公開日 2025/04/23 06:30

【インタビュー】ヤマダデンキが強みとする約1,000の店舗網を活かしたOMOでさらなる高みを目指す

ヤマダデンキ インターネット事業部 事業部長 後藤賢志氏に聞く
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トップインタビュー ヤマダデンキ

新型コロナの5類移行や生成AIの急速な進化など、家電ECを取り巻く環境が大きく変化していくなか、全国47都道府県に約1,000の店舗網を構えたOMOを強みとするヤマダデンキのEC事業の取り組みを、同社インターネット事業部 事業部長・後藤賢志氏に聞く。<インタビュアー 音元出版 代表取締役・風間雄介>

株式会社ヤマダデンキ 
執行役員 
インターネット事業部 事業部長 
後藤賢志

プロフィール/19681027日生まれ、山形県鶴岡市出身。TSUKUMO(ツクモ)ブランドでパソコンおよびパソコン周辺機器を販売する株式会社Project Whiteの元代表取締役社長。2009310日 ヤマダグループに入社、202171日よりヤマダデンキ、716日に現職(インターネット事業部長)へ着任。九十九電機時代は、不振店舗の再建、不振地域全体の再建を主に行った。「ほぼ全て再建できましたが、その中では失敗も数え切れないほどあります。始末書の提出数は九十九電機の歴史でNo.1でした。名古屋、大阪、秋葉原で商売を覚え、今も小売業に携わる者としてお客様に鍛え続けられています」

 

 大手プラットフォーマーとの競争が激化する家電EC

―― 新型コロナの5類移行後、リアル店舗もすっかり活気を取り戻していますが、コロナ特需で盛り上がりもみられた家電の概況についてお聞かせください。

後藤 どこの業界もそうですが、やはりコロナが一つの境目になります。2020年にパンデミックとなり、リモートやオンラインによる会議でノートパソコンが、家に居る時間が長かったことから電子レンジなどの調理家電が、また、オーダーカーテンやソファーなどインテリアの需要も伸長しました。

洗濯機ではドラム型の需要が高まるなど、比較的高額で省エネ性能に優れたものが売れましたが、コロナが明けた途端に旅行などに目が向けられるようになると、関連する化粧品やアパレル、アウトドア向きの携帯水筒などが人気を集めており、先ほど申し上げた調理家電やオーダーカーテンの需要はピーク時から減少しています。

一方、円安を含めたさまざまな要素がありますが、電気代の高騰も続いており、省エネ家電や節水機能に優れた家電に対する注目度が高まっています。

もともとはスーパーマーケット業界などから始まった電子棚札の導入も加速していて、店頭の価格を瞬時にECと同じ額に表示できることが可能となり、オンラインとオフラインの融合が進んでいます。家電はもともとEC化率が30%を超える業界で、ネットの記事から情報も得やすいことから親和性も高く、大手プラットフォーマーとの競争はますます激化しています。

―― オンラインでの顧客体験の向上や売上の拡大という観点から、商品情報の提供において、生成AIを活用してオウンドメディアを強化していく動きも見受けられます。

後藤 ヤマダデンキでも生成AIを活用しています。20252月に提供した記事の本数は2,000本を超えており、恐らく大手家電量販店のオウンドメディアの中では最多になると思います。オウンドメディアの充実で自然検索数も増加傾向にあります。

実は、オウンドメディアでは家電量販各社で最後発となります。最初は人が執筆していたのですが、それでは記事本数がいつまで経っても増えず、他社に追いつくこともできない。そこでいろいろ検討していた結果、生成AIを活用して記事の作成代行を行っている会社があり、そこにお願いしました。

そこから一気にペースアップして、一年半余りで約2,000記事にまで増やすことができました。ファクトチェックなどすべての記事にはもちろん目を通しており、監修者をつけるとともに、精通した社内のスタッフも携わり、加筆・修正を行っています。

売れ筋が異なる自社サイトとモールを戦い分ける

―― ECは自社サイトだけではなく、楽天市場やYahoo!のモールにも出店されています。どのような狙い、経緯があったのでしょうか。

後藤 業界No.1はヨドバシカメラさんで、次がビックカメラさん、その後がうちと上新電機さんといったところでしょうか。後発となるなかで、自社サイトだけで1,000億、2,000億の売上げを目指してスタートを切り、楽天市場とYahoo!に出店したのは今から5年前になります。当時の前任者には、ECによる売上げをつくる、知名度を上げるという狙いがあったと想像されます。

これは海外のECでもそうなのですが、自社サイトを先につくってもお客様を呼び込むのは容易ではありません。ところが、楽天やアマゾンといったモールに出店してから立ち上げると、ある程度名前が先に売れるため、自社サイトの立ち上げがスムーズになります。

