公開日 2016/09/01 11:47

時代を作った「和フュージョン」の名盤群が新リマスターで蘇る! 録音現場の音を再現した立役者とは?

各タイトルの音質もレビュー
袴田氏が引き継いで続ける。「最近はハイレゾの仕事が多いのですが、EQ(イコライジング)のポイントがCDと違います。CDの場合は、CDに押し込んでいった場合を考えて音質のポイントを決めフォーカスをそこに合わせて作っていきますが、ハイレゾはもっと大きい空間で作ります。K2HD PRO MASTERINGを使ってマスタリングすると、CDの場合もハイレゾの音空間になるのです。ここで高田さんと仕事をしているとCDマスタリングしているのでなく、ハイレゾマスタリングしている印象です。

EQのポイント、当たりも自然です。CDだと突っ張りがちなリズム隊の音も、しなやかに弾む響きになってジャズらしいグルーヴ感が出るのです。太く柔らかい音を出す上でK2HD PRO MASTERINGの威力を今回知りました


今回の13作品の中から、野呂一正の「スウィート・スフィア」(1985年発表)についてふれてみよう。

本作はL.A.スタジオサウンドでの録音で、日本に送られてきたのがハーフインチアナログマスターでテープ走行速度30ips(インチパーセコンド)でミックスされています。高域がすごく伸びていてクリアでしたが、低域の太さとビート感が伝わる補正をしました。」と高田氏。リアルタイムを知る当事者らしいマスタリングだ。


アナログからデジタルへ、重要なポイントがヒスノイズ、バックグラウンドノイズ等の除去だ。その点について高田氏に聞いてみよう。

全面的にヒスノイズを取ることはしません。加重な演算処理をしないといけないのでなるべく避けたいのです。イントロの一小節、二小節分の本来静寂であるべき個所でサーと鳴って耳につくといけないのでそれは取っていますし、40年経過したアナログマスターに微細な音の欠損が現れている場合がありますので、逐一埋めて補修しています

それでは、第一期13タイトルの個別試聴の前に、企画のマインドを音楽ファンすべてに伝えて頂こう。スーパーバイザー松下佳男氏(元『ADLIB』編集長)だ。

今回三期を通じて発売の40タイトルは当時ビクターが録音して発売したフュージョン(クロスオーバー)アルバムの一部でしかありません。いやもう、当時の熱気はもの凄いものだった。どこもかしこも、日本中でフュージョン新作をレコーディング中で、ミュージシャンの録音現場に突撃する『それ行け、クロスオーバー』という連載記事を『ADLIB』で毎号やっていたくらいですから。いい作品は他にも沢山あります


一気通貫してハイレゾベースのK2HD PRO MASTERINGを使った本シリーズ。一方でCDという形式への強いこだわりが感じられる。ディレクター星 健一氏(ビクターエンタテインメント)にその理由を聞いてみよう。

星 健一 氏

私自身ハイレゾを手掛けていて好きなのですが、今回はモノとしてカタチのあるシリーズにしたかったのです。ハイレゾ配信で音がいいのは当たり前ですし。今回中身もアナログマスターをそっくり再現しただけでなく、LP時代のライナー、歌詞カードから帯に至るまで一つ残らず再現して完備しました」

「誰がプロデュースして、ビクタースタジオ以外のN.Y.やL.A.を含むどこのスタジオで、誰がレコーディングエンジニアで、どの機械を使って録音して、どんなマスターを使ったか。これだけモニュメンタルな作品になると実は重要なことなのです。録音した時のフォーマットとマルチCHトラック数、マスターテープを回した時の回転速度が15ipsなのか30ipsなのかドルビーシステムが入っているのかいないのか、アルバムのメタデータ(注解)として残す貴重なチャンスなので調べ上げて付属のリーフレットに克明に記載しました


次ページ次は「和フュージョン」第一期全13作品を一挙紹介!

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