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【特別企画】ヒット製品の背景を探る連続企画

マランツ「11シリーズ」大ヒットの舞台裏(1)フラグシップ機に込めた思いとは?

公開日 2013/06/07 12:03 取材・構成/ファイル・ウェブ編集部
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創業60周年記念のエポックメイキングな
プレーヤー「NA-11S1」


前述のとおり快進撃を続ける11シリーズ。そのひとつであるネットワークプレーヤー/USB-DAC「NA-11S1」(2013年2月発売)の存在も忘れてはならない。


USB-DAC/ネットワークオーディオプレーヤー「NA-11S1」¥346,500 マランツ創業60周年を記念して作られた、エポックメイキングなソースプレーヤー
ネットワークプレーヤーとUSB-DAC両方の機能を兼ね備えるほか、192kHz/24bitのFLAC/WAV再生対応、DSD再生機能、AirPlay対応など、求められる機能を網羅した「NA-11S1」。マランツ創業60周年記念モデルという位置付けで、同社としても非常に力が入っていたという。

「NA-11S1」の内部構成

クロック回路は、SA-11S3と同様の超低位相雑音クリスタルを搭載。44.1kHzと48kHzという2つの周波数をもつハイレゾ音楽向けに、クリスタルも2個搭載した

「しかし、このカテゴリでは国内メーカー初の30万円台の製品。事前リサーチでかなり反響があるはずと見ていたものの、実際どのくらい売れるのかは、正直分かりませんでした」と当時の心境を語る高山氏。果たして蓋を開けてみると、発売日前に初月の販売台数が完売。現在も2ヶ月待ちの状態が続くなど、本機も驚異的な売上を達成している。


緑川氏によれば、「NA-11S1」は、「SA-11S3」「PM-11S3」とは全く性質の違う動き方をしたのだという。「昨年5月のミュンヘンのハイエンドショウで情報がオープンになって以来、いつ発売になるんだ、とユーザーのみなさんから多数の問い合わせをいただいていました。試聴機が存在せず、価格すら発表になる前から既に予約注文が入っていた状態でしたね」。

当初の予定よりも遅れての登場となった本機。というのは、開発の初期段階では単純に「SA-11S3」からディスクドライブを取ればよいと考えていたが、開発が進むごとに新たな課題を発見。抜本的な作り直しを行うことを決めたためだったという。

開発を担当した中山氏は「SA-11S3とNA-11S1は、DAコンバーターもアナログ回路も、デジタル周りの回路もそんなに大きく違わないんです。いちばん違うのは『ノイズ対策』。SACDプレーヤーは、ディスクを再生している限りは自己完結型。その製品のなかで全ての処理ができます。ただ、ネットワークプレーヤーは、再生するためには必ず外部機器を繋げなくてはいけない。ノイズや振動対策が取られていないPCやNASと接続し、そこから入ってくるノイズへの対策も重要になってきます。中からも外からも徹底的なノイズ対策が必要だと考え、作り直しを行いました」と説明する。


特にUSB入力から混入するノイズを完全に遮断するという本機の手法は、既存のUSB-DACには例がないもの。PCとUSBケーブルでつないだ状態では、USB入力インターフェースデバイスのグラウンドはメイン基板とシャーシから分離される設計になっているため、PCからノイズが混入する経路は完全に絶たれている。この絶縁技術は「コンプリート・アイソレーション・システム」。名称からも、ノイズ対策に対するマランツの徹底した姿勢と、確固たる自信をうかがうことができるだろう。

「とにかく、徹底的に作り込んだ隙のない製品です。USB-DAC/ネットワークプレーヤー両方の機能を備え、将来的な拡張性も確保。30万円台という価格で、これだけのクオリティの製品を提供できたことに、非常によろこびを感じています」と、緑川氏も自信を見せた。


◇  ◇  ◇



「SA-11S3」「PM-11S3」、そして「NA-11S1」のヒットの実情を聞いた。その理由を結論づけるのはまだ早いが、「良いものを作ろうという徹底的なこだわり」と、「それが体現された高クオリティな製品」にあふれた製品であることが、取材を通して深く理解できた。


「営業という立場からしても、11シリーズは特別な存在です」と高山氏は目を輝かせながら語る。「今でも忘れられないのは、営業担当にSA-11S3が初披露されたときのこと。試聴室に入って、出てくる時の顔が、全然違うんですよ。みんな興奮していました。販売店の方々に聴いていただいても、手応えがこれまでより抜群に良かった。開発チームが徹底的に『音』にこだわって作ったので、営業的には少し苦労する部分 、例えばDACが32bitでなく24bitだったりといったこともあったのは事実です。でもその分自信を持ってお勧めできましたし、こういった、スペックに媚びない製品が世の中に受け入れてもらえたことは、マランツの製品をご紹介している者として、心から嬉しかった。そして、こういうこだわりを詰め込んだ製品を、このまま作り続けることができるんだなと感じさせてもらいました」。

11シリーズがこれからも高い支持を集めることは間違いないだろう。現在も在庫欠品状態が続いているものの、今後の注文分からは、ある程度供給が潤沢になる見込みだという。

第1回はマランツの関係者に、同社内から見たヒットの背景を尋ねた。次回はオーディオ/AVショップやオーディオ評論家を直撃取材。11シリーズの売れ行きやクオリティ、ユーザーからの反響などについて探っていく。今回お伝えした“内部からの目線”に、評論家やショップの“外部からの目線”が加わることで、11シリーズヒットの実情がより明らかになることだろう。


(Photo:君嶋 寛慶)

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