故行方洋一とともに時代を築いたレコーディングエンジニア達がその軌跡振り返る

日本の音楽産業を支えた録音エンジニア「行方洋一の軌跡(奇蹟)を楽しむ会」開催レポート

公開日 2023/12/08 19:35 季刊・アナログ編集部・野間
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
シンタックスジャパンは、「音職人 行方洋一の軌跡(奇蹟)を楽しむ会」をホテルニューオータニ幕張にて11月16日に開催した。

行方洋一氏(会のスライドより)

1960年代から多くの名録音を残し、日本の音楽産業を支えた行方洋一氏は、2022年5月4日に逝去。

行方氏と仲間たちが会える機会が、毎年InterBEEの会場でもあったことから、本年度のInterBEEの会場近くにて大勢が集まり、行方氏を偲んだ。

InterBeeが行われた幕張メッセとと隣り合うホテルニューオータニ幕張で開催された

レコーディング業界から大勢が集まった

プレゼンターとして、レコーディングエンジニア、ミキシングエンジニアの吉田保氏、下川晴彦氏、小林悟氏、関口倫正氏という、かつての“行方洋一坊や連”が登壇。行方氏と一緒に手掛けてきた作品を再生しながら、氏の軌跡を語り合った。

吉田 保氏は、東芝音楽工業録音部時代、行方洋一氏と共作した作品について語った。初共作は「ウルトラマンの歌」。実験的なスタジオ録音もチャレンジしており、1975年のプロ・ユースシリーズ「ツァラトストラはかく語りき」は、旧モウリスタジオの1スタに読売交響楽団が、2スタに「石川晶とカウント・バッファローズ」が入り、同録した作品。1スタは行方氏が、2スタは吉田氏が担当して録音したという。

吉田 保氏

行方洋一氏と吉田 保氏のコンビで録音した伝説の作品『ツァラトストラはかく語りき』

下川晴彦氏は、行方氏が録音の場面で効果音さえも自分で考案したことを語った。また、深町 純『イントロデューシング』より「ノアの箱舟 NOAH'S ARK」がオーディオフェアで爆音で再生され、オーディオファンを虜にした話を振り返った。


下川晴彦氏

1975年のオーディオフェアで話題になった深町 純『イントロデューシング』の「ノアの箱舟」


行方氏は東芝レコードの社員だったが、他社の録音も多く手掛けていた
行方氏は蒸気機関車のフィールドワーク録音も多く手掛けたが、実地で一緒に録音をしていた小林 悟氏は、当時の行方氏が「お召列車」(天皇家が乗車する列車)の機関士室での録音を実現させた話などを語った。


小林 悟氏

お召列車の音の録音も手掛けた。なぜそんな録音ができたのだろうか?
作曲家の筒美京平氏作品の録音を多く手掛け、ヒット作を録音したことでも知られる行方氏。その二人と親交の深かった関口倫正氏は、行方氏が楽曲の中のある部分の音を意図的に大きくしていたことを、「しゃくり」と呼び、実際の作品を再生しながら解説。


関口倫正氏

1972年録音。小林麻美「初恋のメロディー」の「しゃくり」を解説
音の再生に使用したメインのスピーカーは、ジェネレックのモニター・システム8381Aなど。音像が明確に定位するマスターサウンドを堪能することができた。


録音物の再生はジェネレックのモニター・システム8381Aなどを使用。なお、同会場ではInterBEE期間中は8351A等The Onesシリーズと組み合わせたイマーシブ環境のデモンストレーションが行われていた
レコーディングエンジニア、行方洋一氏がいかにチャレンジングに思い切ったことをやってきたか、いかに遊び心のある魅力のある人物だったかがうかがい知れる。

また、行方氏に続いて、多くのエンジニアが育ち、活躍をし、日本の音楽産業を成長させてきたことが分かる。改めて、行方洋一氏の冥福をお祈りしたい。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE