ハイエンド・ネットワークオーディオの新次元を開く。静寂とダイナミクス、INNUOSの深い音楽性
ハイエンド・ネットワークオーディオの黒船、ポルトガルのINNUOS(イニュオス)が、タイムロードを代理店として国内での取り扱いがスタートした。ヨーロッパやアジアのオーディオショウでも、しばしばリファレンスとしても活用されてきたINNUOS、そのサウンドへは世界的にも評価が高い。今回は、各国のオーディオショウでもそのサウンドに触れてきた山之内 正氏が、INNUOSの位置付けを解説するとともに、中核グレードとなる「STREAM 3」を体験する。
音楽のためにコンピューターを再設計する
INNUOS(イニュオス)はポルトガル南部ファロ近郊に本拠を置くネットワークオーディオ専門メーカーだ。2016年創業の若い企業だが、いまは50か国に販売網が広がり、海外のオーディオショウでもおなじみの存在。知名度は揺るぎないものがある。
その輸出先リストに日本が加わったのはつい最近のことだ。フラグシップの「NAZARÈ(ナザレ)」を筆頭にネットワークトランスポート計5モデル、さらにその周辺機器の大半が一気に入手できるようになった。成長著しい大物ブランドがついに待望の日本上陸を果たしたのだ。
創業から10年と紹介したが、共同創業者の二人、アメリア・サントスとヌーノ・ヴィトリーノがガレージメーカーの規模で開発をスタートさせたのは2009年頃のことだという。リンが「KLIMAX DS」を発売した直後であり、先進的なメーカーがネットワーク再生でハイファイの頂点を目指す挑戦を本格化させた時期に当たる。
アメリアとヌーノどちらもコンピューターエンジニア出身で、ソフトウェアとハードウェアに精通する立場なのだが、PCが主役を担うオーディオには疑問を抱いていたという。そこで、コンピューターを基盤に据えながらも、あくまで音楽を聴くための装置を新たに構築することを目標に掲げ、試行錯誤を重ねていく。コンピューターの長所と短所を熟知する強みを活かし、ゼロから再構築する道を選んだのだ。
ブランド第一弾は2016年発売の「ZEN Mk II」。現行ラインナップの中心モデル「ZEN Next-Generation」につながる重要な製品だ。その後、製品レンジを上下に拡大し、現在はエントリー機の「STREAM 1」から最上位機種NAZARÈに至るラインナップを展開。エントリーとフラグシップの価格差は15倍を超える。ミドルレンジからハイエンドまで、これほど広い製品群を揃えるブランドはきわめて珍しい。
ちなみにブランド名はInnovation through Open Systemsのイニシャルをつないだ造語で、「オープンなシステムで革新を目指す」という同社の設計思想を表している。
OSのカーネルまで踏み込んだ独自設計
INNUOSの設計手法の核心は、音楽再生に照準を合わせて最適化したネットワークエンジンと、独自開発のソフトウェアを組み合わせて相乗効果を生むことにある。
LINUXをベースにしたOSは、カーネルにまで踏み込んで大胆に見直した独自設計で、ドライバーなど他のレイヤーのソフトウェアも必要十分なものだけを動かすミニマム設計を徹底。ハードウェアも同様で、音楽信号に悪影響を及ぼす要素を徹底的に排除し、限界までシンプル化を狙っている。
今回試聴したSTREAM 3も例外ではない。心臓部には第13世代インテル4コアプロセッサーを用いており、オーディオの信号処理に専用コアを割当てることで、ライブラリの管理など他のタスクに起因する干渉をコアのレベルで回避している。
下位モデルのSTREAM 1とは別物の強力な電源回路も重要な役割を演じる。NAZARÈと同様、カスタム・ハイファイケーブル社のショーン・ヤコブス氏が設計した電源回路で、アクティブ整流回路方式を採用。電源トランスは300VAと、ネットワークオーディオ機器としては異例の大容量で、132,000μFに及ぶコンデンサ群はムンドルフ製を奢る。
今回の試聴機はRCA出力とXLR出力をそなえるオプションのDACボード「PHOENIX DAC」を内蔵していたので、単独でネットワークプレーヤーとして試聴する。同ボードはM2techによるカスタム設計で、DACチップはAKM製だが、型名は公開していない。
完成度の高い操作アプリ「SENSE」
INNUOSのネットワーク製品は、サーバー/ストリーマー本体と独自開発の再生ソフト「INNUOS SENSE」を統合して運用することで、INNUOS Music Playerとして完結する。やはりオプションとなるが、専用スロットに最大8TBのSSDを追加することで、大容量サーバーとしての機能も獲得する。
