映画館の音、オープンリールの音。“曇りなき正確な音”を目指す「BWV 2026サウンドツアー」をレポート
オープンリールテープも楽しめる試聴イベント
イースタンサウンドファクトリーでは、今年10月から12月にかけて、全国5ヵ所でBWV製品を中心とした試聴会「BWV 2026 サウンドツアー」を開催している。 その第一回が10月2日(金)〜3日(土)に、東京・千駄ヶ谷のテリトリー・ギャラリーで開催されたので、気になるイベントの詳細をお届けしたい。
BWVは、 故・坂本龍一さんが音の監修を務めた109シネマズプレミアム新宿のプレミアムサウンドシアター「SAION」に採用されたことでも話題を集めている日本のスピーカーブランドである。オーディオの輸入商社であるイースタンサウンドファクトリーが立ち上げた自社ブランドだ。
「BWV 2026 サウンドツアー」では、BWVのHome/Studioシリーズスピーカー「H-5」を使用したデモンストレーションや、REVOX製ステレオテープレコーダー「B77 MKIII」を使ったオープンリールテープのコンサートが楽しめる、興味深い内容だ。
劇場用スピーカーの思想を受け継ぐHome/Studioシリーズ
会場正面にはBWVのフラグシップスピーカー「H-5」が設置され、CDやハイレゾファイル、オープンリールテープが体験できるようになっていた。H-5は109シネマズプレミアム新宿の劇場内で採用されているCinemaシリーズ「T-5」の思想を受け継ぐ大型3ウェイスピーカーだ。
Home/Studioシリーズは、4インチ同軸ユニットを搭載した2ウェイモデル「H-1」、そのH-1に6インチウーファーを加えた3ウェイの「H-2」、0.7インチトゥイーターをふたつ搭載した3ウェイ「H-3」、そしてコンプレッションドライバー+ホーンを備えた3ウェイフロア型のH-5というラインナップだ。
さらに15インチウーファーを搭載したサブウーファー「S-5」も準備される(H-5の弟機となる『H-7』も登場予定)。
BWVスピーカーが目指す音の方向性とは
試聴会の冒頭で、今回のイベントの狙いや各製品の特長について、代表取締役 佐藤博康氏が紹介してくれた。
「BWVは弊社が展開しているブランドで、現在4種類のスピーカーとサブウーファーをラインナップしています。シリーズの特長はキャビネットにMDF材料を使って、その上にタモの突板を貼っています。突板と言ってもかなり無垢に近い状態の厚いものです。タモ材の木目が潰れないようにウレタン塗装を施しています。
今日お聴きいただくH-5は、15インチ大型ウーファーと10インチミッドレンジ、1.4インチのガラス振動板コンプレッションドライバー+ホーンが搭載されています。このモデルは専用のクロスオーバーネットワークを使っていて、ウーファーとミッドレンジを500Hz、ミッドレンジとハイを2.5kHzでつないでいます。エンクロージャーは他と同じく、MDFにタモの突板を貼っています」(佐藤氏)
坂本龍一さんが理想とする『曇りなき正確な音』
このH-5を含めたBWVのスピーカーの音の方向性について、坂本龍一さんからの影響があったと佐藤氏は語る。
「H-5のルーツについて少し喋らせていただきます。これは私たちにとってはすごく大事なことです。2023年4月に東急レクリエーションが運営している109シネマズプレミアム新宿というシネマコンプレックスがオープンしました。その劇場について音の監修を坂本龍一さんが担当されました。これは坂本さんと私たちで行った最後のお仕事で、プロジェクト自体が始まったのは2019〜2020年頃でした。
坂本さんが理想とする『曇りなき正確な音』を提供するサウンドシステムを作って欲しいというのが我々に課せられた命題でした。スピーカーを作るスタッフも、建築やライティングに関わる人たちがみんなこの目標に向けて邁進しました。
そこには3つのテーマがありました。まずルームアコースティクスで、音響的な内装建築をしっかりしてほしいという依頼でした。これは劇場さんが立派な環境を仕上げてくれました。
もうひとつがパワーです。この点については、10年以上坂本さんと一緒に仕事をしていましたが、初めて要求があったんです。というのも、劇場の大きな空間で皆さんに満足してもらう音を再現するには、それだけの電源容量は必要で、さらに音質のために波形が美しい電源が求められます。ここについても東急レクリエーションさんが建物自体でいい環境を作ってくれました。
ケーブルもポイントでした。特に、長く引き回すスピーカーケーブルには気をつけてくださいと言われました。そこで色々なテーブルメーカーの製品を購入し、関係者を集めてブラインドテストを実施して、パワー感があって綺麗に電流が流れるケーブルとは何だろうと研究しました。その結果生まれたのがH-5の付属ケーブルです。
映画館の建物ができてインストールが終わったら、最終的に音の調整作業を行います。109シネマズプレミアム新宿では、坂本さんからわれわれにチューニングして欲しいという依頼をいただきました。しかし、坂本さんが納得するようなチューニングが今の自分にできるかという不安があって、なかなか取りかかれませんでした。
そんな中、坂本さんが亡くなる前年の11月に、彼のアパートのオーディオ装置が壊れたので修理して欲しいという連絡がありました。留守中にお邪魔し、修理が終わったので帰ろうとしたら、本人が入ってきたんです。そこで、ダイニングテーブルに座って近況をお話しました。
