熱狂のジャズパフォーマンスを最高の音響で届ける。「JAZZ NOT ONLY JAZZ II」“高音質”ライブの舞台裏
いま日本でもっとも多忙なドラマー・石若駿による「The Shun Ishiwaka Septet」と、豪華ゲストによる一夜限りの饗宴「JAZZ NOT ONLY JAZZ II」が、9月18日(木)に東京国際フォーラムにて開催された。
昨年6月に開催された第1回目が大きな話題を集めたことを受け、今年は会場もさらに大きく、さらに海外からロバート・グラスパーも参戦しさらにパワーアップしたJAZZ NOT ONLY JAZZ II。今年の豪華ゲストはロバート・グラスパーのほか、アイナ・ジ・エンド、岡村靖幸、中村佳穂、KID FRESINO、そして椎名林檎という6人の個性派アーティストである。
豪華ゲストもさることながら、このライブは「音にこだわる」こともひとつ大きなテーマとしている。昨年の模様はイマーシブフォーマットで録音、Live Extremeでの高音質配信や、ドルビーアトモスによる劇場上映など、さまざまに展開してきた。
今年は、さらに「ライブ空間での高音質」にもこだわっており、d&b audiotechnik社の「d&b Soundscape」という新技術を投入。d&b audiotechnikはドイツの音響機器メーカーで、コンサートホールにおけるPA機材(スピーカー、アンプ等)をメインに手掛けている。
d&b Soundscapeは、コンサートホールでも、より「イマーシブな」(没入感のある)体験をもたらすための音響技術であり、特に「楽器の定位」を正しく再現することにこだわっているという。
そう書くと当たり前のことと思えるかもしれないが、実は、定位の再現は特に大型ホールではなかなか難しい。小規模なライブハウスならば、楽器のある場所から、生音がきちんと客席まで届く。しかし、大型ホールではPAを駆使して、いわゆるラインアレイと言われるスピーカーを用いて遠くまで音を飛ばす必要がある。
その結果、例えば中央の良席ならば左右からバランスよく音が聴こえても、左右のスピーカー正面などでは、どうしてもスピーカーからの出音に耳がいってしまう。それが違和感となり、ライブへの没入感を妨げてしまうのではないか。d&b Soundscapeはそのような違和感を解決し、客席のどの位置ににおいても、ステージ上のパフォーマンスが、そのままの形で客席まで届くようにするための技術だという。それを実現するためには、同社の非常に高度なDSPによる演算能力がその背景にあるという。
「これはジャズですから。ジャズのライブハウスのような雰囲気をそのまま再現したかったんです」と語るのは、d&b audiotechnikジャパンの土井照三さん。札幌で毎年夏に開催される「サッポロ・シティ・ジャズ」でもこのソリューションを採用し、そのクオリティに大きな手応えを得ていたという。だがサッポロ・シティ・ジャズはもっと小さなハコで、約5000人を収容できる国際フォーラムのホールAとはまた規模が違う。
PAシステムの設置においては、ホールのサイズはもちろん、設置できる位置や高さ、またラインアレイスピーカーは天井から吊ることが多いため、吊ることができる「重量」などにも配慮しながら、最適なシステムデザインを行う。ちなみにライブのPAシステムはアンプ入りのアクティブスピーカーが多いのかと思っていたが、「天井から吊ることを考えると軽いほうがよいので、基本はパッシブスピーカーで、地上にアンプを置くことが多いです」とのこと。なるほど。
写真では少し分かりにくいが、ステージ上方に、上から吊り下がっている縦長のスピーカーが、今回のd&b Soundscapeのために導入されたスピーカーとなる。メインスピーカーが10基×5ラインの50基、それに左右にサブウーファーを8基。これがホール全体に音を届けるラインアレイスピーカーとなる。さらに、1Fの正面エリアに音を届けるために、ステージ上に7基のスピーカーを配置。d&b Soundscapeとしても、過去最大規模のシステム構築となったそうだ。
さてその音である。ライブパフォーマンスについては、SNSなどで多くのファンの熱狂のコメントが見られるのでそちらにお任せするとして、記者が驚いたのが、それぞれの楽器の音がしっかり分離されて聴こえてくること。どうしても大型ホールでは音が塊のように押し寄せてきて(それがライブの醍醐味でもあるのだけれど)、ひとつひとつの楽器についてはしっかり判別できないことも多い。
だが、今回のコンサートでは、セプテットのパフォーマンスが、至近距離でライブをみているかのようなリアリティで迫ってきた。特に、今回一度は参加が発表されたものの、体調不良で不参加となってしまった日野皓正へのリスペクトを込めて演じた「Still Be bop」。
The Shun Ishiwaka Septetは、ステージ上左からキーボード、ギター、ギター、トランペット、サックス、ベース、そして石若のドラムと並んでいるが、それぞれの楽器の位置関係が明瞭にわかることで、彼らの息遣いや掛け合いの妙などが非常によく見えてくる。今回ステージから見て左側の座席で鑑賞していたが、“一味違う”リアリティの密度感をたっぷり味わうことができた。
また、中村佳穂は、即興で石若との思い出を言葉にのせるピアノの弾き語りを披露。ピアノの粒だち感や伸びやかな歌声も相まって、すっかり“佳穂ワールド”に飲み込まれてしまう。こういった鮮やかなパフォーマンスも、良質な音で届けられることでさらに真に迫ってくる。
この公演の模様は、11月16日(日)にWOWOWにて放送・配信が決定している。また、11月23日(日)からは、Live Extremeによる、ドルビーアトモス・ハイレゾフォーマットによる高音質配信も行われる予定だ。
昨年に引き続き、WOWOWの音声収録チームによるこだわりの録音についても取材させてもらったので、そちらについても追ってレポートをお届けしよう。
ライブ写真:太田好治
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