さらに、USBポートに接続したCDドライブを利用したリッピングにも対応する。他のNASからのデータ転送やリッピングもSENSEアプリから操作できるので、ディスクを含む手持ちのライブラリの活用や一括管理ができる製品を探しているなら有力な候補になるだろう。
SENSEを起動すると、NASのデータやストリーミングの再生履歴を統合した自分専用のホーム画面が表示される。SENSEが構築したデータベースに基づいて曲やアーティストの候補を一覧表示する仕組みはRoonを連想させ、実際にRoonに近い使い勝手を実現している。もちろんRoonでの運用もできるが、今回はメーカーの推奨通り、INNUOSとSENSEの組み合わせでプレーヤーに設定して試聴を行った。
SENSEはGUIの完成度が高く、選曲操作にストレスがない。特に、再生中画面から左右にスワイプさせることで、再生履歴とこれから再生する曲の一覧がそれぞれ表示される仕組みが秀逸だ。ありそうでなかった動作だが、反応も速く、快適に選曲できる。
STREAM 3はAmazonミュージックとアップルミュージックを除く主要なストリーミングに対応する。今回はQobuzの音源で試聴を進めた。
アタックが力強く、躍動感のある演奏を引き出す
STREAM 3の筐体は肉厚のアルミ材で組んだソリッドな作りで、非対称配置のフットによる3点支持で12kg超のボディを支える。パネル上を斜めに走るラインはポルトガル西岸ナザレの大波に由来するもので、フラグシップのNAZARÈではそれが3次元形状に再造形される。
非対称ラインが目を引くデザインから想像した通り、最初に聴いたサヴァールの「シューベルト:グレイト」では、ダイナミックで躍動感のあるパワフルな演奏がいきなり目前まで迫ってきた。重心の低さとリズムの俊敏な動きが両立し、前に進む推進力に途切れない。演奏に宿るエネルギーの大きさをここまで実感できるのは、音楽信号を扱うすべてのプロセスで損失や歪が極端に少ないからだろう。特に打楽器や金管楽器のアタックの力強さと発音の速さは目を見張るものがある。
透明度が高く混濁のないハーモニーはフラグシップのNAZARÈと共通するINNUOSならではの美点の一つだ。ジョン・バットによるヘンデル「エイシスとガラテア」の合唱はビブラートを抑えた歌唱ならではの澄んだハーモニーと、歌手一人ひとりの声の音色や表情を細部まで聴き取れる解像度の高さが両立して、小編成の初演版で聴く面白さを堪能した。
テノールとソプラノどちらも最高音域まで澄み切っているが、冷たさはなく、むしろ声の重なりが生む温かい肌触りが心地良い。速いテンポで動き回るオーケストラも細部まですべての動きがよく見えるが、音数が多くても混濁することはなく、聴いていて爽快な気分になった。
BBCフィルの演奏で聴いた「市民のためのファンファーレ」は、大太鼓とティンパニの深い響きと揺らぎのない強靭なアタックがもたらすインパクトが大きい。余韻はあくまで柔らかく、タムタムの一撃の破壊的な大音圧も鋭く突き刺さる硬質な音ではなく、周囲と自然に溶け合う。複雑な倍音成分を含む楽器から、他の楽器と共鳴する響きを引き出すのはINNUOSの製品に共通する長所の一つだと思う。
セリアがピアノ伴奏だけで歌う「ビー・スティル・マイ・ハート」のピアノは低音から中音にかけての深く柔らかい響きが絶品で、ヴォーカルのエモーショナルな表現を際立たせつつ、コード進行だけで感情の動きを伝える繊細さがあり、思わず引き込まれる。余韻の消え方は精妙で、音が消える最後の一瞬まで、音色が荒れたり痩せることがない。その精妙で底の深い静寂はフラグシップのNAZARÈできわまるのだが、STREAM 3もその次元に迫る深々とした静けさをたたえている。
深い静寂表現とダイナミックレンジに感心
STREAM 3はINNUOSのエントリーに位置付けられる製品だが、ベーシックなSTREAM 1とは異なり、強力な電源回路を最初から投入している。Qobuzの音源を聴くなかで特に感心したのは、深々とした静寂表現と、それを基盤とした広大なダイナミックレンジだ。いずれも海外のオーディオショウで体験してきたINNUOSの音の印象と正確に一致するもので、そこに同ブランドならではの強みがある。
そのサウンドに接する機会がこれから増えるはずなので、できるだけダイナミックレンジの広い音源を選び、INNUOSの底知れぬ表現力を体験していただきたい。
。がオプションのPhoenix DACを内蔵してネットワークプレイヤーになっているので、
(提供:タイムロード)