私がiPhoneで録音した水琴窟の音を聴いていただいたり、坂本さんがお好きという夏目漱石の『夢十夜』のお話をして帰りました。その後に『夢十夜』を読んでみたんです。すると感覚が急に冴えてきてチューニングをしてみようという気持ちになりました。
ではここで、109シネマズプレミアム新宿のチューニングに使った音源をH-5で聴いていただきたいと思います」(佐藤氏)
そこで再生されたのは、映画『レヴェナント:蘇えりし者』のサントラレコードや坂本龍一さんのアルバム「async」のハイレゾマスター(96kHz/24bit)だった。
全帯域に渡って表現力が豊かで、情報量も多い
ちなみにイベントの再生環境は、スピーカーがBWVのH-5で、Linea ResearchのDSP搭載パワーアンプ「48M20」でユニットのタイムアライメントを調整、その上で内蔵の8chパワーアンプ(今回はL/R用に6chを使用)で駆動している。マルチドライブながら、48M20とH-5の間は専用ケーブル1本だけというシンプルさだ。
その他はレコードプレーヤーがREVOX「T77 Turntable」、CDプレーヤーはaudiolab「9000CDT」、プリアンプが同「9000Q」という構成。アナログ接続はバランスケーブルが使われている。
「レヴェナント〜」は低域にもゆとりのある、朗々とした再現が楽しめるし、「async」はピアノの透明感、ダイナミックレンジの広さがよくわかる、明瞭にして力強いサウンドだ。
会場のテリトリー・ギャラリーは防音・調音仕様にはなっていないはずだが、嫌な定在波や低域のだぶつきもなく、細かな音までていねいに再現されている。H-5の全帯域にわたる表現力の高さ、情報量の豊かさがよくわかる。
ここから「Cinema」「Book」「Popular Music」「Human Art」の4つのテーマでおすすめコンテンツが再生された。
順番に映画「サクリファイス」で使われたバッハ「マタイ受難曲」から「憐れみ給え、わが神よ」、ドビュッシーが、マラルメの詩をモチーフにした「牧神の午後への前奏曲」、ロバータ・フラックが歌う「明日に架ける橋」、アンネ・ゾフィー・フォン・オッターによるマーラー「無き子を忍ぶ歌」というもので、それぞれについての佐藤氏の思いが語られたこともあり、来場者はみんな楽曲の新たな一面に触れることができたようだ。もちろんH-5によるサウンドも鮮烈で、全員その音に耳を傾けていた。
REVOX「B77 MKIII」によるテープコンサート
休憩を挟んで、REVOX「B77 MKIII」によるテープコンサートがスタート。REVOXのテープレコーダーは、1967年に登場した「A77」を筆頭に、世界中の音楽愛好家や放送・録音の現場で高く評価されてきた。B77 MKIIIは、現代の技術を用いて蘇らせた最新モデルだ。
「『async』には、EXPO'70で披露された『バシェ音響彫刻』で演奏・録音された素材も使われています。その復刻プロジェクトに寄せたメッセージで坂本さんは『それらの録音はぼくの宝だ』とおっしゃっていました。僕もいろんな音楽を聴いてきましたが、先人が録音してくれたから今こうやって過去の名演奏を楽しめるわけで、本当に録音という技術に感謝します。
そんな録音現場で長く使われていたのがオープンリールデッキで、B77 MKIIIはその最新モデルと言っていいでしょう。今、録音機を作るのは、本当に大変なことなんです。昔は部品も簡単に購入できましたが、現在はモーターからヘッドまで調達できないものの集合体です。B77 MKIIIでは、REVOXは部品から作っています。そのため、お値段も350万円以上という高額な商品になっています。
再生用のテープも、レーベルが持っているマスターテープをお借りして、リール to リールでコピーしています。その作業や権利関係等を含めると、こちらもかなり高価になってしまいました。でも、そんなテープが持っている魅力、素晴らしさを知ってもらいたいと思い、このような機会を設けてマスターの力を皆さんに体感してもらえればいいなと思っています」(佐藤氏)
ここから、グレン・グールドの「バッハ:イタリア協奏曲 パルティータ第1番&第2番」とバーデン・パウエルの「Images On Guitar」が全編通して再生された。グールドが奏でるピアノの旋律も美しいし、低域の力強さにも驚く。バーデンのギターとジャニーニ・ディ・ヴァレイーニのコーラスにも引き込まれてしまい、ふと気がつくと足でリズムを刻んでいる。それくらい心地いい音楽体験をさせてもらった。
『曇りなき正確な音』が聴かせる、最高の音楽体験
イースタンサウンドファクトリーでは、「BWV 2026 サウンドツアー」を継続して実施中で、スケジュールは以下の通り。詳細は同社サイトに掲載されているので、お近くの方はぜひ足を運んでいただきたい。『曇りなき正確な音』が聴かせる、最高の音楽体験ができるはずだ。
「BWV 2026 サウンドツアー」のスケジュール
●11月7日/8日 SLOW ART CENTER NAGOYA|名古屋
●11月14日/15日 Gallery Genuine|大阪
●11月22日/23日 テリトリー・ギャラリー|東京
●11月28日/29日 DENDE|石川
●12月19日/20日 Ryugu Art Studio|宮城
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