公開日 2025/04/15 06:35

「最高級のドルビーアトモス環境でも満足できる音を」。Netflixアニメ「Tokyo Override」制作セミナーが開催

バイクアクションの“疾走感あるサウンド”が魅力
筑井真奈
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ドルビーアトモスの第一人者によるアニメ音楽の制作セミナー

ドルビーアトモスによる音楽制作の第一人者である古賀健一さんと、レコーディングエンジニア・長谷川巧さんによる、Netflixアニメ「Tokyo Override」のサウンド制作の裏側を語るセミナーが、4月8日に開催された。

Netflixのアニメ「Tokyo Override」の音楽制作の裏側を語るセミナーが開催

このセミナーは、デザインからIT、音楽や映像制作まで幅広い専門分野を教える専門学校「日本工学院 蒲田キャンパス」にて開催された。蒲田キャンパスでは、この4月にノイマンのスピーカーをマルチチャンネルで配置した「イマーシブセミナールーム」を新設。ステレオの環境も用意されており、セミナーや授業はもちろん、学生の卒業制作などに活用できるスタジオとなっている。

「Tokyo Override」は深田祐輔とヴィーラパトラ・ジナナヴィン監督、Netflix制作によるオリジナルアニメで、AIが日常生活に溶け込んだ100年後の東京が舞台。都市住民は“タグ”によって管理され、その利便性を享受できるが、一方で“タグなし”は排除される。そんな都市の中でしたたかに生きるカイとその仲間たちを描いたクライム・アクション作品。ヤマハやホンダのバイクデザインチームも協力した本格的なバイクアクションも大きな魅力で、ドルビーアトモスならではの“疾走感あふれる音作り”も大きなこだわりとなっている。

Netflixオリジナルアニメ「Override」は全6話で配信中

このセミナーは、本作の音楽制作を担当した古賀さんと長谷川さんが、その制作の裏話やアトモス制作ならではの難しさやポイントなどを解説するもの。最先端のアトモス再生環境で、音を確認しながら制作のこだわりを聞くことができるという貴重な企画となっており、現役のレコーディングエンジニアからポストプロダクション(ポスプロ)担当者はもちろん、未来のエンジニアを志す学生も多く参加し、立体音響に関する最先端の知見に深く耳を傾けていた。

古賀健一さんと長谷川巧さんの2人で主題歌や劇伴など、作品の音楽周りを手掛けている

第一部では、「Tokyo Override」の劇伴音楽の作り方について、ポスプロから遡る形で解説がなされた。長谷川さんがメインのレコーディングエンジニア、古賀さんがドルビーアトモス制作にあたってのアドバイス、といった役割分担で進められたそうだが、古賀さんも「エンジニアは、特に独立して以降はひとりで仕事をすることが多いので、こんなふうにコラボして仕事をすることで、新しい発見も多くありましたし、技を盗むこともできますね」と新鮮な刺激を受けた様子。

ドルビーアトモス制作のコンサルタントとして参加した古賀さん

劇伴音楽では、音楽を納品して終わり、ではなく、そのあとにセリフや効果音を加え、全体のバランスを整えていく作業(ダビングステージ)が控えている。古賀さんと長谷川さんもダビングステージまで立ち合い(これは劇伴音楽では珍しいことだそう)、ドルビーアトモス作品としてのクオリティを追求していったという。音楽制作チームが、一丸となってクオリティを高めていく熱いチームワークも感じられた。

セミナーでは、3分間ほどの第一話冒頭のシーンの映像をみながら、ProTools上でどのように音が配置されているかを確認。サブウーファーも含め、7.1.4chの全チャンネルにしっかりと音を配置し、未来の東京生活を、音の面からもリアリティ豊かに描きだしていることを視覚的にも確認できるのは興味深い。さらっと流してしまいそうなシーンでも、実はここにこんな音が入っていたのか、こんな動きがあったのか、と新鮮な発見も得られる。

Protools上で、音の動きを視覚的に確認しながら聴くことができるのは非常に面白い

「最高級の環境を持っている人にも満足してほしい」

続いての第二部では、主に音楽のレコーディング現場での実際の作業について披露された。今回はストリングスも加えた大掛かりな編成となっており、ドルビーアトモスとしての完成度をいかに高めていくかということが大きな課題となったという。

ストリングスについては、ハンガリー・ブダペストのスタジオで収録された音と、日本のAVACOスタジオで録られた音の両方が使われている。古賀さんも、「ブダペストの音は、正直そこまで高いマイクを使っているわけではないのですが、クオリティが素晴らしくてとてもショックを受けました。ですから、その音に負けないよう、どう音を作っていくかは大きなプレッシャーでした」と振り返る。

AVACOスタジオでの収録の様子

高さ方向の音を収録するために、DPAの「4006A」やゼンハイザーのAMBEOマイクなどを設置。マイクの設置方法については、古賀さんと長谷川さんの間で意見が割れた点もあったそうだが、良質なドルビーアトモスサウンドを作りたい、という共通の目的に向けて、お互いをリスペクトしながら音楽を作り上げていく雰囲気が伝わってきた。

古賀さんも、Netflixでの配信となるため、視聴者がどんな環境で見てくれているのかわからない、と前置きしつつ、「ホームオーディオでは、何百万円もかけて素晴らしい再生システムを構築されている方も多くいらっしゃいます。そういう方に、“なんだ全然スピーカー使ってないじゃん”と言われたくない、最高級の環境をお持ちの方にも満足していただけるような音作りを目指しました」と胸を張る。

長谷川さんも、今回のコラボレーションを通じて、「一人で作品づくりをしても、自分の中の当たり前を超えることができません。ダビングステージの現場でも、効果音の方に意見を言ってもらうことで、今までにないものを作ることができました」と大きな手応えを語ってくれた。

「Tokyo Override」はNetflixにて全6話にて配信中。こだわりのドルビーアトモス作品となっているので、ぜひそのリアリティあるサウンドを体験してほしい。

Netflixシリーズ「Tokyo Override」2024年11月21日(木)より世界独占配信

なお、Netflix作品をドルビーアトモスで再生するためには、最上位の「プレミアムプラン」(月額2,290円/税込)への加入が必要となる。古賀さんと長谷川さんが音にもこだわりぬいたドルビーアトモスによるアニメ作品、ぜひベストな環境で体験してほしい。

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