公開日 2025/03/04 08:26

高音質イヤホンのための新提案「ノウルズ・カーブ」の意義は?CESの最新展示から読み解く

「ハーマン・カーブ」を現代の環境に合わせて発展

ノウルズが提案する新しい高音質イヤホン

今年開催された世界最大のテクノロジー見本市「CES2025」において、ノウルズ(Knowles)が興味深い展示をいくつか行った。その中から本記事では「ノウルズ・カーブ」提案とOWS(Open Wearable Stereo/フルオープン・ワイヤレスイヤホン)提案について紹介する。

「CES2025」におけるノウルズの出展ブースの様子

ノウルズはご存知の通り、BAドライバーのサプライヤーであり、イヤホンに興味のある方ならその名を聞いたことはあるだろう。1946年創業で当初からBAドライバーの開発に携わってきた。補聴器向けの小型・省電力なBAドライバーを約80年前から提供し続けてきたのだ。現在のノウルズにはMEMSマイクロフォン、医療機器・オーディオ関連、そして精密機器用のコンデンサ開発の3つの事業分野があり、売上割合はそれぞれ同程度とのことだ。

ノウルズはCES2025において、ノウルズが提案している「ノウルズ・カーブ」を実装したハイブリッド・リファレンスデザインをいくつか展示した。これらは完全ワイヤレスイヤホンのためのリファレンスデザインである。リファレンスデザインというのはドライバーメーカーが、イヤホンメーカーの製品の手本とするために製作したデモ機のことだ。販売品ではないが完成したイヤホンであり実際に動作するデバイスだ。

現代の楽曲に合わせてイヤホン推奨カーブをさらに進化

「ノウルズ・カーブ」というのはイヤホンの特性曲線のことである。これはオーディオ業界でこれまで高音質のリファレンスとして採用されてきた「ハーマン・カーブ」に対するノウルズの新しい提案である。

イヤホンの推奨カーブとして知られるハーマン・カーブとノウルズ・カーブ。ノウルズの方が若干16kHz付近が持ち上がっている

まず「ハーマン・カーブ」について簡単に説明すると、これに沿った特性であればリスナーが高音質だと感じられるイヤホン・ヘッドホンの周波数特性曲線のことである。もちろん実装はメーカー判断によるものだが、これまでは「ハーマン・カーブ」が高性能のイヤホンのひとつのベンチマークとされてきた。

そこにノウルズが「ノウルズ・カーブ」という新しい提案をした背景として、「ハーマン・カーブ」が提唱された頃は音響カプラーの関係で10kHz以上を測定するのは難しかったということが挙げられる。また高音質に対する考え方も近年変わってきている。ノウルズではこうした点に着目し、最近の音楽において研究をすることでこの特性曲線の再定義を試みた。

海外の「ビルボード200」にランクインした人気のある曲を解析、さらに年齢の異なる70名近くの被験者にダブルブラインドテストでさまざまな曲を聴いて、特性曲線を変えながら研究してみたという。そのノウルズの研究では8kHz以上の帯域が重要で、特に16kHzを12dB上げるのが最適な結果を産むということがわかったそうだ。いままでも中高域用のトゥイーターを追加することで高音質化できることはオーディオ業界では経験的に知られていたが、ノウルズが初めて科学的に定量化したことになる。

ただしこの帯域をイコライザーで上げると歪みや消費電力が増えるために、ノウルズではダイナミックドライバーにBAトゥイーターを追加する設計を提案した。これが冒頭に述べた「ノウルズ・カーブ」を実装したハイブリッド・リファレンスデザインである。

このハイブリッド・リファレンスデザインのひとつである「Knowles KN2」を以前試聴したことがある。「Knowles KN2」はBAトゥイーターに8mmのダイナミックドライバーを組み合わせたハイブリッドデザインを採用、ANCも搭載されている。音の特徴はたしかに中高域が高く伸びていくような音だったが、子音のきつさなどは良く抑えられていた。また低域もタイトで量感があって、リスニング目的として良く出来たサウンドだった。想像していたようなモニター的なモデルではなく、イヤホンとしての完成度が高いものと感じられた。

Knowlesのリファレンスイヤホン「Knowles KN2」
今回のCESではいくつかのこうしたハイブリッド・リファレンスデザインが展示されていたようだ。現在「ノウルズ・カーブ」は、二つのメーカーで実際に完全ワイヤレスイヤホンに搭載されている。今年はさらに採用メーカーが増えるということだ。また、以前執筆したUSoundの記事の中でもUSound社がイコライザーカーブの一つとして「ノウルズ・カーブ」を搭載していたことも注記しておく。

フルオープン型にもノウルズ・カーブを活用

また今回の展示でもうひとつ興味深いものは、今流行のOWS、つまりフルオープン型の完全ワイヤレスイヤホンに関しての展示だ。これもリファレンスデザインが展示されていた。面白いのはフルオープンタイプの完全ワイヤレスは通常音圧を保持するために大口径のダイナミックドライバーが使用されるが、BAドライバーメーカーのノウルズがなぜOWSに対しての提案をしたのかということだ。これも実は「ノウルズ・カーブ」に関係している。

OWSの場合はダイナミックドライバーが搭載されることが多いが、密閉されていないので低域が足りなくなりやすいことはよく知られている。その分でダイナミックドライバーは低域に注力しなければならなくなる。その結果として高域性能が足りなくなる傾向にあるという。これは先に書いたような近年のリスニング嗜好に反してしまうことになる。

つまりその足りない高域を補完するためにBAトゥイーターを追加するというハイブリッド提案をノウルズはしているわけだ。BAドライバーが中高音域を担当することで、ダイナミックドライバーは低域に注力できるようになる。これは実際に製品化に向けて動いているということだ。

ノウルズの提案する「ノウルズ・カーブ」は、従来の「ハーマン・カーブ」を発展させ、最新の音楽リスニング環境やユーザーの嗜好に最適化された新しい基準と言える。特に、高域の重要性を明確にし、それを実現するためのBAトゥイーターとのハイブリッド設計は、今後のイヤホン設計に大きな影響を与えるだろう。さらに、OWSに対するノウルズのアプローチも興味深く、完全ワイヤレスイヤホンの音質向上に向けた新たなトレンドを生み出す可能性がある。今後の製品展開にも注目したい。

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