公開日 2015/11/25 12:00

パイオニアAVアンプの新たな基準となるモデル −「SC-LX89」レビュー

進化の幅が大きく、完成度はすこぶる高い
クラスDデジタルアンプ方式をサラウンドアンプでモノにできたのはパイオニア1社のみだ。過去手掛けたメーカーは何社かあったが継続しなかった。マルチチャンネルサラウンド再生に要求される全チャンネル同時のピークパワー取り出しという点でクラスDデジタルの利は明らかなのに。他社がクラスDデジタルをやらないのは、デジタルノイズ遮断にノウハウとコストが必要であることに加え、音質チューニングのしやすいアナログディスクリート方式で毎年改良を積み重ねる方が新製品効果を得やすいからである。

SC-LX89

独自のクラスDデジタルアンプ「ダイレクト エナジー HDアンプ」を搭載する唯一無二のサラウンドアンプが、パイオニア「SC-LXシリーズ」だ。「SC」は「Sound Creater」を意味する。2007年のSC-LX90(スサノオ)を原器に世代を重ね、2011年のSC-LX85で増幅素子を変更(ICEPower→IR)、この年は音が少し大人しくなったかなという印象があったが、翌年のSC-LX86ですぐ復調、昨年のSC-LX88でドルビーアトモス搭載を果たす。

最新の「ダイレクト エナジーHDアンプ」を搭載

最近某邸を訪問して分かったのだが、SCシリーズを一度使ったユーザーは他のアンプでは物足りなくなってしまうらしい。ダイレクト エナジー HDアンプの瞬発力と音の鮮度が耳と体に焼き付いてしまうのだろう。したがって専門店でのSCシリーズの買い替え時再指名率は非常に高い。国内AVアンプ高級機マーケットで他を寄せ付けない牙城を築いた理由がそこにある。

今期登場のSC-LX89は品番から分かる通り、SC-LXシリーズの集大成だ。目立つ変更は、ドルビーアトモス2年目を迎え11.2ch出力に対応したことだ。昨年のLX88はプリアウトが9chまでだった。本機にステレオアンプ − 例えば同じクラスDデジタルデバイスを積むパイオニアのプリメインアンプ「A-50」等を接続して、ドルビーアトモスホームのフル規格7.1.4構成まで対応が可能だ。映像の新トレンドへの対応も隙がなくHDCP2.2に対応。DTS:Xには今後のファームウェアのバージョンアップで対応予定。後は年末〜年頭のリリースが予想される4K Ultra HD Blu-rayソフトを待つばかりだ。

新規音質パーツをふんだんに盛り込みクラスDアンプの長所を引き出す
「MCACC PRO」でオブジェクトオーディオにも完全対応


SC-LX89の見所は地味ながらアンプの強化にある。ダイレクト エナジー HDアンプへの電源供給用に新型カスタム電解コンデンサーを採用した。パワーアンプ入力部は、小信号をPWM変換するオペアンプ用ICとDirect PowerFETを動作させる大電力部ゲート駆動ICをそれぞれに専用の選別デバイスを使用、小信号部と大信号部を空間的に分離し信号処理場の干渉を排除した。


クラスDアンプならではの特性を引き出す新型カスタム電解コンデンサーを採用

微少信号の高精度処理に貢献する「シールドDC/DCコイル」や、S/Nのさらなる向上を実現する「低ESRカスタムコンデンサー」を新たに搭載した
デジタル回路部に同社ピュアオーディオ用のシールドDC/DCコイルを採用、リーケージフラックスを減少させ微小信号の再現性が向上した。ピュアオーディオパーツ「低ESRカスタムコンデンサー」の追加でS/Nも向上した。他に、磁束ノイズを低減したLX89用専用チューンドトランス搭載、プリパワー部セパレート構造は承前、鋼板でシールドしたパワーアンプシャーシを絶縁体インシュレーターを介しメインシャーシに締結する「インシュレーテッド・デュアルシャーシ」構造で回路間の相互干渉を排除した。

パワー部とプリ部を鋼板で独立させたセパレート構造を採用。パワー部は絶縁二重構造とし、これをインシュレーターを介して筐体のメインシャーシに直接締結している。徹底的なクリーングラウンド化と共振低減が図られている

LFE遅延の解消や位相マネージメントで一歩先んじる同社の自動音場補正機能「MCACC PRO」にも新しい試みが見られる。ドルビーアトモス初年度の昨年、イネーブルドスピーカーを使って再生する場合、180Hz近辺の指向性を感じさせる帯域までサブウーファーに振られるのが問題になった。LX89はハイトチャンネルの重低音はサブウーファーに任せるが、180Hz付近の指向性を感じる「低音」は相関関係にある真下のグラウンドレベルスピーカーに振り当てる。距離測定も直線距離でなく反射を考慮し三角関数で伝達時間を算出するなど二年目に相応しいスマートさだ。

独自の高精度音場補正技術「MCACC Pro」を搭載。ドルビーアトモスや、DTS:X(アップデートで対応予定)といった最新のオブジェクトオーディオ再生にも強い効果を発揮する

他にハイレゾオーディオ面ではWi-Fiを初内蔵。DSD 5.6MHzまでのギャップレス再生も可能になった。

試聴は音元出版の試聴室で行った。オーディオアンプとしてのS/N向上を検証すべくSACD/CD、ハイレゾ再生から始めよう。

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