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ロングインタビュー

マランツのサウンドマネージャー澤田氏“最後の作品”。「HD-AMP1」開発秘話

公開日 2016/01/21 10:18 構成:編集部 小澤貴信
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Hypexは、通常のスイッチングアンプでは出せない空気感が出せる

−− 私個人の印象ですが、「スイッチングアンプの音が好きだ」というオーディオファンは一定数いるのではないかと思います。

澤田氏 アナログアンプの低域はもたもたして切れ味がない。対してデジタルアンプはスパっとしたスピード感のある低域で、いとも簡単にもたつきがなくなる。低域は圧倒的にデジタルアンプが良い、とおっしゃる方もいるでしょう。

一般的にスイッチングアンプでは出せない音を、Hypexは鳴らすことができると澤田氏は説明する

−− まさにそのような感想をよく伺います。

澤田氏 しかしですね、一般的なデジタルアンプの低域というのは、私に言わせると「出るべきものが出てない」のです。スペックには出てこないですが、“圧力”あるいは“空気感”がないのです。それらがないからこそ、スパッと気持ち良く聴こえるのです。

しかし、ソフトに本来含まれている音は、そんな明快かつ軽快に鳴るものばかりではありません。えげつない音。暗くて、どろりとした音もあるわけです。

一般的なスイッチングアンプはこうした音を表現してくれません。効率良くパワーを生み出してくれますが、アナログアンプのように大容量コンデンサーにエネルギーを貯めてそこから放出するということをしているわけではないので、持続力がありません。圧力も足りません。ただ、何でも軽快にスマートに聴きたいという意図には向いているとも言えます。セッティングが非常にしやすいことも長所です。そういう意味では取り回しが良く現代にマッチしていると思いますよ。

−− ・・・・・・。スイッチングアンプを採用したHD-AMP1には、弱点もあるということなのですね。

いいえ。スイッチングアンプについてさんざん言わせていただきましたが、Hypexは出るのです。空気感や圧力が。HD-AMP1はパワーがそれなりなので限界がありますが、普通のスイッチングアンプではまず出ない音が出せます。だからこそHypexを採用したのです。ただ、もしかすると、こういう音があることを知らない人の方が多いのかもしれません。音楽の本質として表現できなければいけない音なのですが。

B&W「803 D3」と組みあわせてそのサウンドも実際に聴いた

−− 「通常のスイッチングアンプでは出せない音」とは、具体的にどのような音なのでしょう。

でしたら、今日は試聴室でお話させていただいていることですし、実際に聴いてみてください。ベルリオーズの『幻想:第五楽章』をかけます。96kHz/24bitですが、これは本来ストリーミング配信用に録音された音源です。(HD-AMP1にB&W「803 D3」を組み合わせて再生)。オーケストラの背景に聴こえる音がわかりますか?

−− よく分かります。この、ゴーッと唸るような低い音ですね。あまりこうした音を意識したことはありませんでした。これは何の音なのですか。

澤田氏 これはホール自体がオーケストラの演奏に、非常に低い周波数で共鳴している音です。パッケージメディアなどではカットされてしまうような音なのですが、ライブ配信音源ですので、録音されたままで配信されています。この空気感は一般的なスイッチングアンプではまず出ません。空気が動く感じが伝わりましたか?

−− こちらの試聴室では以前、よりハイエンドなシステムでも試聴させていただきましたが、先ほどの“空気の動き”も含めて、今回のHD-AMP1のサウンドには驚かされました。

澤田氏 こうした、大型アンプでもなかなか引き出せない情報量を引き出してくれるところにも、あえてHypexを選んだ理由があるのです。

ーー この小さなアンプで、B&W「803 D3」がここまで鳴らせてしまうものなのですね。

澤田氏 より大型の「802D3」でも問題ないですよ。実はHD-AMP1は、802 D3を音質検討のリファレンスに用いた最初のマランツ製品なのです。新800シリーズの発表は2015年9月でしたからね。もちろん「CM1 S2」のような小型スピーカーでの音質検討も行っています。

ーー HD-AMP1は、USB-DAC「HD-DAC1」と同デザインでシリーズ化されていますが、ファンとしては当然、さらなるラインナップ展開を期待していると思います。例えば・・・。

澤田氏 HD-AMP1とのコンビネーションモデルとなるCDプレーヤーは、実はすでに検討中です。せっかくアナログ入力に自信があるのですから、それを活かせるラインナップ製品は考えています。

ーー 冒頭で、澤田さんが担当する最後の製品と聞いて、ちょっと不安な気持ちになっていましたが、マランツのこの先の展開も、すでにいろいろと進行しているのですね。

澤田氏 それは当然です(笑)。次のサウンドマネージャーは非常に面白い人間ですから、ぜひ期待していただきたいですね。ただHD-AMP1は私が担当する製品としてひとつの区切りになりますし、それだけの内容を実現できたと考えています。

ーー 今日はHD-AMP1のポテンシャルを改めて知ることができました。ありがとうございました。


(構成:編集部 小澤貴信)

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