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公開日 2016/06/30 16:50

GIGA MUSIC独占先行配信!「ドーナツ盤メモリー ヒデとロザンナ」を聴く。ハイレゾで蘇る二人の歌声

連続企画:日本コロムビアのハイレゾ音源レビュー
大橋伸太郎
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音楽配信サイト「GIGA MUSIC」にて、名門・日本コロムビアが擁する選りすぐりの未ハイレゾ化音源が、続々とハイレゾで登場することとなった。しかも独占先行配信。既に様々なアーティストの音源が配信中で、今後も多彩なラインナップが予定されているという。

Phile-webではこのハイレゾ音源を連続レビューする企画をスタート。リリース当時のエピソードや、ハイレゾになったからこそ注目したい聴きどころをたっぷりとご紹介したい。




ドーナツ盤メモリー ヒデとロザンナ / ヒデとロザンナ
96kHz/24bit FLAC
購入ページはこちら



一発屋に終わらなかった虚実共に「運命のカップル」

1968年に「愛の奇跡」が大ヒットし一躍有名になり来日の理由を聞かれたロザンナの答えは「叔父さんを探しに単身やって来た」。これを聞いて当時小学生の筆者もさすがに眉唾臭いと感じた。大勢のイタリア人男性が出征したソビエトや最大の移民先アメリカなら分かるが、叔父さんはなぜ日本にいるのだ? 後になって日本でバンドマンをやっている叔父の勧めで歌手になろうとやって来たことがわかった。レコード会社が売り出しのために事実を少々脚色して物語に変えたのだ。

中肉中背、顔が大きく、黒髪。いかにもイタリア人女性らしい農婦の血を感じさせる親しみやすい容貌。彼女が日本で出会ったのがボサノヴァを歌っていた素朴で快活な若者、出門英。日本の歌謡曲の曲想や曲調がそもそも英米ポップスよりカンツォーネやシャンソンといったヨーロッパのローカルミュージックに近い。

第二次世界大戦の敗戦国同士(涙)。ロザンナが英米の女性だったら女性優位になってしまいこの歌謡曲コンビは成立しなかった。イタリア食といったらスパゲッティとマカロニ(パスタという言葉は当時知られていなかった)くらい。ミラノファッションやインテリアが憧れの的になるのは1980年代になってからだ。復興途上国の純真なつましい庶民の若者同士が出会って恋に落ちる「分相応感」がリアリティを感じさせた。

しかし、ヒデとロザンナ(ヒデロザ)は物珍しいだけの一発屋にならなかった。二人は本物の恋人同士だった。デビユー7年後の1975年に結婚、二男一女に恵まれる。夫のヒデが47歳の若さで急逝する悲劇に見舞われるが、ロザンナ未亡人はテレビタレントとして活動を続け今では六人の孫に囲まれ「マンマ+お母さん」の貫禄すら漂わせる。とうとう再婚はしなかった。

日本コロムビア時代の曲はどれも一組の若者の恋(出会い→恋におちる→別れ→再会→再燃)を歌っている。恋愛の相手は生涯たった一人の一途な恋。暗い曲想がないことも特徴。悲しみはあっても憎しみ、つまり歌謡曲と切り離せない恨み節がない。童貞と処女とまでは言わないが本物の恋は初めて、の絵に描いたような運命のカップル。恋のときめき、切なさを歌い上げる初々しさがヒデロザの歌の世界だ。皮肉なことに出門英の死によってヒデロザの歌った恋物語は永遠不滅のものに封印された。愛し合った男女がいとも簡単に別れてしまう索漠とした現代に、ハイレゾで瑞々しく甦った純真な歌のオアシスを再訪してみよう。


ハイレゾでヴェールを剥いだように二人の歌が瑞々しく甦る

今回ハイレゾ配信が始まったのはヒデロザの日本コロムビア時代の代表曲14曲を集めた「ドーナツ盤メモリー ヒデとロザンナ」だ。全曲(TR15は「愛は傷つきやすく」のカラオケバージョン)1968年から1971年までの楽曲が中心ですべてアナログ録音、初期は4トラック、後期は8トラック録音と推察される。

全曲を聴いて特筆大書したいのは、ボーカルトラックの歪みが消え、若い二人の歌の掛け合いが新鮮さいっぱいに甦ったことだ。ヒデロザは声楽的なバランスでいうとロザンナのソプラノが主体。南欧人らしい強い声帯と胸郭の厚みを活かしたノンビブラートの直線的な強い発声がハイレゾで聴き手にビンビン迫る。カンツォーネのフレージングと歌謡曲のこぶしが一体になった感情表現もヴェールを剥ぎ取ったように鮮やかに現れた。

その結果、歌謡曲という虚構の世界に現実の恋物語がオーバーラップして胸に込み上げる。名門日本コロムビアの誇るバックミュージシャンの演奏もハイレゾで澱を洗い落としたようにフォーカスが決まり、テクニックと歌心が冴えて水際だつ。英米の音楽ばかりに目の行きがちな音楽ファンはぜひともこのハイレゾアルバムに耳を傾けてほしい。

