公開日 2016/03/25 17:32

11.2MHz対応も視野? キーマンたちが語るDSDストリーミング配信「PrimeSeat」実現の背景と今後の展望

<山本敦のAV進化論 第87回>試聴レビューもお届け

「昨年の4月にベルリンフィルの演奏会を、ベルリンフィルのホールからライブ配信する公開実験では、5.6MHzと2.8MHzのストリーミングを同時に送信していました。配信ビットレートはオーバーヘッドを含めると約20Mbpsを安定して確保できる余力をみておかなければならなかったため、ベルリンと東京の間に、ロンドンを中継する手法を採りました。

ロンドンと東京間はIIJが自前でバックボーン(大容量のインターネット通信回線網)を敷いていたのですが、ベルリンとロンドンの間にはなかったので、ベルリンフィルの好意により、ホールに小さなサーバーを置かせていただき、実験を行う前から入念にテストを繰り返して、回線速度を安定させるためのポイントをつぶしてきました」(冨米野氏)


冨米野氏の説明によると、ベルリンから東京まで遠距離にあるサーバー間の通信を安定させながら10Mbpsの実効速度を出すために、TCP/IPプロトコルのチューニングを徹底して繰り返してきたという。そのノウハウがPrimeSeatの商用化に活きている。

「チューニングの結果、IIJの自前のバックボーンのみであれば40〜50Mbpsの帯域パフォーマンスは安定して確保できることが見えてきて、今はDSD 5.6MHz/2.8MHzのストリーミングを同時に流すことには問題がないと考えています」(冨米野氏)

バックボーンのネットワークを最適化するだけでなく、エンドユーザーが安定してPrimeSeatのハイレゾ音源を聴ける環境を整えていくことも大事だ。

西尾氏によれば、MPEG-DASHの枠組みの中で、セグメントファイルの大きさやバッファサイズなど、ソフトウェアをチューニングすればユーザーの手元でのリスニング環境も安定化が図れるということが、コルグが繰り返してきた検証によってみえてきたという。


とはいえ、DSD 2.8MHzのデータは配信時のビットレートが約5.6Mbps前後となり、オーバーヘッドのデータ伝送に必要な余幅まで考慮すれば約6〜7Mbps、さらに5.6MHzならその2倍となる12〜13Mbpsの回線スピードが必要になる。

IIJでは実際にPrimeSeatをストレスなく楽しむために必要なインターネット回線の実効通信速度は概ね12Mbps以上と案内しており、さらにADSLやモバイル回線での使用には適していないとしている。

IIJではユーザーからPrimeSeatがスムーズに楽しめないという声を受けるたびに、手を緩めることなくサービスの改善を押し進めているという。

「ユーザーの方々には申し訳ないと思っていますが、サービスを走らせながら鍛えてきた部分もあります。私たちも世界初の試みであるDSDのハイレゾ音楽配信をより良いサービスにしていくために、経験を積みながら少しずつ改善していきたいと考えています」と西尾氏は述べている。

なお、PrimeSeatのようなインターネットを介して大容量のデータ通信を必要とするコンテンツサービスは、サーバーやソフトウェアのパフォーマンスだけに依存しているわけではない。

特にマンションなど集合住宅の場合はひとつの共有回線が各戸に分けて引き込まれている都合、夜間など各家庭が一斉にインターネットを利用してトラフィックが混雑する時間帯にはどうしても各戸別では実効速度が落ちる。そのためPrimeSeatの音楽配信が安定して受信できないケースもあり得るということも覚えておきたい。

「IIJとしては、ユーザーの皆様にわかりやすいトラブルシューティングを提供したいと思っています。例えば必要なインターネット回線の速度については下り12Mbps以上の環境を推奨していますが、ユーザーの方々がご自宅の回線スピードを把握できるようにするためのツールやTIPSも今後用意すべきと考えています。様々な使い方に関連する情報提供には今後も力を入れていきます」(冨米野氏)

■PrimeSeatの番組の特徴

現在PrimeSeatで製作・公開されているコンテンツには、生放送の「ライブ」のほかに、ユーザーが好きな時間に試聴できる「オンデマンド」、クラシック系の良質なインターネットラジオ番組を製作・配信するステーションOTTAVAとの共同製作によるラジオ型配信「PrimeSeat&OTTAVA Presents」がある。

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