当社の場合も、初めは子会社であるツクモのECの売上げにも及ばなかったのですが、楽天市場とYahoo!への出店を契機に、翌年からは売上げの数字も上がり、ほどなくしてツクモを追い抜きました。

「あのヤマダデンキが通販をやっているの?」と皆さんにご存じいただけていなかったものが、楽天市場やYahoo!でヤマダデンキにオンラインショップがあることを知っていただいたことをきっかけにして、その後、自社サイトの「ヤマダウェブコム」をご利用いただく方も少なくありません。

ヤマダデンキ公式通販サイト「ヤマダウェブコム」 

現在では、楽天市場やアマゾンなどそれぞれに経済圏が確立されていて、各モールや自社サイトで売れ筋が明確に異なるため、各モールの利用者を自社サイトに誘導してくるのではなく、モールと自社サイトで戦い分けているイメージです。

楽天市場は女性や主婦層が多いと言われますが、実際に調理家電や日用品の売上げはダントツです。Yahoo!はヤフオクに代表されるように、オーディオやデジタルカメラ、パソコンなどの黒物系がよく動きます。

一方、必要とされる多くの聞き取り事がむずかしいことなどから、ECでは大型家電が不向きだとされていますが、自社サイトで一番売れているのは、冷蔵庫や洗濯機など配送・設置を必要とする大型家電です。

ただし、高性能な高額商品は実際に店頭で見てみたい、販売員から話を聞いてみたいという要望が強く、最終的にECで決済するパターンもありますが、店で購入するケースがやはり多くなっています。大型家電のEC化率は30%に満たないですが、年々増えてきています。

AIを活用し、将来はオンライン診療の拠点にも成り得る

―― 既存市場が縮小するなか、環境問題、高齢化、インバウンド、物流問題など、ECを取り巻く環境の変化をどのように捉え、事業の成長を目指していらっしゃいますか。

 後藤 確かに、家電業界の売上げはこれから5年、増えもしなければ減りもしないと言われていますが、そこに影響を及ぼしているのは、人口減よりもむしろ単価が下がっていることが大きいと考えています。

住宅業界でも昨今、分譲で販売する1Kの需要は下がっていますが、賃貸では1K人気が高まっているそうです。すなわち、冷蔵庫なら4ドアではなく2ドア、電子レンジなら温められればいい単機能のものなど、今後、単価の低いものが人気を集める可能性があります。

すなわち、売上規模はあまり変わらないかもしれませんが、数は売れるようになります。数字の見方、アプローチの仕方を変えることで、まだまだ攻めどころのある業界だと思います。

―― 環境問題においては、御社ではリユース家電の工場も構えるなど取り組みを強化されていらっしゃいます。

後藤 全国にアウトレット店も構えており、エコ家電やリユース家電の売上げは年々着実に上がっています。店舗網があることはやはり大きな強みと言え、お客様がお手持ちの家電を持ちこむことも可能ですし、こちらからフォローをすることもできます。

高齢者向けサービスでは、お客様のお宅にお伺いして電球を変えるといったサービスにも対応するセールスエンジニアを配置する店舗も多く、また、身近で歩いていけるヤマダに行けば、販売員と会話を楽しむこともできます。

地域サービスにはもっと踏み込んでいきたいと考えているのですが、昨今、生成AIによる技術革新が進み、最新のサービスが次々にブラッシュアップされています。これから23年もすれば、AIという言葉そのものも使われないくらい、いろいろなサービスが充実してくることが想像され、今はその動向を注視している状況です。

―― AIの活用では今後、どのようなサービスが実現可能になるとイメージされていらっしゃいますか。

後藤 ドラッグストアではすでに取り組んでいますが、ヤマダデンキは今後、オンンライン診療の拠点に成り得ると考えています。全国に約1,000の店舗があり、担えるのは恐らくドラッグストアかコンビニ、そしてうちぐらいではないでしょうか。

全国に約1,000の店舗網を構えるヤマダデンキ 

そこには、車輪がついたスタンドライトのような形をした、あえて人型にしないAIを組み合わせたロボットを配置します。掃除もするし警備もする、カフェにすれば接客も行います。

セルフのガソリンスタンドのように、オペレーション人数は間違いなく減らすことができ、これからの人不足や人件費の上昇にも対応できます。AIは人減らしが目的ではありません。標準化できるものはすべてAI化して任せ、AIでは対応できないものに人間がきちんと対応していくカタチがもっともいいと思います。

ロボットを人型にしないのは、人型にすると表情や仕草を人と比べられ、どうしても物足りなさを感じてしまうのだそうです。人型にしなければ外見で比べられることもなく、AIと人間がより円滑にコミュニケーションを取れると聞いたことがあります。

