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Bluetoothのフラグシップモデル

オーディオテクニカ「ATH-DSR5BT」開発者に聞く “世界初のフルデジタルワイヤレスイヤホン” 誕生の秘密

2018/03/23 聞き手:海上忍 構成:編集部
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デジタル信号をアナログ変換せず、直接ドライバーまで直結する「ピュア・デジタル・ドライブ」を搭載した初のフルデジタルBluetoothイヤホン、オーディオテクニカ「ATH-DSR5BT」。今回、ATH-DSR5BTの企画・開発に携わった三氏にお話を伺った。

インタビューに応じていただいたのは、オーディオテクニカ製品の音決めに深く関わってきた、技術本部 コンシューマープロダクツ開発部 ゼネラルマネージャー 小澤博道氏、製品企画のマーケティング本部 企画部 コンシューマー企画課 ポータブルリスニンググループ主務 國分裕昭氏、そして内部設計の知識が深い技術本部 コンシューマープロダクツ開発部 エレクトロニクス開発課 高石光輝氏の三氏だ。

左から小澤氏、國分氏、高石氏

ATH-DSR5BTは、ヘッドホンタイプのピュア・デジタル・ドライブ搭載機種「ATH-DSR9BT」「ATH-DSR7BT」に続く、イヤホンタイプのピュア・デジタル・ドライブ搭載機種(岩井喬氏によるレビューはこちら)。Bluetoothイヤホンとして初めてフルデジタル方式を採用した上、2基のダイナミックドライバーを向かい合わせに配置し、互いに押し引きするプッシュプル方式まで組み合わせた意欲的なモデルだ。そこに込められた思想、こだわりとは ーー?

ATH-DSR5BT(予想実売価格¥40,000前後)

■「ピュア・デジタル・ドライブ」と新チップ「AT1962」の威力

― ATH-DSR5BTの根幹の技術が「ピュア・デジタル・ドライブ」です。まずは基本的なところから、フルデジタル方式の利点についてあらためて教えてください。

高石氏:「ピュア・デジタル・ドライブ」は、ドライバーまで直接デジタル音声信号を送り込み、ドライバーを独自の方式で疎密波駆動するフルデジタル技術です。余分なD/A変換、増幅を挟まないことでデータの変換ロスやノイズの混入を防ぎ、雑味のない原音に忠実な出音を実現できます。

ピュア・デジタル・ドライブでは、D/A変換をせずドライバーまで直接デジタル信号を伝送する

デジタル信号でどうやってドライバーを動かすのか、と疑問に思われる方は、ボートに乗ってオールを漕ぐ姿に喩えて考えていただくと分かりやすいかと思います。アナログはオール自体の大きさ、漕ぐ幅(=信号の大小)を変えることでボートの動き(=振動板の動き)をコントロールします。一方で0と1のデジタル信号でドライバーを駆動するというのは、オールの大きさ、漕ぐ幅が一定という状態です。そこでボートの動きを変えたければ、漕ぐ回数(=信号の量)を増やすのです。

― ところで、ATH-DSR5BTの開発がスタートしたのはいつ頃でしょう?

小澤氏:先に発売した、ヘッドホンタイプの「ATH-DSR9BT」や「ATH-DSR7BT」のころから構想はありましたが、本格的に開発が始まったのは昨年の11月です。ATH-DSR9BT等とは別個の企画ではありますが、技術やノウハウは受け継がれています。

高石氏:ピュア・デジタル・ドライブを搭載するインナーイヤー型は、ATH-DSR9BTの時点では、振動板と鼓膜が近いためデジタルノイズが耳に付きやすかった事や、消費電力などの問題で実現できませんでした。新たなD/Dオーディオコンバーターチップ「AT1962」が完成し、初めて開発をスタートできました。ATH-DSR5BTは、AT1962あっての製品とも言えます。

ケースに収められた「AT1962」のサンプル

國分氏:AT1962は以前ATH-DSR9BTで使っていたチップの後継です。インナーイヤー製品に搭載するため、消費電力、デジタルノイズを改善しています。消費電力は再生コーデックにもよりますが、従来チップに比べおおよそ10〜15%ほど低減しています。また「バーチャルコイルテクノロジー」を搭載しているのも特徴です。

高石氏:ATH-DSR9BTでは、左右のボイスコイルに4本の線を1本に撚った4芯構造の「ショートボイスコイル」を採用していましたが、ATH-DSR5BTではボイスコイルは1芯ながら、チップのソフトウェア制御によって4芯ボイスコイルと同等の表現力を得られる。それが「バーチャルコイルテクノロジー」です。

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