一例を上げるとトラック5「愛は傷つきやすく」、トラック7「ふたりの関係」のベースランニングは、ポール・マッカートニーもかくやと思う程メロディアスでリズミック、よく歌う。表情豊かで思わず聞き惚れてしまった。初々しい歌を腕前確かな手練がしっかり支えている。それではハイレゾで生まれ変わったヒデロザに一曲ずつ耳を傾けてみよう。

■トラック1「愛の奇跡」


B面曲だったが、ヒットの兆しに急遽A面曲に入れ替えた。4トラック録音の時代だ。録音の器が小さく44kHz/16bitは金管、ドラムス等バックの演奏がささって歪んで聞き苦しい。ハイレゾはそれらが改善された。最大の差はバックグラウンドノイズが一掃され音場に奥行きが生まれ二人の初々しい歌がくっきりと力強く立体的に浮かび上がる。ロザンナのたどたどしい日本語が可愛い。芳紀十八歳。これなら誰でも惚れちゃうよね。

■トラック2「何にも言えないの」


この曲は知らなかった。ユニゾン→ソロパートと来てロザンナのイタリア語のモノローグ。アラン・ドロンとダリダの「あまい囁き」に似た展開。ムード歌謡調のリバーブを多く取った音作りでCD44kHz/16bitの音が痩せているのに対しハイレゾは音場表現が大幅に改善、ストリングスやチェンバロが色彩を取り戻し艶やかで美しい。聴かせどころのささやき合いも立体的で発声ポイントが聴き手に近い。ラストのデュエットの分離と寄り添い感も良好だ。

■トラック3「粋なうわさ」


アメリカンポップス風のアレンジで大ヒットした曲。ボーカル定位と音場表現が大躍進。CD44kHz/16bitも悪くないが、ハイレゾはボーカル二人の定位の精度が非常に高い。センターに二人がヒデがやや左、ロザンナがやや右、歌詞中の「相合い傘」の中にいるようにピッタリ寄り添って歌う。ヒデが心持ち下がってロザンナを前に出していることも分かる。つまりCDジャケットの構図そのまま!

■トラック4「愛のひととき」


ヒデの出自のボサノヴァ調というかアントニオ・カルロス・ジョビン風の粋な曲。ボーカル定位を敢えてデフォーカスして浮遊感というかメロウでリラックスした味を出しているが、CD44kHz/16bitはデュエットが拡散気味。ミキシングの企図が仇になって茫洋としてもどかしい。ハイレゾは定位が明瞭化、ヒデの歌がL/Rいっぱいに広がり中央領域にそれよりやや狭く定位するロザンナの歌を包み込みミキシングの本来のイメージがようやく現れた。

■トラック5「愛は傷つきやすく」


チャート1位の大ヒット曲。曲の出来もいいがロザンナの歌の上達がめざましくヒデが置いてきぼりの感。ハイレゾは音場の見通しが改善、先述のエレキベースがL/R中央CD44kHz/16bitより高い定位に音圧のムラなく鮮明に現れ小気味よくビートを刻む。

■トラック7「ふたりの関係」


男女の微妙なズレを歌ったマイナー調典型的歌謡曲。テーマ通りに他の曲に比べユニゾンで二人の声の一体感をあえて避け、L(ヒデ)/R(ロザンナ)のセパレーションをはっきり取っている。ハイレゾ版はユニゾンと各々がセンターで歌うソロパートの定位の変化がすっきり明快。先述のベースランニングもズッシリした音圧を湛えて心地よい。

■トラック8「素晴しい雲」


バート・バカラック調のミュートトランペット(フリューゲルホーンかも)のオブリガートが楽しい脱力系バラード。ハイレゾはノイズリダクション効果で曇りが消え音色が明るく声の地肌が現れた。定位も向上、帯域が伸びた結果二人の声が高く定位し曲名通りに空を仰いで歌い上げる感覚。

■トラック11「望むものはすべて」


バックに珍しくピアノが入っているが、ハイレゾで解像度が増し楽器の音色が大幅に改善されている。音像表現も躍進、リズム楽器を従えストリングスをバックに歌う二人が実在感を伴って現れ、あまり大きくない身長差までが分かる! ほど大幅改善された。

  ◇  ◇  


歌謡曲史上屈指の恋物語ヒデとロザンナをハイレゾで聴き、切なくも幸せな気分になった。作詞家がいて作曲家がいる歌謡曲という虚構の世界だが、シンガーソングライターやニューミュージック、現代のJ-POPのどんな私小説的ラブソングに増して一組の男女の愛のヒストリーの重さがここにある。今回ハイレゾで聴いて日本コロムビアのミキシングディレクターが楽曲毎に歌に描かれた恋の心もようを二人の歌手の微妙なポジション(定位)で表現していたことが分かりプロフェッショナルな仕事ぶりに感激した。歌謡曲は本当にすごい、本当に素敵だ。そうしみじみと感じた。



<試聴時の使用装置>
DAコンバーター:ヤマハ「CD-S3000」のUSB入力を使用
プリアンプ:アキュフェーズ「C-2820」
パワーアンプ:ソニー「TA-NR10」2台
スピーカーシステム:B&W「802 Diamond」
スピーカーケーブル:SUPRA「Sword」
USBケーブル:クリプトン「UC-HR」


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