―― どれだけ寄り添うことができるかですね。

後藤 かつてよく使われたユニバーサルデザインは、どちらかというと健常者の視点でした。引き戸を採用して車椅子でも通りやすくしたユニバーサルデザインのトイレなのに、なぜかゴミ箱が足で踏むペダル式だったという話も珍しくありませんでした。

一方、高齢者を含めた社会的弱者のお困りごとを考え、それを健常者を含めたすべての人に使いやすいデザインにするという考え方がインクルーシブデザインです。iPhoneもそうした考え方をもとに出てきたという話を聞いたことがあります。今後、AIを活用したいろいろな進化が期待されています。

「ヤマダデンキは今後、オンライン診療の拠点にも成り得ると考えています」 

高齢者やインバウンドで来日されている在日外国人の方々など、どうしても生活の上で不便を強いられている「生活弱者・社会的弱者」に対し、もっと充実した生活を送れるような取り組みに、ヤマダデンキの店舗網と組織力を生かしてさらに貢献していきたいと考えています。

ヤマダデンキの大きな強み“店舗網”をどう連携するか

―― サイトのデザインでは、「ヤマダウェブコム」を拝見していると、例えばカートに入れると値段が変わるなど細かいこだわりが随所に見受けられ、「価格交渉をする」というところは思わずポチッとクリックしてみたくなります。

後藤 価格交渉のチャットは、最初はすべて人が対応していましたが、聞かれる内容は価格や納期などに集約できるため、現在は最初の段階は機械対応、そこから先の人でなければできない交渉は、途中から「オペレーターにつなぐ」ボタンが出てくる仕組みになっています。

サイト構造については、お客様にまだまだ不便を強いていますし、カスタマーエクスペリエンスを高めていくために、さらに改善を進めていきます。そこでのヤマダデンキの強みはやはり「店舗網」ですから、どのように融合、連携していくことができるかが重要なテーマになります。

―― 強みであるOMOを推進していく上での課題をどのように捉えていますか。

後藤 まず、オムニチャネルとOMOとの違いについてですが、オムニチャンネルは我々販売側からの視点でお客様の顧客情報が繋がります。お客様がECに買い物に来ても店舗の購入履歴がわかるし、反対に店舗に行ったときにもECで何を買ったのかがわかります。

これに対してOMOは顧客視点です。お客様にとって便利なサービスをつなげてオペレーションを構築していきます。ECで購入した商品を、店舗で受け取れることもできる。店で買い物しているときにECのアカウントもあれば、レジの会計をカードで一緒に決済できるため、店に在庫がなくてもECにあれば一緒に購入して、後日送付してもらうこともできます。

OMOに向かい進んではいますが、これはどこの企業も通られた道だと思いますが、全員が全員、顧客視点、顧客目線になれないという課題が存在します。

つまり、理想のOMOを目指せば、店とECのどちらの売上げかといった議論は不要です。しかし、売上げや責任をはっきりしないとボーナスも決められないといった声が必ず出てきて、いつまで経ってもOMOが完成することはありません。

OMO実現のためには人事評価の評価軸まで変えなければならない。それは経営層が決めることであり、企業文化やそれを育んできた背景によってもまたさまざまな課題があります。どこまで追いかけても手が届かない。しかし、OMOという大きな目標に向かっていくしかありませんから、 仮にそれがオムニチャネルであったとしても、限りなくOMOに近づけられるのであれば、それでいいのではないかと思います。

「ヤマダデンキの強みはやはり“店舗網”ですから、どのように融合、連携していくことができるかが重要なテーマになります」 

―― WEBでの接客はどう進化させていこうとお考えですか。

後藤 実はウェブ接客ツールを導入しようと、この半年の間にもいくつかの会社と話をしています。そこでも、先ほどお話しした高齢者向けの地域サービスと同様に、生成AIによって、提案される内容が次々に進化している現状を目のあたりにしています。そこで、まずは「チュートリアル」というカタチで手を入れることにしました。

要は適切なエスコートできればいいと考えています。シンプルに課題を落とし込み、お客様がどうすればいいか迷っているポイントを探り、そこに吹き出しを入れるだけでもだいぶ違ってくるのではないかということです。

AI接客ツール」と呼べるものが、ここ数年のうちには必ず出てくると感じており、そこで取り敢えずは少しペンディングとして、最新情報をしっかりとウォッチしていきたいと思います。

ヤマダデンキの強みである店舗網を活かしたOMOという大きな目標を目指し、お客様にとってよりよい情報、使いやすい環境を提供して参ります。

 

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