<2026年オーディオ業界提言>ストリーミングの隆盛で市場が活性化。ハイファイオーディオには「音への信念」を求める
生形三郎2025年のオーディオ市場を振り返りつつ、今年の期待のトピックを整理する<2026年オーディオ業界提言>を今年もお届けしよう。改めて2025年を振り返ると、「良い音とは何か」、「良いオーディオ機器とは何なのか」が、常に頭を巡った1年だったように思う。
ストリーミングの活性化でオーディオ趣味の門戸が広がる
昨年は、政権交代をはじめ、猛暑に端を発する米価格の高騰、トランプ関税による影響など、経済的にも変化の大きい年だった。依然としてインフレが進行する中、低価格でもハイクオリティなサウンドを楽しめる製品が登場したり、Qobuzの日本上陸を契機にネットワーク関連機器やアクセサリー機器が充実し、オーディオ趣味の門戸がまた少し広がった1年であったと実感した。
高音質なロスレスストリーミング・サービスを展開するQobuzは、スマートフォンやパソコンをはじめとするデバイスからのシームレスな再生操作を可能とする「Qobuz Connect」を昨年5月に提供開始し、楽しみの幅を大きく広げた。
加えて、これまでは圧縮音源のみだったSpotifyがついにロスレス(44.1kHz/16bit)配信を9月にスタートさせたことも大きなトピックだった。圧倒的な音源タイトル数や豊富なプレイリスト、そして、快適な操作性を誇るソフトウェアを完備するSpotifyのロスレス対応は、オーディオ市場の拡大に大きな貢献をもたらす可能性がある。
実際、ストリーミング再生対応機器は、5万円前後のWiiM製品から、DEVIALETやBurmesterなど100万円を超える高価格帯のプリメインアンプにまで広がりを見せた。エントリーからハイエンドまで、もはやネットワーク再生の対応は標準化しつつある。
それに呼応する形でネットでアクセサリーも大きな広がりを見せた。機器間の根本的な伝送クオリティを向上させるLANケーブルはもちろんのこと、オーディオグレードのスイッチングハブやアクセスポイント、メディアコンバーターやアイソレーター、LANターミネーター、そして、ネットワーク周辺機器のACアダプター電源をグレードアップさせるDCリニア電源機器の選択肢が大きく広がったことも、大きな動きであった。
ネットワーク再生も、アクセサリーの使用で再生品位を大きく高めることができるが、再生メディアを問わず、機器の価格が高額化する中で、アクセサリーによってクオリティアップやチューニングを楽しめることは、オーディオの楽しみを広げる上で欠かせない存在だと言える。
価格を超えた良質なコンポーネントも多く登場
低価格で優れた音質を実現した驚きのコンポーネントとしては、弩級のフラグシップ「KORE」の思想を最も小さな筐体で実現させたDALIの「KUPID」や、こちらもフラグシッププレーヤーやこれまでの技術の積み重ねを新たな形で昇華させたテクニクスの「SL-50C」が注目であった。両者ともに、サウンドはもちろんデザインまで丁寧に磨かれたものであり、良質なオーディオ再生の楽しみを広く伝えてくれる、実に頼もしい存在だ。
価格ということで言えば、中国ブランドの台頭もトピックと言えるだろう。特に2025年は CDやカセットテープといった物理メディアの注目度が高まり、それらを手軽に再生できる機器が数多く登場していたことも印象的だった。
これらは、レトロブームやデジタルデトックス(スマホデトックス)という意味合いでファッション的な注目も大きいかと思うが、やはり物理的なメディアを手に取って、目で視て味わうという行為は、オーディオにおける根源的な醍醐味の一つであることを再認識させてくれる。
「デザインとしての強い存在感」
同時に、レコードプレーヤーやカセットデッキ、そして、往年のスタイルによる大型スピーカーなどは、ファッション的に見ても映える存在であるが、そこには、デザインとして人の目を惹きつけたり楽しませたりする要素が確かに存在しているとも言える。
それだけに、これからのオーディオ機器のデザインには、洗練さだけでなく、かつてのオーディオ機器に見られたような「デザインとしての強い存在感」が求められるのではないだろうか。
言うほど簡単なことではないものの、例を挙げると実際、QUAD「33」やJBL「SA600」をオマージュした製品が両社から近年リリースされている。それらのオリジナル製品のように、素材の贅や製造の巧みさだけに依らない、プロダクトデザインとして優れた美を持った製品が、今の時代に「普及価格帯やミドルレンジ」に登場してくると、「オーディオ」の存在感は確実に増すだろう。
音楽の本質的な美や躍動を伝える「良い音」
併せて、「良い音」の提供も当然必須となる。しかもそれは、音楽の本質的な美や躍動を愉しませる意味での「良い音」である。
昨今は、例えばAppleなどグローバル系のテクノロジーメーカーが提供するオーディオガジェットに代表されるように、万人に受け入れられる平均的かつ普遍的な心地よさを実現したオーディオ機器が広く浸透している。それらは、従来的なハイファイオーディオとは異なるスタンスで「良い音」を追求、実現していると言える。
そんな中で、「ハイファイなオーディオ」には、これまでにも増して、音楽の美しさや楽しさを、平均的なパラメータから導き出された良い音では到達し得ない、独自の説得力と魅力に溢れる「良い音」で再現する能力が求められていると感じる。
そこには、再生の精度や純度を高めるクオリティの確保だけではなく、そのコンポーネントで聴くからこそ視えてくる世界観や、その機器で再生するからこそ際立つ音楽演奏の実現も欠かすことができない。
無論、それは音楽ソースを尊重したサウンドバランスの上に成り立つものであり、音楽への深い理解や素養が求められるものだろう。そんな、音に対する美学や信念が、いっそう洗練された形で求められていくのが、これからの「ハイファイ・オーディオ」ではないだろうか。
さらに、「良いオーディオ機器」たるためには、機器を操る喜びや、先述したデザインとしての美しさによる彩りなど、趣味性の高いオーディオ装置だけに許された要素の発揮も必要不可欠だろう。
今後は、オーディオビジュアル機器はもちろん、あらゆる機器やサービスへのAIの実装が進むであろうが、そのような時代だからこそ、アナログなメディアや質感の価値が一層高まるものと筆者は考える。
2026年も、そんな魅力的なオーディオ製品と数多く出会えることを、心より願っている。