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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第117回】DSDとは何か? 原理や音の特徴、おすすめソフトまでまるごと紹介

2015/03/06 高橋 敦
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■おすすめDSD制作作品

では最後に、僕が個人的に選出した「DSDな名盤」をいくつか紹介してみよう。DSD制作作品に興味を持ってくれた方はチェックしてみてほしい。

▼Hoff Ensemble「Quiet Winter Night」

ノルウェーの教会にてその響きを生かして録音された何とも幻想的な作品。人の背よりも少し高い位置に周囲を見回すように複数のマイクを立て、その周りを各演奏者が囲むマイクセッティング。その音色や空間の浮遊感や美しさは近年のデヴィッド・ギルモア氏(ピンク・フロイド)の音にも通じるものを感じさせる。

録音時のフォーマットはPCM(DXD)の352.8kHz/24bit。それがDSDの2.8MHzと5.6MHz、PCMの96kHz/24bitと192kHz/24bit、サラウンドにBDオーディオと多様なフォーマットに落とし込まれて配信・販売されている。フォーマットごとの違いを感じ取れるサンプルとしても有効な音源だ。


▼Mathias Landaeus Trio「Opening」

DSD 5.6MHzでワンポイント、各楽器に向けてではなく一箇所から彼ら全体を把握するようにマイクを立てたセッティングで録音されたジャズのピアノトリオ作品。今回紹介する中では唯一最初から最後までずっとDSDで制作された作品…というかほぼ「録って出し(無加工)」と思われる。こちらもDSD 2.8MHzと5.6MHzの他、PCMの176.4kHz/24bitでも配信されている。


▼上原ひろみ「ALIVE」

現代的というかアグレッシブでプログレッシブな演奏スタイルのピアノトリオの最新作。オーディオ的にはドラムスの音が、太鼓もシンバルも極度によい。前述の二作が一箇所から全体を捉えるオフマイク録音であるのに対して、こちらは楽器それぞれの直近にもマイクを置くオンマイクも用いて、オフマイクも合わせてそれらを配合してバランスを整えるマルチマイク録音だというのもポイント。オンマイク成分の接写的な描き込みも冴える。こちらは録音にはDSDシステムを用いていることがCDのライナーノーツに記されているが、配信はPCM 96kHz/24bit。どの段階でPCMに変換されているのかは不明。


▼相対性理論「TOWN AGE」

ポップスのバンドサウンドとして挑戦的でありつつ懐かしくもある作品。以前と比べて音にウェットな感触も備えるようになり、その粒子感のようなものも堪能できる。まあそれよりも何よりも、やくしまるえつこさんの声質、それを精緻にコントロールする歌を堪能してしまうのだが。こちらも普通にマルチマイク録音。録音は96kHz/32bit。ミックスはDAW内での96kHz/32bitでの処理とそこからアナログで出してのアウトボードでの処理を併用し、DSDに落としているとのことだ。販売されているのはCDとアナログ盤「νTOWN AGE」のみ。ハイレゾ配信も期待したい。


■魔法

音はアナログの現象であり、録音の最初の段階はそのアナログの現象をいかに忠実にアナログの電気信号に変換するかであり、そしてデジタル音声はそのアナログ信号をいかに忠実にデジタルで記録するかということで進化してきている。

ならばその究極目標、到達点は、アナログだろうがデジタルだろうがPCMだろうがDSDだろうが「そもそも実際の音そのもの」であり、技術的に行き着くところまで行き着けばどれもが同じ音に到達し、音質面での違いはなくなるはずだ。ちょっと違うが、「極限まで進化した科学は魔法と見分けがつかない」というのに似ているかもしれない。

しかし現時点の技術では、アナログとデジタル、PCMとDSDには音の違いがあると認識され、使い分けられている。しかしその違いが音楽表現の幅につながっているのだから、それはそれで悪くない。むしろだからこそ、それらは音楽制作における「魔法」になってくれているのかもしれない。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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