジオ、スターリング・サウンドはそのスタイルでのマスタリングが多いようだ。

▼DSD録音からのPCM編集

最後のマスタリングにDSDを使うのとは逆に最初の録音をDSDで行い、その時点でDSDの「〜感」を得るという手法もある。録音素材はその後PCMにデジタル to デジタルで変換され、編集などを経て完成される。順番が違えば効果の出方も少し異なるだろうが、DSDの感触とPCMの編集性を共に得るためのハイブリッド制作スタイルというところはDSDマスタリングと共通する。

さて代表的な「DSDが使える使われている場面」をいくつか挙げてみたが、実はこれら、現代において「アナログテープが使える・使われている場面」と重なっている。「編集ほとんどできなくて不便だけれどあの音の感触はほしい…」、DSDとアナログテープには、一部のミュージシャンやエンジニアにそう思わせるだけの魅力があるようだ。

次ページ続いては我々、DSDを再生する側の環境について。DSDのUSB伝送〜DoP〜

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